新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)はこのほど、東京大学、富士フイルム、TOTO、三菱ケミカル、信州大学、明治大学とともに100㎡規模の太陽光受光型光触媒水分解パネル反応器と水素・酸素ガス分離モジュールから成る光触媒パネル反応システムを開発し、太陽光による水分解で長期間安全かつ安定的にソーラー水素を分離・回収できることを実証した。世界初の実証事例。
NEDOは、水の光分解で得たソーラー水素とCO2からC2~C4オレフィンを製造する「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発(人工光合成プロジェクト)」で、①光触媒(水の光分解で水素と酸素を製造)、②分離膜(水素・酸素の混合ガスから水素を分離)、③合成触媒(水素とCO2からC2~C4オレフィンを合成)の研究開発に取り組んでおり、今回の成果は①と②に当たる。
光触媒パネル反応器は、透明ガラス容器にチタン酸ストロンチウム光触媒シートを格納したもので、光触媒を基板上に塗布するだけで製造できる。紫外光で水を分解し、量子収率はほぼ100%。疑似太陽光の連続照射による耐久性試験では、初期の8割以上の活性を2カ月以上(屋外試験で約1年に相当)維持した。この反応器を連結した3㎡のモジュールをプラスチックチューブで連結し、100㎡規模の反応器とした。屋外環境で水素と酸素が2対1の混合ガスを発生。その太陽光エネルギー変換効率は夏期には0.76%であった。
ガス分離モジュールで水素濃度約94%の透過ガスと、酸素濃度60%以上の残留ガスに分離。天候・季節によらず、水素の回収率は約73%だった。水素濃度4~95%の混合ガスは着火すると爆発するが、1年以上の屋外試験で一度も自然着火・爆発はなかった。爆発リスクの確認のために、光触媒パネル反応器、ガス捕集用配管、ガス分離モジュールに意図的に着火したが、いずれも破損や性能劣化はなかった。
今後、可視光にも応答するエネルギー変換効率5~10%の光触媒の開発と、光触媒パネルの低コスト化と一層の大規模化、ガス分離プロセスの分離性能とエネルギー効率の向上のための技術開発を進め、実用化を目指す。