東北大学 積層ナノ磁性体の磁気振動、AI技術に新視点

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2020年4月21日

 東北大学はこのほど、産総研と共同で「ブランコの数理(係数励振)」に基づく積層ナノ磁性体の磁気振動の増幅効果を、独自の光計測技術で発見したと発表した。今回の発見は、AIハードウエアの要素となる磁気素子の開発に、新しい視点を与える成果である。

 社会を取り巻く情報量は爆発的に増大しており、これを効率よく利用するための量子計算技術やAI技術などの研究が各国で進んでいる。その1つにナノスケール磁石の発する磁気の振動や波動を情報の担体とし、それらの重ね合わせを演算に用いる波動計算やリザーバー計算がある。これまで通電により動作するナノ磁気発振器や増幅器を用いる研究が進められてきたが、エネルギー効率が課題の1つであった。

 今回発見した積層ナノ磁性体は、新しい動作原理によるもので、通電不要の磁気振動や波動のナノ増幅器、あるいはナノ発振器の可能性を開くもの。同研究の積層ナノ磁性体は、厚み1㎚以下の非磁性金属(ルテニウム金属)を、厚み3㎚の磁性体(ホウ化コバルト鉄)で挟んだ。この2層の磁性体はバネのような力で結びついており、この力のため、2つの層の磁気が、同じあるいは逆のタイミングで振動することが分かっている。

 この2つの磁気の合成振動の運動を、独自のパルス光を用いて、数ピコ秒の時間分解能で観察。強い励起パルス光を照射すると2つの磁気振動が発生し、遅れて照射する弱いパルス光の反射の仕方から、磁気の振動を検出する。磁気の振動は摩擦力が働くため、時間とともに減衰するが、ある条件を満たした場合には、磁気の振動が時間とともに増幅することを発見した。

 2つの磁気の振動の仕方には、ブランコを漕ぐときのように最初は揺れが小さくても、次第に揺れが大きくなる(増幅する)、係数励振と呼ばれる数理が内在していることが分かった。2つの合成された磁気振動のうち、一方がもう一方を漕ぐことで、振動を増幅できるとしている。今回明らかとなった磁気振動の数理は、この積層ナノ磁性体が通電不要のナノ磁性素子となり得ることを示している。

 今後は、素子として用いる際の基本的な特性と材料、集積化した際の性質など、AIハードウエアへの応用を目指した研究を進める方針だ。