富士フイルム 米国で治療用iPS細胞新生産施設を稼働

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2020年3月18日

 富士フイルムの発表によると、米国子会社で、iPS細胞の開発・製造・販売のリーディングカンパニーであるフジフイルム・セルラー・ダイナミクス(FCDI社)は、cGMPに対応した治療用iPS細胞の新生産施設「i‐FACT」を、今月4日から稼働させた。

新生産施設の外観
新生産施設の外観

 今後、「i‐FACT」で生産したiPS細胞を用いて自社再生医療製品の開発を加速させるとともに、同施設を活用した、iPS細胞およびiPS細胞由来分化細胞の開発・製造受託も展開していく。

 再生医療は、アンメットメディカルニーズへの新たな解決策として注目されている。その中でも分化万能性と無限増殖性を持つiPS細胞を活用することで、多様な細胞を大量に作製できることから、iPS細胞による治療の実用化に対する期待が高まっている。

 現在、FCDI社は、加齢黄斑変性や網膜色素変性、パーキンソン病、心疾患の領域で自社再生医療製品の研究開発を推進。またがん領域では、米国有力ベンチャーキャピタルのVersant社と設立した新会社Century社にて、他家iPS細胞由来のCAR‐T細胞を用いた次世代がん免疫治療薬の開発を行っている。

 今回稼働させる「i‐FACT」は、開発ラボを兼ね備えた、治療用iPS細胞の生産施設だ。「i‐FACT」は、大量培養設備のみならず、少量多品種培養設備を導入。さらに、FCDI社がこれまで培ってきた世界トップレベルのiPS細胞の初期化・分化誘導技術や、富士フイルムが持つ高度なエンジニアリング技術・画像解析技術なども生産施設に投入することで、iPS細胞の高品質・高効率生産を実現する。

 「i‐FACT」は、他社との協業にも対応できる、複数の開発ラボ(四室)や製造クリーンルーム(3室)を設置。各開発品に適した、製造のスケールアップ・スケールアウトの技術開発を行い、製造ラインにスムーズに移管することで、効率的な多品種生産を実現する。また、製造ラインに備えた品質評価室ではiPS細胞の品質を高精度に評価し、高品質なiPS細胞を安定的に生産することができる。

 なお、「i‐FACT」は、富士フイルムグループの中で、治療に用いる再生医療製品の生産拠点としては、日本で初めて再生医療製品を開発・販売したジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J‐TEC)の本社工場に続き、2拠点目となる。FCDIは、自社再生医療製品の開発を進めるとともに、製薬企業やアカデミア向けの創薬支援用iPS細胞由来分化細胞の事業展開も加速させている。

 今後も、富士フイルムをはじめ、細胞培養に必要な培地の開発・製造・販売を担うFUJIFILM Irvine Scientificや富士フイルム和光純薬、J‐TECなど、富士フイルムのグループ各社の技術とノウハウを活用することで、再生医療の産業化に貢献していく。

富士フイルム 米バイオ研設立、日米両拠点で開発を推進

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2019年12月10日

 富士フイルムはこのほど、米国に「バイオサイエンス&エンジニアリング研究所(アメリカ)」(米バイオ研)を設立し、今月から研究活動を本格的に開始した。

 再生医療や遺伝子治療などバイオ医療分野の研究基盤をさらに強化するため。「米バイオ研」は、バイオ医療の基礎研究から生産プロセス開発までを一貫して行うとともに、細胞を用いた新たな創薬支援の基盤研究を担う研究所。細胞と培地との一体的な研究を推進する中で、同社が長年培った画像解析技術や最先端のAIやICT技術などを活用していく。

 具体的には、細胞代謝や遺伝子発現の解析などのバイオインフォマティクス(生命情報科学)、遺伝子編集技術などのセルエンジニアリング、製造の自動化技術、細胞を用いた新たな創薬支援技術などの研究に取り組む。

 昨年3月には、富士フイルム先進研究所(神奈川県足柄上郡)内に、細胞研究者や生産プロセス開発者を集約して「バイオサイエンス&エンジニアリング研究所」(バイオ研)を設立。バイオ医薬品やiPS細胞、再生医療製品、培地などグループ会社がもつ最先端技術とノウハウを結集・融合させて、バイオ医療の先進的な研究開発を行っている。

 今後は、日本と米国のバイオ研が連携を図ることで、2拠点体制でバイオ医療の研究を強力に推進し、グループの研究開発力をさらに高めていく考えだ。

 

