東レはこのほど、「有機EL絶縁膜用ポリイミド(PI)コーティング剤の開発」について、文部科学省より「令和2年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞開発部門」を受賞した。同社が長年培ってきた感光性ポリイミド技術を深化させ、有機ELディスプレイの発光信頼性と同パネルの生産性を著しく向上したポジ型感光性PIの開発が評価された。
有機ELディスプレイは、薄型・軽量・動画表示に優れ、テレビやスマートフォンなどへの搭載が急拡大している。その部材である有機EL発光層は水分や不純物ガスに極めて敏感で劣化しやすいため、アウトガス発生の極めて少ない長期信頼性に優れる画素分離絶縁層が必要不可欠。
また、有機ELディスプレイを大量生産するには、フラットパネル生産工程で同絶縁膜を少量で塗布できるスリットダイコーティング法(ノズルで吐出コーティングする方式で、基板サイズは最大10㎡程度)が適しているが、従来のPIコーティング剤では塗布ムラなどの外観品位が悪く、この方式は適用できなかった。
同社は、化学的に安定で耐熱性に優れるPI材料技術を深化させ、PI前駆体樹脂、感光剤および溶剤から成るPIコーティング剤に、沸点の異なる溶媒を特定比率で組み合せることにより、高い信頼性と量産性を両立させた有機EL絶縁膜用PIコーティング剤を開発。
同開発品は、従来のスピンコーティング法(中央に滴下した塗液を回転させながら全体へ塗り広げる方式で、基板サイズは一般に0.5㎡以下)用PIコーティング剤と比べ、10分の1の塗布量で生産することが可能。外観品位に優れたスリットダイコーティング用の感光性PIを世界で初めて商業化し、広く採用されている。
今回受賞した技術は、有機ELディスプレイの大量生産と普及拡大に貢献すると同時に、塗布廃液ロスの劇的な削減を実現しており環境調和にも寄与している。また有機ELディスプレイはフレキシブル化が可能で、折り曲げ型端末、ウエアラブル端末、車載用途など、多彩な曲面デザインの実現による市場拡大が期待されている。
同社は感光性PI技術をさらに深化させ、有機ELディスプレイのさらなる普及と社会の発展に貢献していく考えだ。