【ポリアセタール特集1】(総論)

2021年4月14日

足元は需給タイト、環境対応や用途展開が課題

 ホルムアルデヒドを重合して作られるポリアセタール(POM)は、60年近い商業実績があるエンジニアリングプラスチック。世界市場では、セラニーズとポリプラスチックスが二大メーカーで、デュポン、韓国エンジニアリングプラスチックス(KEP)、三菱エンジニアリングプラスチックス(MEP)、コーロン、BASF、旭化成などが続く。中国のローカルも入れると世界に十数社、生産能力の合計は150万t程度と見られる。

 昨年は業界内で動きがあった。ポリプラスチックスは、親会社であるダイセルがセラニーズの出資を引き取り完全子会社化。また、セラニーズと三菱ガス化学の合弁会社であるKEP(年産14万t)は両親会社への製品供給専業になり、セラニーズはアジアでの供給能力を高める結果となった。ここ数年の動きでは、BASFがドイツでの製造を停止し、コーロンとの合弁会社(韓国)の工場(同7万t)に集約、また、セラニーズとSABICの合弁会社Ibn Sina(同5万t)がサウジアラビアにおいて稼働を開始している。なお、新設計画が多い中国ローカルメーカーについては、実際に稼働しているのは3社程度のようだ。POMの世界需要は年間125万t程度と見られ、地域別では、中国が50数万t、その他アジアと欧州が各々25万t前後、米州が十数万t、日本が9万t程度と推測される。近年では、需要の伸びが見込まれる中国やアジア市場で各社の競争が激化している状況だ。

 POMは結晶性が高く機械物性、耐摩擦・摩耗性、耐薬品性に加え、成形性にも優れる。また、エンプラの中では比較的安価であることから、幅広い分野で使われている。主な用途として、低摩擦・摩耗、低騒音を生かした電子・電機用途のギアや、摺動性を生かした衣料用途のファスナー、耐油性を生かした燃料系部品などが挙げられる。

 分野別にみると、様々な部品で使用される自動車向けの割合が高く、世界全体で約40%、日米欧では60%前後を占める。自動車1台あたりの使用量は約4.5kgと推定されるが、今後EV化の加速により燃料系部品用途が減少してくる可能性もある。こうした中、各社は新規用途開拓を模索し、コンパウンド技術による高性能化・高機能化に注力。さらに新たな取り組みでは、環境対応として、使用済となった製品のリサイクルや、再生可能な原料への転換なども検討を進めているようだ。

 一方、需要については、昨年前半はコロナ影響で大きく落ち込んだものの、自動車生産の回復に伴い年後半には急回復した。特需により需給バランスはタイトな状態が続き、生産は対前年比プラスで推移している。とはいえ、長期的に見れば、世界平均で年率3%程度の市場成長になる見通しだ。

 

 

【ポリアセタール特集2】ポリプラスチックス

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2021年4月14日

欧米市場開拓に注力、ダイセルとのシナジー追求

 ポリプラスチックスはポリアセタール(POM)を「ジュラコンPOM」として展開する、世界シェアトップのメーカー。昨年にはダイセルの完全子会社となり、ダイセルの成長けん引の一翼を担うこととなった。

 ポリプラは1964年にダイセルとセラニーズの合弁で設立。主力製品であるPOMは、富士工場の10万tを皮切りに、1988年に台湾・高雄工場の2.5万t、2000年にマレーシア・クアンタン工場の12万t、2005年に中国・南通工場内で4.2万t(引き取りベース)と拡張し、現在の生産能力は約29万tとなっている。足元では世界市場のPOM需要が高まりを見せている。同社は拡大する市場に応えるため、中国での9万t規模の増設を計画しており、市場プレゼンスを一層高めていく方針だ。

 販売戦略では、2012年以降、欧米へ事業拠点を設置し、グローバル展開を加速させた。高いシェアを握っているアジア市場の維持・拡大だけではなく、欧米市場での新規開拓・シェア拡大に注力している。欧米での活動は、POMが広く採用されている自動車部品向けに、欧米系OEMへの参入を目指し、米国とドイツにテクニカルソリューションセンターを開設。技術サポートと併せてスペックイン活動を進める中で、日系OEMとは異なる要求特性への対応や、信頼性データの提出を進め、徐々に採用事例が増えてきている。