富士フイルム ペプチドの開発・製造受託サービスを開始

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2019年10月1日

 富士フイルムはこのほど、ペプチドの開発・製造受託サービスを、10月1日から開始すると発表した。同サービスは、同社が独自に確立した製造手法を使い、ペプチドの生産プロセス開発から製造までを受託するサービスで、今後需要が高まるペプチドの高機能化や高純度化に対応する。

 ペプチドはアミノ酸が2~50個程度結合したタンパク質の断片で、医薬品や機能性食品、化粧品などに使用されている。一般的に生体内に存在する20種類のアミノ酸(天然アミノ酸)を組み合わせて合成されるが、複雑な構造を持ったペプチドの合成は困難であり、またペプチドの純度を高めるための合成後の精製工程に大きな作業負荷が発生するという課題がある。

 さらに最近では、生体との相互作用を活用したバイオマテリアル(生体材料)などの先端研究で、非天然アミノ酸を結合させ新たな機能を付与したペプチドを応用する取り組みが増えており、ペプチド合成の難易度がますます高まっている。

 同社は、少量多品種生産に最適な固相合成法による製造手法を確立し、グループ会社の試薬製品に応用してきた。

 さらに、大量生産に適した液相合成法に精緻な反応制御のための独自材料を組み合わせた新たな製造手法を開発。高純度のペプチドを得られる合成工程を実現し、精製工程の大幅な短縮を可能にした。

 新手法を使い、合成が難しい高機能ペプチドや高純度ペプチドを生産できることを確認。直鎖ペプチドでは98%以上、合成過程で用いる酸に対して分解しやすい特殊環状ペプチドでも90%以上の高純度の生産を、精製作業を行うことなく実現している。

 今回、固相合成法・液相合成法による製造手法を用いて、ペプチドの合成・精製などの生産プロセス開発から製造までを受託するサービスを、富士フイルム和光純薬を通じて開始。合成が困難な高機能ペプチドや高純度ペプチドなどをスピーディーに提供できる強みを生かして、幅広い顧客ニーズに応えていく。

 今後、ペプチドを使った医薬品候補化合物の臨床応用ニーズに対応するためにGMP製造設備の整備も検討し、さらなるサービス拡大を図っていく。富士フイルムは、先進・独自の技術により画期的な高機能材料を開発・提供することで、新分野の研究開発の促進、高付加価値製品の創出などに貢献していく考えだ。

富士フィルム 豪・再生医療ベンチャーと独占ライセンス契約

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2019年9月19日

 富士フイルムはこのほど、オーストラリアの再生医療ベンチャーCynata Therapeutics Limited(Cynata社)と、同社が開発中の再生医療製品「CYP‐001」の開発・製造・販売に関する独占ライセンス契約を締結したと発表した。

 「CYP‐001」は、他家iPS細胞由来間葉系幹細胞を用いた再生医療製品で、Cynata社が骨髄移植後に発症する合併症「移植片対宿主病(GvHD)」を対象に企業治験を進めているもの。富士フイルムは、GvHDを対象とした、同製品の全世界における独占的な開発・製造・販売権をCynata社より取得し、まずは日本で企業治験を2020年中に開始する計画だ。

 再生医療は、アンメットメディカルニーズへの新たな解決策として注目されている。その中でも分化万能性と無限増殖性を持つiPS細胞による治療は、多様な細胞を大量に作製できることから、実用化への期待が高まっている。

 GvHDは、白血病などの治療で骨髄移植を行った後に発症する重篤な合併症。移植された骨髄由来のリンパ球などの免疫細胞が免疫応答により患者の体を異物として認識し攻撃することで、全身に炎症が起こる。通常、免疫抑制剤などで治療を行うが、約半数で効果が見られず、最悪の場合、死に至るアンメットメディカルニーズの高い疾患だ。

 Cynata社は、富士フイルム子会社でiPS細胞の開発・製造のリーディングカンパニーであるフジフイルム・セルラー・ダイナミクス(FCDI)が供給したiPS細胞を間葉系幹細胞に分化誘導して「CYP‐001」を作製。2017年には、iPS細胞を用いた再生医療製品の企業治験では世界初となる同製品の臨床第Ⅰ相試験を、GvHDを対象に英国よび豪州で開始した。

 富士フイルムは、2017年に、同製品の開発・製造・販売ライセンス導入などを目的にCynata社へ出資。今回、Cynata社が実施した臨床第Ⅰ相試験で、安全性の評価項目が達成され、さらに皮膚の湿疹や消化器官の異常などGvHDの症状が改善される効果がみられたことから、同製品の開発・製造・販売権の取得を決定した。

