国際化特集 インタビュー 2013年(バックナンバー)

, , , , ,

2025年11月20日

・当時の原文のまま掲載しています。ご了承ください。(2013年3月29日掲載)

◇国際化特集◇
「技術障壁が国際競争力のカギ、グローバルに存在感追求」

昭和電工代表取締役社長 市川秀夫氏(2013年発行日当時 原文のまま公開)

 ━日本経済も政権交代で浮上感が見え始めている。

 「景気は気から」とよく言われるが、政権交代に伴い〝気〟が大きく変ったように感じる。日本がようやく国際経済の場に戻ってきたことは、世界全体からも好材料として捉えられている。企業経営の立場から見ても、円高是正が進み、輸出競争力が改善し始めていることは非常に大きい。東日本大震災以降、汎用石化品などについては、タイや韓国からの輸入が急増しているが、為替差が1つの要因となっていただけに、円高是正が進んでいることは国産品の競争力を取り戻す契機にもなる。これまでの為替差による障壁が取り払われ、末端のマーケットも変わっていくことが想定されるため、輸出入といった直接的な側面にとどまらず、我々のビジネス全体に好影響を与えることが期待される。

 ━環境変化に対応した成長戦略の見直しについて。

 2013年後半から2015年までの2年半で早期に成長軌道に戻すため、現在、各事業の戦略を再設計している最中であり、今年の夏場には具体的な計画を発表したいと考えている。中計「PEGASUS」で掲げているハードディスク(HD)と黒鉛電極(GE)を両翼とする基本戦略は今後も着実に推進していくが、当初想定していた将来のポートフォリオについては、急激な環境変化に対応した戦略の見直しを行い、既存事業の再設計を聖域なく進めていく方針だ。日本の産業構造が変化する中で、変化した市場に対してどういったアクセスができるのか、改めて1つひとつの事業で考えていかなければならない。従来であれば、品質の向上とコストダウンを徹底し、比較的大きな変動の少ない国内マーケットに供給を安定的に行うことにより、ビジネスを展開することができていた。しかし、これからの時代は、さらにダイナミックな事業戦略が必要とされている。海外展開を強化するだけでなく、国内でも従来と異なった製造法やマーケット、アプリケーションなどで拡大できる余地は十分にある。それぞれの事業の特性に合ったやり方で、事業の再設計を徹底的に推進し、環境変化に対応した新たな成長軌道を創造していきたい。

 ━主力事業であるHDの拡大戦略と将来性について。

 エレクトロニクス部品は需要の変動幅が大きい事業の1つではあるが、HDは日本の得意とする擦り合せ技術や現場力で製品の付加価値を創出することができる事業であり、今後も競争力を維持していけると考えている。HDの組み立ては欧米系が強みを有しているが、部材に関してはほとんど日本企業が手掛けており、その点からも非常に稀有なビジネスの1つとなっている。こうした強みを最大限に生かしながら、事業環境が悪い時でも、ROS(売上高営業利益率)を安定的に確保できる収益体質を構築し、世界№1ポジションを一段と強固なものにしていく方針だ。

 ━GEについてもグローバル戦略を強化している。

 現在、当社のグローバルマーケットシェアは約12%、年間販売量でいうと10万t強といったビジネスになっている。これまで大町工場(年産6万t)と米国・サウスカロライナ工場(同4万5000t)の二拠点体制で事業を展開してきたが、中国・四川炭素(同2万2000t)の子会社に向けた関係当局の認可も得ることができ、今年3月からは四川昭鋼炭素として事業を開始した。また、米国拠点の増強設備(年産3万t)も来年後半からの稼働開始を計画しており、日本、米国、中国の3拠点体制でグローバル戦略を一段と加速していく。GEについては、HDと比較して投資回収に時間を要するが、一度動き始めると利益率は高く、中長期的に着実に成長し、当社の収益への貢献が期待できる。現在、GEが多くを占める無機セグメントでの売上高は650億円程度だが、中国拠点の追加と米国拠点の増強に伴い、当社の生産能力は一気に1.5倍まで拡大するため、将来的には当社連結売上高の7~8%を占めるような事業にしていきたい。また、当社が強みを有しているのは、大口径で品質が求められる領域である。子会社化した四川昭鋼炭素においても我々の技術を移植し、ボリュームゾーン品の中でも品質で差別化を図らなければ、グローバルマーケットの中で決して長持ちはしない。