 一方、同社は自動車分野以外の用途開拓にも力を注ぐ。その背景として、欧州や中国を中心にEV化が進み、POMの主要用途である燃料系部品が減少する可能性も出てきたことが挙げられる。食品接触用途向けでは「M90-57/M270-57」を開発し、世界的な市場展開を図っている。さらに直近では医療分野へのアプローチとして、新たに「PMシリーズ」の販売を開始。すでに薬事用などで広く利用されているCOC樹脂「TOPAS」とともに、医療分野にソリューションを提供していく構えだ。

 同社は、今年1月に富士工場にマザー工場としての機能をもたせた「F-Base」を開所し、運用を開始した。グローバルで生産、技術、保全、検査、物流、安全の監視を強化し、また隣接する研究開発部門との連携を高め技術革新の創出につなげる。ポリプラは、ダイセルの長期ビジョンの中で新ダイセルの象徴的な役割を担っており、成長領域でのシナジー効果を追求していく方針だ。

 

【ポリアセタール特集3】三菱エンジニアリングプラスチックス

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2021年4月14日

自動車向け高機能グレード開発、OEMなどに攻勢

 三菱ガス化学(MGC)と三菱ケミカルの合弁会社である三菱エンジニアリングプラスチックス(MEP)は、MGCからポリアセタール(POM)樹脂「ユピタール」の供給を受け、樹脂の販売とコンパウンドの製造・販売を行っている。

 同社のPOM樹脂の供給能力は、主に国内向けに供給する四日市工場の2万t、中国を中心にグローバルの輸出拠点であるタイポリアセタールの10万tに加え、中国PTMエンジニアリングプラスチックス(ポリプラスチックス、セラニーズ、韓国エンジニアリングプラスチックスとの合弁)の取り分を勘案すると、年間能力は13万tで世界第5位を占めている。

 POMは摺動性と機械強度に特長があり、約8割はレジンとして販売される。残りの約2割がコンパウンドした特殊グレードとなるが、POMメーカー各社は、配合組成や製造技術などで差別化・高機能化を図っている。市場としては、POMの浸透率が高く、市場成長率がGDPにリンクしているアジア市場の成長が期待されるが、メーカー各社の競争が年々激化している状況だ。 事業環境を見ると、昨年の需要はコロナ禍の影響を受けた春先に落ち込んだものの、中国経済が立ち直ってきたことで後半から受注が急回復した。自動車向けに加えOA関連も伸びており、この状況が4月以降も続くとの見方が強い。

 MEPは、これまで自動車向けの出荷比率が低かったが、摺動性、耐久性、成形加工性を向上させた高機能グレードを開発し、OEMや部品メーカーに提案するなど攻勢をかけている。今後はこれらの特性を食品や水回り、OA機器、雑貨などにも展開させていく。さらに医療関連用途への進出も視野に入れており、規格対応などにも取り組む考えだ。

 一方、環境対策は各社にとって無視できないテーマとなっている。MEPはサプライチェーン全体で取り組む構えで、親会社と協力しながら、リサイクルや原料の見直しなどできることから進めていく。また安全面では、ホルムアルデヒド発生によるVOC問題がある。同社は、製造技術の最適化によりホルムアルデヒド量を半減させる技術開発に成功。成型時の金型の汚れが減少する効果もあり、金型メンテナンス回数の削減によるコスト削減への貢献も大きい。コスト競争力を維持したまま製品の機能・性能を向上できるため、今後のシェア拡大が期待される。

 MEPは、高付加価値と環境経営に指針を取っている。新たな需要の探索や環境配慮型材料の提案を強化することで、高機能グレードの比率を50%に高めていく考えだ。

 

【ポリアセタール特集4】旭化成

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2021年4月14日

足元はフル稼働継続、ロボット分野への展開検討

 ポリアセタール(POM)を「テナック」「テナック-C」の製品名で展開している旭化成は、ホモポリマーとコポリマーを世界で唯一生産・販売するメーカー。ホモポリマーを製造しているのは旭化成とデュポン(年産15.2万t)の2社のみであり、機械特性に優れていることから、自動車のギア関連市場では独壇場となっている。

 同社の生産能力は、国内の水島製造所が年4.4万t(ホモポリマー2万t、コポリマー2.4万t)、中国(張家港)が2万t(コポリマー)の合計6.4万t。大手メーカーに比べ規模は大きくないものの、技術力を生かして差別化と高付加価値化に注力しており、POM市場で存在感を高めているようだ。

 同社の事業環境を見ると、昨年前半はコロナ禍の影響で販売量が前年比60~70%程度に落ちこんだ。しかし自動車産業の回復と共に需要が急回復し、

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