産総研など 緊急事態宣言下の住宅街のCO2排出量変化

, , , , , , ,

2021年8月31日

 産業技術総合研究所(産総研)と国立環境研究所、明星大学はこのほど、東海大学代々木キャンパス(東京都渋谷区)内の観測タワー上での大気組成の高精度観測に基づき、新型コロナウイルス感染拡大に伴う2020年4~5月の緊急事態宣言期間の代々木街区のCO2排出を排出源別に評価した。CO2排出総量は例年比で約20%低下。自動車などの石油消費が約40%減少した一方、外出自粛の影響で都市ガス消費は約20%増加していた。

 産総研と防衛大学校は2012年から同観測タワーで大気中のCO2とO2の高精度濃度観測行っており、CO2排出とO2消費の交換比(OR)を利用したCO2排出量の排出源別評価手法を開発してきた。ORは排出源ごとに異なり、石油消費は1.44、天然ガス(都市ガス)消費1.95、石炭消費1.17、陸上植物活動1.1、人間呼吸は約1.2と推定される。

 渦相関法(濃度と風速から解析)によるCO2排出総量と、傾度法(濃度の高度勾配と乱流拡散係数から算出)によるO2消費総量/CO2排出総量比(OR)、排出源ごとのORから、排出源の分離を行った。人間呼吸と植生の寄与は、人口統計や植生面積を考慮して別途評価し、石炭消費は考慮していない。

 緊急事態宣言期間のCO2排出量は、例年に比べ日中に顕著な減少傾向を示し、夜間は同等であった。これは、代々木街区近郊の自動車交通量の統計データ、外出自粛による居住人口の変化を考慮した都市気候モデルによる都市ガス消費量の推定結果、とおおむね整合した。また、国立環境研究所が同時に観測しているCOとCO2の関係も、自動車由来のCO2排出量の減少を支持する結果であった。

 今回の手法は、ゼロエミッションに向けたエネルギー消費構造の変化を評価する有効なツールになり得る一方、複数の高度な観測技術を組み合わせた解析であるため、他地域での評価には制約がある。今後は、観測手法の簡易化を目指し、局所大気輸送モデルを組み合わせた解析により他地点の限定的な観測データも活用し、より広域のCO2排出源評価への応用を進めていく考えだ。

 

産総研など 新型コロナ外出自粛による省エネ効果を推定

, , , ,

2020年12月17日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、明星大学、ドコモ・インサイトマーケティングとともに、新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛による人口変化が、大阪市のオフィス街と住宅街の気温と電力消費量に及ぼす影響を推定したと発表した。日中人口が約7割減少したオフィス街では電力消費量を40%(床面積1㎡あたり12W)、人工排熱を42%(土地面積1㎡あたり76.3W)押し下げ、その結果気温は0.13℃低下したと推定。一方、人口が微増した住宅街では電力消費量が18%(床面積1㎡あたり1.4W)増加したが、気温は外出自粛前と変わらなかった。

 オフィス街の気温・電力消費量の低下は、昨年開催されたG20大阪サミットの交通・出勤規制による低下量のそれぞれ3倍、10倍で、電力消費低下量は東日本大震災に伴う夏の節電対策効果に匹敵した。なお、この気温低下量は、日本各都市の気温観測値から得た先行研究による統計的推定値と矛盾しない。

 産総研と明星大学は、都市部の人間活動と気象・気候の関係に長年取り組み、世界初の数理モデル「都市気候モデル」を開発。これを気象学の領域気候モデルと統合し、電力消費実測値との比較などを通して「都市気候モデル+人口データ」に大幅改良した。

 人間活動の把握はドコモ・インサイトマーケティングの「モバイル空間統計(500mメッシュ・1時間毎)」で行い、空調使用スケジュールや人体からの排熱量などのパラメータに反映させた。公開・測定されていない都市街区の数百m~数Kmスケールの電力消費量と気温の推定、人間活動が変化した際の電力消費量や気温への影響を評価できる点に意義があり、都市の気候と電力消費量の将来予測、都市計画や都市部の気候変動適応策の評価にも応用できる。

 今回テレワークなどの人間活動の変化により、都市部の省エネとヒートアイランド緩和が実現できることが示唆された。「新たな日常」での都市の気温と電力消費の予測に有用で、気候変動に備えた都市部の適応策の評価・提案への貢献も期待できる。

 今後は首都圏や国内外都市に適用し、外出自粛の影響を広域的に見積り、人間活動と都市の気候の関係を体系化する。また外出自粛が熱中症指数に及ぼす影響も調査し、気温や電力消費量に留まらない総合的な気候変動適応策の提案に繋げる考えだ。