 ━そこに国際競争力を維持する核がある。

 私はバルクケミカルで海外展開を進める時代は残念ながら終わりを迎えたと思っている。特に、汎用技術で資金さえあれば最新鋭プラントを立ち上げられるような製品については、中国などが大増設に動けば一気に競争力を失ってしまう。それだけに、技術的障壁があるもの、あるいは独自の触媒技術などで強みを発揮できるものでなければ、これから拡大が見込まれる市場であっても国際競争力を維持していくことは難しいだろう。そういった点からも、当社のHDとGEはグローバルに展開し続けることができる事業だと考えており、引き続き拡大戦略を加速していきたい。そして、事業規模が小さくても世界№1を狙える製品群を積極的に投入していくことが、当社の新たな成長にとって非常に重要だと考えている。

 ━今後、世界№1製品として期待される領域は。

 例えば、リチウムイオン電池(LiB)関連部材は、当社の強みが発揮できる領域だ。特に、LiB用のアルミラミネート包材は他社にはない独自技術を有しており、世界№1クラスのポジションにある。現時点の事業規模は小さいが、LiBの需要は急激に伸びることが想定されるため、今後の成長が期待できる。こうした強みのある製品を集め、グローバルに存在感のある企業を目指す。

 ━グローバル展開を強化すると同時に、石油化学など既存事業の再設計も推進する。

 当社の石油化学事業については、今後の方向性は明確になっている。大分コンビナートは、地域的にスタンドアローンであり、誘導品を充実させ、プロピレン、BTX、C4といった領域でいかに付加価値をつけて展開できるかが、最大のテーマであることに変わりはない。誘導品については、コンビナート内はもちろん、海外を含めた他社との提携を積極的に模索し、いかにそれを充実させていくかが、当社の石油化学事業が生きる道だと考えている。もはやエチレンやプロピレンを輸出して収益を上げるような時代は終焉を迎えているため、国際競争力のある誘導品の展開を強化し、ROSで3.5%を安定確保できるような事業体系を目指していきたい。

 ━米国のシェールガス革命が化学産業に与える影響について。

 まず、電力を含めたエネルギーコストで米国が圧倒的優位に立つことで、製造業の競争力が向上し、米国経済の復活につながる。これは世界経済全体にとっても、中長期的に好材料となるだろう。そして、化学産業にとって大きな影響を与えるのは、エチレンの価格体系が変わることだ。米国と中東からコスト競争力の高いエチレン製品が輸出されることになるだろうが、米国のシェールガス由来のエチレンが全世界を席巻することはないだろう。なぜなら、現時点でシェールガスの価格は3.5~4ドル/100万BTUなのに対し、サウジアラビアの随伴ガスはコントラクトベースで0.75~1.5ドル/100万BTUとなっており、依然としてコスト面では中東の優位性が高い。ただ、世界の市場構造は確実に変化することが想定されるため、当社もエチレンではなく、他の留分展開で安定収益を確保できる事業体系に思い切って再設計していかなければならないと考えている。

 ━環境変化に対応した事業の再設計を経て、昭和電工の目指す企業像とは。

 大きな社会トレンドを的確に見極め、そこに商機を見出していくことが、当社の将来にとって非常に重要だと考えている。例えば、国内では少子高齢化、社会インフラの更新、農業改革といった大きなトレンドがあり、そこには必ずビジネスチャンスがある。ただ、素材や部材メーカーは、例えばLEDなどの特定の製品をどこかに使用できないかと考えがちだが、それはやはりプロダクトアウト側の発想だ。優れた製品を作り込むことから始めるのではなく、まず社会の大きなトレンドを掴み、それに適合する素材、部材をいかに創出していけるかを考えることが重要だ。当社はこうした社会トレンドを的確に掴んだ事業ポートフォリオの構築を進め、独自技術をベースにグローバル市場で存在感のある企業を目指す。