東大ら 高再現性・生体適合性高感度ラマン分光法を開発

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2020年10月15日

 東京大学、産業技術総合研究所、神奈川県立産業技術総合研究所はこのほど、東大合田圭介教授の研究グループが極めて高い再現性、感度、均一性、生体適合性、耐久性をもつ表面増強ラマン分光法(SERS)の基板を開発し、実用的な微量分析法を実現したと発表した。

 1970年代に発見されたSERSは、金属基板上の局在表面プラズモン共鳴(LSPR)により通常のラマン分光法よりも数桁以上高い感度で無標識の微量分析に有効であったが、感度は金属ナノ構造による強電磁場の位置(ホットスポット)に依存するため低再現性、不均一性で、金属基板の光熱と酸化による低生体適合性、低耐久性が課題であった。金属基板代替のシリコンやゲルマニウムナノ構造体、グラフェンなどの2次元材料、半導電性金属酸化物などは構造共鳴や電荷移動共鳴による最大5桁程度の感度増強が実証されたが、固有の光触媒活性や生体分子への有害性により、再現性は低かった。

 今回LSPRに依存しない、金属不含有の多孔質炭素ナノワイヤをアレイ状に配列したナノ構造体(PCNA)基板を開発。広帯域電荷移動共鳴による化学的増強により約6桁の感度増強を実現した。基板全面が活性化するため高い再現性と均一性、耐久性を示し、光熱によって損なわれていた生体適合性も大幅に改善した。これらの特性は、ローダミン6G、β‐ラクトグロブリン、グルコースなどの分子で実験的に実証した。またPCNA基板は1枚約1000円で大量生産が可能だ。

 同手法の高い実用性および信頼性により、分析化学、食品科学、薬学、病理学など多岐にわたる学術分野に加え、感染症検査、糖尿病検査、がん検診、環境安全、科学捜査などでの微量分析への展開が期待される。

 

 

東工大ら 強誘電体の薄膜化で不揮発性メモリの応用期待

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2020年10月13日

 東京工業大学と産業技術総合研究所、東北大学はこのほど、最高の強誘電性をもつ窒化アルミニウムスカンジウム=(Al,Sc)N=について、Sc濃度を下げると強誘電性が増加しかつ10㎚の薄膜でも強誘電性を保持することを世界で初めて確認したと発表した。低消費電力で動作する不揮発性メモリへの応用が期待される。

 強誘電体は、電圧の印加方向に従って安定な結晶状態(分極状態)を取り、電源切断後もその分極状態を保持する物質。無電力で分極状態を保持するため、不揮発性メモリ(無電源の記憶保持素子)を作製できる。酸化ハフニウム系などの強誘電体が交通系ICカードなどに広く実用化されているが、複雑形状の基板への3次元膜の作製が難しく、一部の用途に限られてきた。

 現在スマートフォンの高周波フィルターに使われている(Al,Sc)Nは、膜厚150㎚で高い強誘電性を示すが、メモリ動作の低消費電力化のために薄膜化した場合、「サイズ効果」による強誘電性の喪失が懸念されていた。

 (Al,Sc)Nは気相のScとAl金属を窒素ガスと反応させて作るが、今回ScとAlの比率を変えて試料を作製。その結果、Sc濃度が低いほど残留分極値(電源切断後に残る静電容量)が大きく、抗電界(分極状態の反転に必要な電圧)と最大電界(印加できる電圧)の差が広がり、分極状態を安定して繰り返し反転できることも分かった。薄膜化についても、膜厚48㎚まで残留分極値は変わらず、9㎚でも強誘電性を示すことを非線形誘電率顕微鏡法で確認した。

 (Al,Sc)Nは最大級の強誘電性を持ち、使用温度は最も高く、作製も容易。動作電力は最小で、データ保存にも電力消費しない不揮発性メモリである。さらに3次元形状への成形が不要で電極で挟むだけの単純構造のメモリができ、コスト削減につながる。今後、広い用途のメモリへの応用が期待できる。さらに(Al,Sc)Nの圧電性に分極方向の制御も加わり、従来にない新規応用も期待できる。

 

NEDO 人工光合成、収率ほぼ100%の光触媒開発

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2020年6月12日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と、三菱ケミカルや三井化学などが参画する人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)はこのほど、紫外光領域ながら世界で初めて100%に近い量子収率(光子の利用効率)で水を水素と酸素に分解する粉末状の半導体光触媒を開発した。信州大学、山口大学、東京大学、産業技術総合研究所(産総研)との共同研究によるもの。これまでの光触媒では量子収率が50%に達するものはほとんどなく、画期的な成果といえる。

