東レ X線シンチレータパネルの輝度を向上、患者の負担軽減

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2020年5月13日

 東レは、蛍光体を用いた波長変換技術を活用し、輝度を従来比約30%向上させたX線シンチレータパネルを開発した。同パネルを肺疾患などの診断用医療用X線撮影装置のX線検出器に適用することで、より明瞭な患部の観察や被曝量の低減が可能となる。今年度初めから販売を開始する予定。

 医療用X線撮影装置のX線検出器は、一般的にX線を可視光線に変換する「シンチレータパネル」と可視光線をデジタル画像に変換する「フォトセンサーパネル」により構成される。

 シンチレータパネルはX線を吸収して可視光線を放射する厚さ数百ミクロンの蛍光体層からなっており、蛍光体としてCsI(ヨウ化セシウム)やGOS(酸硫化ガドリニウム)が用いられる。CsIは光透過性がよく輝度も高いが、長時間の蒸着工程や防湿シーリングが必要なため、高コストである。一方、GOSは基材に蛍光体を塗布するだけで製造が可能なため製造コストが低く、X線に対して高安定性・高耐久性であるが、輝度が低いという課題があった。

 同社は、ディスプレイ材料開発で長年培ってきた蛍光体による波長変換技術を活用し、GOSの輝度を大きく向上させる技術の実用化に成功。GOSの発光スペクトルのうち、フォトセンサーパネルの感度が低い短波長領域(350~400㎚付近)の光を、感度が高い波長領域(550㎚付近)の光に変換する第2の蛍光体をGOSに加える独自の配合技術を開発。この技術による蛍光体層「GOS-α」は、GOSの低コスト・高安定性・高耐久性のまま、輝度を約30%向上することを可能とした。

 同社はGOSを用いたX線シンチレータパネルの量産を2016年度より開始し、医療用の一般X線撮影用途で採用されている。今回開発した「波長変換型X線シンチレータパネル」を用い、さらに同社独自の高鮮鋭度化技術である「セル方式シンチレータ」と組み合わせることで採用範囲を拡大し、X線シンチレータパネル事業のさらなる拡大を目指す考えだ。

 同社の企業理念である「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」を実現するために、社会を本質的に変える革新素材の創出に取り組み続ける方針。