【わが社のオンリーワン製品2】出光興産 シンジオタクチックポリスチレン

,

2019年5月10日

 出光興産のシンジオタクチックポリスチレン(SPS)は、スチレンモノマーを原料とする結晶性のポリスチレン(PS)である。

森川課長02
森川課長

 1985年に中央研究所(現・次世代技術研究所)で、同社のコア技術であるメタロセン触媒を使い、世界で初めて合成に成功。97年に千葉事業所で商業運転を開始し、「ザレック」の製品名で展開している。

 通常のPSがエチレン鎖にベンゼンがランダムに結合する非晶性構造であるのに対し、SPSはベンゼンが規則的に交互に結合することで、通常のPSにはない性質を発現した。

 その特長は、電装用途に求められる耐熱性、低比重による軽量性、電気絶縁性、電波透過性、信号伝送特性、耐水性、耐薬品性など。

 エンジニアリングプラスチックであるが、耐熱性は約270℃というスーパーエンプラ並みの融点を実現。軽量性については、エンプラの中で最も軽い樹脂の1つであることから、自動車用途では燃費向上につながる。

 そのほか、電気絶縁性は部品の小型化・高電圧化、電波透過性は高周波を使用するレーダーの性能向上、信号伝送特性は通信の大容量化・高速化に、それぞれ貢献する。

 「剛性・ねじれという機械的特性にやや難があり、耐薬品性に優れていることで、かえって接着剤などによる接着・接合がしづらい」(機能化学品部SPS課の森川正之課長)という面はあるものの、こうした特長が評価され、用途の6~7割を占める自動車をはじめ、家電や日用品などさまざまな分野で使われている。

 意外な用途としては、飲食店のプラスチック製箸がある。これは軽量・耐熱に加え、水や薬品にも強いことから採用されたものだ。自動車用途で、特に利用が多いのはコネクターである。これには基板コネクターとワイヤーハーネスコネクターがあり、規格の違いによって日系メーカーでは基板側、欧米メーカーではワイヤーハーネス側で主に使われている。

 具体的には、電動パワーステアリングや電動ブレーキ、エアフローセンサー、ECU(エンジンコントロールユニット)などのコネクターだ。さらに最近は、導入が進んでいる「ジャパンタクシー」のインバーターに採用されて好評なことから、インバーターでの実績が増加しているという。

 SPSの生産は現在、千葉事業所で行っており、能力は年産9200t。これを国内と中国、米国、欧州の各拠点に供給し、コンパウンドに加工して顧客へ納入している。

 今後については、自動車のEV化や通信の5Gへの移行に伴い、需要が拡大していくことが見込まれることから、今年1月、千葉事業所と同規模の第2プラントをマレーシアに建設する計画であることを公表した。

 旧出光興産の2018~20年度の中期経営計画では、30年度の営業利益の40%以上を、機能化学品を含む高機能事業や新規事業などで確保するとしている。

 そのためにはSPSのさらなる拡販も不可欠で、森川課長は「あくまでも計画段階だが、第2プラントを立ち上げることになれば、それをすぐにフル稼働させて、売りさばくことが目標となる。それが第3プラントにつながっていく」と事業拡大への意欲を示している。