 富士フイルムは、FCDIにて、アンメットメディカルニーズの高い加齢黄斑変性や網膜色素変性、パーキンソン病、心疾患などの領域でiPS細胞を用いた再生医療製品の研究開発を推進。今後、FCDIのみならず、グループ会社の技術・ノウハウを活用して、事業拡大を図るとともに、再生医療の早期産業化に貢献していく。

富士フイルム iPS細胞を用いた創薬支援分野の協業を開始

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2019年7月16日

 富士フイルムはこのほど、アクセリードとiPS細胞を用いた創薬支援分野での協業を開始したと発表した。

 富士フイルムのiPS細胞由来製品とアクセリードの化合物評価・解析サービスなど、両社の技術や製品・サービスを組み合わせることで、顧客提案力のさらなる強化を図るとともに、新たな評価方法やサービスの開発を目指す。

 昨今、新薬の研究開発では、多額の費用がかかる臨床試験前に、医薬品候補化合物の安全性や有効性、薬物動態などをより効率的かつ高精度に評価したいというニーズが高まる中、無限増殖性と多様な細胞に分化する性質を持つiPS細胞が新薬の研究開発ツールとして注目されている。

 iPS細胞は、狙った細胞に分化誘導させて、その細胞(iPS細胞由来分化細胞)を用いることで、ヒト生体に近い環境を再現できるため、医薬品候補化合物の評価に活用される事例が増えている。

 また、iPS細胞由来分化細胞を用いた安全性試験の標準化に向けた取り組みも進んでおり、iPS細胞のさらなる需要拡大が見込まれている。

 富士フイルムは、iPS細胞の開発・製造のリーディングカンパニーである米国子会社フジフイルム・セルラー・ダイナミクス(FCDI)を通じて、iPS細胞由来の心筋細胞や肝細胞、ミクログリア細胞など15種類の創薬支援用iPS細胞由来分化細胞を、全世界の製薬企業やアカデミアなどに販売し、多様な顧客ニーズに応えるとともに、iPS細胞を用いた新薬開発の普及に取り組んでいる。

 アクセリードは、創薬ターゲットの探索から医薬品候補化合物の最適化、さらには臨床開発への橋渡しプロセスまでの総合的な非臨床創薬研究サービスプロバイダー。現在、創薬研究をプロジェクト単位で請け負う統合型創薬研究支援サービスなど特徴的なサービスを展開し、事業拡大を進めている。

 今回、両社は技術や製品・サービスを組み合わせた協業を通じて、iPS細胞を用いた創薬支援分野での顧客提案力をさらに強化する。さらに、両社の技術・ノウハウを活用して、顧客のきめ細かなニーズに応じた評価方法やサービスの開発も行い、顧客が進める新薬の研究開発の効率化・迅速化に貢献していく。

 今後、培地のリーディングカンパニーであるフジフイルム・アーバイン・サイエンティフィックや総合試薬メーカーである富士フイルム和光純薬の持つ培地・試薬なども組み合わせた、創薬支援分野でのさらなる協業も検討していく。

 

 

富士フイルム 培地生産で欧州に新工場を建設、世界3拠点体制に

2019年7月5日

 富士フイルムはこのほど、欧州拠点のフジフイルム・マニュファクチャリング・ヨーロッパ(オランダ)に、培地を生産する新工場を建設すると発表した。

 投資額は約30億円。今年中に着工し、2021年内の稼働開始を予定。欧州では初となる培地生産工場を建設することで、日米欧の3拠点体制にし、細胞培養に必要な培地のさらなる事業拡大を図る。

 新設するのは、cGMPに対応した培地の生産工場で、北米に次ぐバイオ医薬品製造企業の集積地である欧州に現地生産体制を整える。

 cGMPとは、米国FDA(食品医薬品局)が定めた医薬品や医薬部外品の、最新の製造管理・品質管理規則のこと。これにより、受注から納品までのリードタイムを短縮し、顧客サポート力を強化するとともに、伸長する培地需要に対応していく考え。

 新工場では、日米の生産拠点と同様に動物由来成分を含まないカスタム培地を生産し、バイオ医薬品製造や再生医療などの用途に提供する予定だ。培地は、細胞の生育・増殖のための栄養分を含んだ液体や粉末状の物質で、バイオ医薬品や再生医療製品などの研究開発・製造時の細胞培養に必要不可欠なもの。

 現在、抗体医薬品を中心としたバイオ医薬品の需要増加や、細胞を用いた治療法の拡大に伴い、培地市場は拡大しており、今後も年率約10%の伸長が見込まれている。

 富士フイルムは、2017年に総合試薬メーカーの和光純薬工業(現富士フイルム和光純薬)を買収し、培地事業に参入した。2018年には、培地のリーディングカンパニーであるアーバイン・サイエンティフィック・セールス・カンパニー(現フジフイルム・アーバイン・サイエンティフィック)を買収し、培地ビジネスを拡充させた。

