東レは29日、正面からの光はガラスのように透過し、斜めからの光は鏡のように反射する世界初の光学機能を備えたフィルム「PICASUS(ピカサス)VT」を創出したと発表した。
従来の材料では不可能だった機能により、市場拡大が見込まれるAR(拡張現実)やMR(複合現実)用途でのHMD(ヘッドマウントディスプレイ)やHUD(ヘッドアップディスプレイ)向けや、のぞき見防止フィルム、ディスプレイ用フィルムなどへの展開が期待できる。
一般的な光学材料では、透明なガラスやプラスチックのように正面・斜めいずれの方向から入射した光もほぼ透過する素材や、金属膜のようにいずれの方向からも入射した光を反射する素材がある。一方、正面からの光は高い透過率で透過し、斜めからの光は高反射するといった光の指向性をコントロールできる光学素材はこれまでなかった。
今回、同社が開発した「ピカサスVT」は、独自のナノ積層技術を駆使するとともに、新規の光学設計に基づいた樹脂屈折率の高精度制御により、正面からの光を透過し、斜めからの光を反射するという全く新しい機能を発現させることに成功した。
従来のナノ積層フィルム「ピカサス」は、ナノメートルスケールの厚みの層を数百~1000層重ねることで特定の波長の光を反射させる機能を備えているが、今回の「ピカサスVT」では、特性の違う2種類のPETを組み合わせことで、さらに光の反射・透過の指向性までを制御したものとなった。
この新規光学フィルムをAR・VR用のHMDやHUDに用いた場合、透明なガラスやプラスチックと同様に風景の視認性は維持しつつ、従来に比べて、投影情報をはっきりと表示することが可能だ。
他の用途としては、正面透過性と全方位からの光を反射する機能を生かしたPCやスマートフォン向けの覗き見防止フィルムや、後加工・組み立てに適した平面性と全方位に対する集光機能を生かしたディスプレイ用集光フィルムなどが想定され、ディスプレイの機能向上に貢献することができる。
今後、展示会への出展などにより周知を図り、顧客ニーズを探っていく。そして、ビジネスモデルを含めた研究開発やサンプルワークを進め、3年後の実用化を目指していく方針だ。なお、同技術は東京ビッグサイトで31日まで開催されている「nano tech 2020(第19回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議)」で展示している。