九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER:アイスナー)/大学院工学研究院の小江誠司(おごう・せいじ)主幹教授らの研究グループは、三菱ガス化学との共同研究により、水素と酸素を爆発の危険性がほとんどない安全な混合比率で、1つのフラスコのみを使い効率よく過酸化水素(過水)を合成する触媒の開発に成功した。また、同触媒の性能は、これまで報告された均一系触媒で世界最高値を示した。
開発にあたっては、水素の合成や分解を担う天然ヒドロゲナーゼ酵素の機能をヒントにしたという。小江主幹教授は、「開発した触媒に水素と酸素を入れるだけで、過酸化水を作ることができる」と話す。
同研究は、ヒドロゲナーゼ酵素の機能を模倣することで新たな分子触媒を開発できた学術的な価値に加え、次世代のエネルギーである水素を利用した新たな合成反応の基盤となる成果といえる。過酸化水素は、工業用酸化剤や漂白剤、半導体の洗浄など、身の回りで幅広く使用されており、工業的には、パラジウム触媒を使ったアントラキノン法によりプラントで大規模に合成されている。
一方、ラボスケールでは、①爆発の危険性がほとんどない水素と酸素の混合比率での合成、② 1つのフラスコで複雑な設備を必要としない合成、③水素と酸素から直接効率よく合成、の3点を同時に満たす過酸化水素の合成触媒はこれまでなかった。共同研究グループは今回の成果をもとに、今後、次世代のエネルギーである水素を電子源とする新たな反応開発と、同様な方法で合成した過酸化水素でしかできないさらなる利用を目指して研究を展開していく考えだ。
なお、今回の研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「電子貯蔵触媒技術による新プロセスの構築」の一環として行われた。