 現在、高い研究開発力や品質管理力により、顧客ニーズにあわせた最適なカスタム培地などを開発・提供する。また、日米に保有するcGMP対応の生産拠点を活用し、全世界の製薬企業やバイオベンチャー、アカデミアなどに製品を供給している。

 今後は、日米欧の3拠点体制の下、高品質な培地を安定供給し、顧客満足度をさらに向上させていく。

 

富士フイルム 米社とiPS細胞によるがん免疫治療薬の開発を開始

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2019年7月4日

 富士フイルムはこのほど、がん免疫療法に他家iPS細胞を用いた次世代がん免疫治療薬の開発を加速させるため、iPS細胞の開発・製造のリーディングカンパニーである米国子会社フジフイルム・セルラー・ダイナミクス(FCDI)と、医療分野における米国有力ベンチャーキャピタルのVersant社が、新会社Century社を設立し、他家iPS細胞を用いた次世代がん免疫治療薬の開発を開始した。なお、同開発には、大手製薬企業バイエル社も参画し開発費用を拠出している。

 がん免疫療法は、生体の持つ免疫機能を高めてがん細胞を排除する治療法で、延命効果や症状の緩和が期待できることから、がん免疫治療薬の研究開発が活発化している。

 なかでも、現在注目されている、CAR‐T胞を用いたがん免疫治療薬は、免疫細胞であるT細胞にCAR遺伝子を導入することで、がんに対する攻撃性を高めた医薬品。すでに米国では、自家CAR‐T細胞を用いた治療薬2製品が承認され、非常に高い治療効果が確認されている。

 しかし、自家CAR‐T細胞を用いた治療薬は、患者自身のT細胞を採取・培養して作製するため、患者ごとに細胞の品質にバラつきが発生、また製造コストが非常に高い、といった課題がある。

 FCDIは、他家iPS細胞由来のCAR‐T細胞を用いたがん免疫治療薬の研究開発を推進。同治療薬では、他家iPS細胞を大量培養し、分化・誘導して作製したT細胞を活用するため、均一な品質と製造コストの大幅な低減が期待できる。

 今回、FCDIは、同治療薬の開発を加速させ早期事業化を図るために、有望な技術を持つベンチャー企業に必要な人材や技術などを獲得・投入し数多くの事業化を支援してきたVersant社、数々の新薬を創出してきた経験・実績のあるバイエル社と協業。

 今後、富士フイルムは、Century社にて、他家iPS細胞由来のCAR‐T細胞などを用いたがん免疫治療薬の早期創出・事業化を目指していく。

富士フイルムと日本MS 医療現場支援の協業を開始

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2019年6月24日

 富士フイルムと日本マイクロソフト(MS)はこのほど、革新的な医療現場支援の実現に向けた協業を開始すると発表した。

 今回の協業の一環として、富士フイルムは、今年中にスタートするAI・IoTを活用した内視鏡予知保全サービスのクラウド基盤に、MSのパブリッククラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」を採用。

 富士フイルムのIoTおよびデータ分析AI技術と、同プラットフォームのリアルタイムでの大容量情報処理能力を組み合わせ、医療機関で稼働している内視鏡の予知保全サービスを実現し、メンテナンス作業の効率を大幅に向上させ、革新的な医療現場支援を推進する。

 昨今、欧州をはじめとし、グローバルで厳格化する個人情報保護規制などへの対応が重要となっている。こうした中、富士フイルムは、世界54リージョンで提供されている同プラットフォームが、各国での法規制に対応しており、高いセキュリティを備えていること、またグローバルなビジネス展開を進める上で、事業展開を支援する体制を備えていることを評価した。

 富士フイルムは、医療用内視鏡システムを世界中の医療機関に提供。ここ数年、その需要は拡大しており、医療現場で内視鏡システムを常時適切に稼働させるため、保守サービスの拡充にも注力している。

 内視鏡システムから得られたスコープなどの稼働情報をクラウド基盤に集約し、それらをAI技術で解析。内視鏡の使用状況や故障の可能性などを遠隔からモニターできる革新的な内視鏡予知保全サービスを今年中にグローバルで展開していく予定だ。今回、この新たな内視鏡予知保全サービスのクラウド基盤として、同プラットフォームを採用。なお、富士フイルムは今後、内視鏡以外の医療機器にもこの予知保全サービスを展開する予定。

 富士フイルムは、医療画像診断支援、医療現場のワークフロー支援、そして医療機器の保守サービスに活用できるAI技術の自社開発を進め、これらの領域で活用できるAI技術を、「REiLI(レイリ)」というブランド名称で展開。

