京大・三菱ケミ 水耕で機能性ホウレンソウの開発に成功

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2018年9月27日

 京都大学はこのほど、三菱ケミカルとの共同研究により、年間に十数回収穫できる水耕栽培系で、代謝工学とマルチオミックス解析を活用して新しい機能性野菜の開発に成功した。

 マルチオミックスとは、細胞内の遺伝子やタンパク質、代謝物などから得られる情報を、網羅的・包括的に分析していくバイオテクノロジーの手法。研究を行ったのは、同大学大学院農学研究科応用生命科学専攻の植田充美教授らのグループ。最先端技術を利用することで、遺伝子組み換え技術を用いず市場流通が可能な、液肥で調製できる栄養価の高い機能性野菜の開発に成功した。

 胎児の脳の発達を促進する「葉酸」リッチな機能性ホウレンソウと、これまでにない強い抗酸化機能が推定されている「ベタシアニン」リッチな赤茎ホウレンソウを開発した。機能性野菜を含む機能性食品は、科学的根拠をもとに、健康の維持や増進などに役立つ成分を効率よく摂取できるように開発された食品のこと。

 これまでにも、作物への栄養成分強化を目的とした研究が数多く報告されているが、これらの手法は主に遺伝子組み換え技術を用いており、厳しい規制のある日本では、一般流通までには至っていない現状がある。

 また、ヒトは葉酸を合成できないため、食物からの摂取が必要だが、食物に含まれる葉酸量は非常に少ない。一方、植物が合成する色素成分は、抗酸化力を高め、ガン細胞の増殖抑制などにも有用な機能を示す2次代謝産物として注目を浴びている。

 こうした背景から、同研究ではすでに確立されている三菱グループの水耕栽培系を用い、液肥の成分調整によって、ホウレンソウの葉酸量を高め、赤色色素成分の強化を図った。

 今回の研究では、野菜工場の大量安価な栽培システムの活用により、液肥にフェニルアラニンを添加するだけで、最大で約2倍のホウレンソウの葉酸リッチ化を達成。また、スクロースを添加するだけで、最大で約5倍のベタニンリッチ化を達成した。

 これらは、同研究グループが培った、代謝工学の蓄積データの活用と、マルチオミックス解析手法の融合による成果であり、同手法は今後の食用野菜の育種に大いに活用できるとともに、一般市場への新しい高付加価値食品の展開に貢献することが期待されている。

バイオインダストリー協会 バイオインダストリー大賞を決定

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2018年8月27日

 バイオインダストリー協会はこのほど、ぜんそく治療薬のイノベーション創出に貢献した富山県薬事総合研究開発センターの高津聖志所長を、第2回「バイオインダストリー大賞」受賞者に決定した。併せて第2回「バイオインダストリー奨励賞」受賞者10人も決定した。

 大賞を受賞した高津所長は、マウスB細胞の増殖分化因子としてインターロイキン‐5(IL‐5)/IL‐5受容体を発見。さらにIL‐5が、ヒトでは好酸球の増殖分化に関与していることも見いだし、好酸球の制御に基づく、新たなぜんそく治療のための抗体医薬品の開発を主導した。

 協和発酵キリン、アストラゼネカ、メディミューンにより開発された、抗IL‐5受容体の好酸球性重症気管支ぜんそく治療薬「ファンセラ(一般名:ベンラリズマブ=遺伝子組み換え)」は、ぜんそくを重症化する好酸球を直接・速やかに除去。

 2017~18年に米国や欧州、日本などで相次ぎ承認され、既存治療では症状をコントロールできず、頻回のぜんそく増悪や呼吸機能の低下を余儀なくされている重症ぜんそく患者に対し、追加維持療法という新たな選択肢を提供することになった。

 IL‐5/IL‐5受容体の発見に端を発する抗体医薬品3剤が、ぜんそく治療薬としてすでに販売されており、これら3剤の抗体医薬品の全世界での売り上げは、21年に合計20億米ドルを超えると見込まれている。

 高津所長の基礎研究でのブレークスルーは、国内外のバイオインダストリーの発展に大きく寄与するもので、バイオインダストリー大賞に最もふさわしいと評価された。

 両賞は昨年、バイオインダストリー協会が30周年を迎えたのを機に、次の30年を見据え「最先端の研究が世界を創る―バイオテクノロジーの新時代―」をスローガンに創設された。

 大賞はバイオインダストリーの発展に大きく貢献、あるいは今後の発展に大きく貢献すると期待される顕著な業績を表彰するもの。奨励賞はバイオサイエンスとバイオテクノロジーに関連する応用を指向した研究に携わる有望な若手研究者と、その業績を表彰する。

 副賞として大賞受賞者には300万円、奨励賞受賞者には30万円が贈られる。両賞の贈呈式・受賞記念講演会は10月10日、パシフィコ横浜で開催される国際的なバイオイベント「バイオ・ジャパン2018」の会場で行われる。