日本触媒 血管構造の細胞凝集塊作製、移植時に高い治療効果

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2020年11月10日

 日本触媒は9日、3次元細胞培養容器「ミコセル」を用いた細胞培養において、表面に血管末端構造を保有する血管構造を含む細胞凝集塊の形成に成功したと発表した。この血管構造を含む細胞凝集塊は、その形態から再生医療の移植などで、従来の細胞凝集塊より優れた治療効果を発揮することが期待される。

3 次元細胞培養容器「ミコセル」
3 次元細胞培養容器「ミコセル」

「ミコセル」とは、同社が独自技術により開発した3次元細胞培養容器。細胞基材への適度な接着性があるため、生体内での状態により近い細胞凝集塊を均一な粒子径で多量に作製できる。

 近年、細胞を3次元培養することで、様々な形態の細胞凝集塊を形成することが注目されている。その1つとして、細胞凝集塊内部への酸素や栄養の供給を目的に目的組織の細胞と血管内皮細胞を共培養して、血管構造が付与された細胞凝集塊形態の形成が提案されている。この形態は、血管構造が付与されたことで、移植時に患者由来の血管と接続し細胞凝集塊の生着率が上がり、治療効果の向上が期待される。しかし、従来の血管構造を有する細胞凝集塊は、細胞凝集塊内部で血管構造がランダムに形成される。そのため血管構造の方向性の制御や細胞凝集塊表面への血管構造の末端形成が困難であり、移植後の生着と治療効果に課題があった。

 同社は今回、「ミコセル」を用いて幹細胞と血管内皮細胞を共培養して作製した細胞凝集塊で、基材に接着した部分に血管内皮細胞も接着し、そこから細胞凝集塊の垂直方向に複数の血管構造がドーム状に形成されることを見出だした。この構造は従来の細胞凝集塊では見られず、基材接着面に血管内皮細胞が存在することで移植時に速やかに患者由来の血管と接続して高い治療効果が得られることが期待される。また、当該構造を有する細胞凝集塊は血管構造を持たない細胞凝集塊に比べて内部の低酸素状態が改善されることが分かった。

 「ミコセル」で作製した血管構造が付与された細胞凝集塊は、再生医療分野への応用の他、より生体内に近い凝集塊を実験室レベルで作製できるという観点から、臓器モデルの作製や創薬スクリーニングなどにおける動物実験代替の試験への応用が期待される。

 同社では、今回新たに作製した血管構造を含む細胞凝集塊をはじめ様々な分野に「ミコセル」を供給し、連携を進めることで、医療技術の発展に貢献することを目指す。

「ミコセル」上の血管含有細胞凝集塊の特徴
「ミコセル」上の血管含有細胞凝集塊の特徴

 

日本触媒 三次元細胞培養容器を変形性膝関節症の研究へ提供

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2020年9月4日

 日本触媒はこのほど、独自開発した3次元細胞培養容器「ミコセル」を、そばじまクリニック(大阪府東大阪市)で開始する脂肪幹細胞凝集塊による臨床研究に提供すると発表した。今回の臨床研究は、患者自身の脂肪由来幹細胞を用いた変形性関節症に対する臨床研究で、「第2種再生医療等計画」を再生医療等委員会へ申請し承認された。

 「ミコセル」は、培養基材表面に細胞が適度に接着する非生物由来の材料で作られており、粒子径の揃った細胞凝集塊を多量に作製できることが特徴。細胞凝集塊では、従来の2次元で培養された細胞とは異なり、体内の状態に近い細胞が得られることが知られており、細胞凝集塊の作製技術は近年注目されている。

 市販されている細胞凝集塊形成を目的とした培養容器は、容器内部に細胞接着性の低い処理を施したものが一般的で、得られる細胞凝集塊は基材との相互作用をしない状態(浮遊状態)。これに対して、「ミコセル」は培養基材表面に細胞が適度に接着した細胞凝集塊が形成するため、他の培養容器で形成される浮遊の細胞凝集塊にはないさらなる高機能化と、投与疾患部で有効に働く効果が期待されている。

 また、「ミコセル」で作製した細胞凝集塊は、今回の臨床研究開始にあたり、2次元で培養された細胞や他の3次元培養容器で作製した浮遊の細胞凝集塊と比較して高い機能と安全性をもつことを非臨床で確認している。

 さらに、ミコセルは①培養時の培地交換が容易で操作性に優れる、②容器内部に設置した区画分けで均一な大きさの細胞凝集塊が多量に形成する、③細胞凝集塊の形成後に、薬剤を用いることなく凝集塊の剥離・回収が可能、といった特徴があり、効率的な細胞凝集塊の作製を実現する。

 日本触媒は、今回の臨床研究を通じ、「ミコセル」を使い作製した細胞凝集塊の安全性が実証されることにより、細胞凝集塊を用いた治療の実用化と再生医療のさらなる発展に向けて大きく貢献ができると考えている。

「ミコセル」の特徴
「ミコセル」の特徴