 これらの領域の中でワークフロー支援については、より迅速に医療現場のニーズに適したソリューションを提供していくために、自社のAI技術に加えて今後、言語・検索に関するMSのAI技術を活用することを視野に入れ、日本MSと連携を進める。

 両社は、医療現場のさまざまなニーズやワークフローに適したソリューションを提供し、医療現場を支援するとともに、患者の満足度向上と健康維持に貢献する。

富士フイルム 再生医療ベンチャーに出資、業務提携も

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2019年6月24日

 富士フイルムはこのほど、再生医療ベンチャーPuREC社(ピュレック:島根県出雲市)の第3者割当増資を引き受け、3億円を出資すると発表した。併せて、同社と再生医療製品の開発・製造受託に関する業務提携契約も締結した。

 ピュレック社は、島根大学発の再生医療ベンチャーで、特殊な間葉系幹細胞(MSC)の作製技術を活用した再生医療製品の実用化に取り組んでいる。

 MSCは、骨や脂肪などの細胞に分化する能力をもち、組織修復や免疫調整など多様な効果が期待されている幹細胞で、脳梗塞や軟骨損傷など様々な疾患での臨床応用が検討されている。

 同大学医学部生命科学講座の松崎有未教授が開発した、骨髄由来のMSCは、超高純度ヒト骨髄幹細胞「REC(Rapidly Expanding Cells)」と呼ばれるもの。一般的なMSCと比べて、分化能や増殖能、炎症部位など特定の場所に細胞が集積する遊走能に優れる。

 また従来の分離法では、MSC以外の細胞や老化した細胞が混在するなど、均一性に課題があったが、同社は2種類の抗体を用いて、骨髄より採取した細胞から分離・作製する手法などを用い、高純度の細胞集団が得られる分離培養法を確立した。

 一方、富士フイルムは、日本初の再生医療製品を開発・上市した子会社のジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J‐TEC)や、iPS細胞の開発・製造のリーディングカンパニーである米国子会社FCDIを中核に、自社再生医療製品の研究開発を加速させている。

 今回の資本・業務提携により、ピュレック社の「REC」の作製技術にアクセスするとともに、同社が研究開発を進めている、低フォスファターゼを原因とする先天性骨形成不全症を対象とした再生医療製品の開発・製造・販売ライセンス導入の優先交渉権を獲得することになる。

 さらに、ピュレック社から再生医療製品のプロセス開発や薬事コンサルティングなどをJ‐TECが受託することで、再生医療受託事業の拡大も図る。

 富士フイルムは今後、幅広い製品開発で培い進化させてきた高機能素材技術やエンジニアリング技術、グループ企業の独自技術を活用して、再生医療の産業化に貢献していく。

 

富士フイルムなど 新たながん免疫療法の共同研究を開始

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2019年4月3日

 富士フイルムと国立がん研究センターはこのほど、新たながん免疫療法の共同研究を開始したと発表した。今回の共同研究では、ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)技術の1つであるリポソーム製剤を用いて、新たながん免疫療法の創出を目指す。

 リポソームは、細胞膜や生体膜の構成成分である有機物のリン脂質をカプセル状にした微粒子で、富士フイルム独自の設計により、がん組織の未成熟な血管壁の隙間を透過し、薬剤をがん組織に集積させ、副作用を抑制して薬効を高めることができると期待されている。

 がん免疫療法は、生体のもつ免疫機能を高めてがん細胞を排除する治療法。延命効果や症状の緩和が期待できることから、外科療法、化学療法、放射線療法に続く治療法として注目度がますます高まっている。現在、免疫チェックポイント阻害剤を用いたがん免疫療法が行われているが、一部の患者でしか効果がみられないといった課題がある。

 両者は今回の共同研究を通し、富士フイルムが研究開発を進めている既存抗がん剤を内包したリポソーム製剤「FF-10832」「FF-10850」と免疫チェックポイント阻害剤との併用投与でみられた生存期間延長のメカニズムを解明する。

 具体的には、富士フイルムのリポソーム製剤に関する高度な技術・ノウハウと、国立がん研究センターがもつ、最先端の免疫細胞の解析技術、動物モデルや臨床検体を用いた研究のノウハウなどを組み合わせて、リポソーム製剤が免疫細胞に及ぼす作用を明らかにし、生存期間延長との関係性を解明していく。

 さらに解明内容をもとに、がん免疫療法に必要なリポソーム製剤の要件を見いだし、がんに対する免疫応答を制御する細胞を標的とした新たながん免疫療法を開発し、臨床展開することを目指す。