 ソーラー水素の実用化に向けた大幅なコスト削減には、太陽光エネルギーの変換効率向上が必要だ。そこには、利用光の波長範囲を広げることと、各波長での量子収率を高めることの2つの要素がある。前者は光触媒のバンドギャップ(電子励起に必要なエネルギー)の幅がカギになり、後者は触媒調製法や助触媒との組み合わせで決まる。今回は後者に注力し、ほぼ100%の量子収率を達成するとともに、触媒の構造・機能・調製方法などを明らかにした。

 代表的な酸化物光触媒SrTiO3(Alドープ)を、フラックス法により2種の結晶面を持つ粒子にすると、光で励起された電子と正孔が各結晶面に選択的に移動する異方的電荷移動という現象が起こる。この特性を利用して、各結晶面に水素生成助触媒(Rh/Cr2O3)と酸素生成助触媒(CoOOH)を光電着法により選択的に担持した。

 その結果、光励起した電子と正孔は再結合せずに各助触媒に選択的に移動するため、吸収光のほぼ全てを水分解反応に利用することに成功した。光励起された電子と正孔の一方通行移動は植物の光合成で行われているが、複雑なタンパク質構造によるため、人工的な再現は非現実的だった。今回の光触媒の構造は簡易であり、高活性光触媒の設計指針となる。

 今回は紫外光しか吸収しないため、降り注ぐ太陽光エネルギーの一部しか利用できない。可視光を吸収するバンドギャップの小さな光触媒に応用することで、太陽エネルギーの利用度は上がる。バンドギャップの小さな化合物での水分解にはさらに高度な触媒性能が求められるが、今回の触媒設計指針を応用することにより、製造プラントの省スペース化や製造コストの低減が期待される。

 NEDOらは、引き続き光エネルギー変換効率の向上を進め、人工光合成技術の早期実現を目指していく考えだ。

東京大学 パターニングの電極を半導体に移し取る手法開発

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2020年3月26日

 東京大学大学院新領域創成科学研究科、同マテリアルイノベーション研究センター、産業技術総合研究所 産総研・東大先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ、物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI‐MANA)の共同研究グループはこのほど、洗濯のりにヒントを得て、高精細にパターニングされた電極を有機半導体に取り付ける手法を開発した。

 さまざまな機能性を持つ電子素子を駆動させるためには、電圧や電流を入出力するための電極が必要不可欠。電極は通常金属で、高真空下で大きなエネルギーを用いて成膜されることが多く、電極の設置面へのダメージを抑え、接着力など下地との相性を最適化することも重要な課題だった。

 こうした中、同研究グループは、洗濯のりの成分であるポリビニルアルコールが乾燥すると固まり、水にあうと簡単に溶けることを利用し、基板上で高精細にパターニングされた電極をポリビニルアルコールなどとともに電極フィルムとして引き剥がし、半導体上に移し取る手法を開発。

 さらに、たった一分子層(厚さ四㎚)からなる有機半導体に金属電極を取り付け、半導体の機能を十分利用できることを実証した。取り付け先の制約は極めて少なく、曲面や生体などへの応用も期待できる。

 今回の成果により、さまざまな積層デバイスへの応用が可能となり、将来の産業応用に際し低コスト・フレキシブルエレクトロニクス用のプロセスとしての利用が見込まれる。

 なお、今回の研究成果は、英国科学雑誌「Scientific Reports」(3月13日版)に掲載された。また、同研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金「単結晶有機半導体中電子伝導の巨大応力歪効果とフレキシブルメカノエレクトロニクス」「有機単結晶半導体を用いたスピントランジスタの実現」の一環として行われた。

 

東京農工大学など 加工性に優れた木材つくる桑の仕組みを解明

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2020年3月11日

 東京農工大学をはじめとする国内外の機関から成る研究グループはこのほど、大正時代に奥尻島で発見された桑の野生種である赤材桑(せきざいそう)が、鮮やかな赤い色の木材をつくる仕組みを解明した。

 この木材は色が赤いだけでなく、通常の樹木がつくる木材よりも成分の分離が容易で、化学パルプや燃料、化成品の製造に適している。今回の成果により、桑の木材に新しい利用の道が開かれるとともに、他の樹種への応用も期待される。

 研究を行ったのは、東京農工大大学院農学研究院生物システム科学部門の梶田真也教授のほか、農業・食品産業技術総合研究機構、産業技術総合研究所、森林研究・整備機構、米・ウィスコンシン大学、ベルギー・ゲント大学。

 最初に赤材桑と普通の桑の木材の分解産物を調査した結果、赤材桑からはインデン骨格を持った特殊な化合物が検出された。この化合物は、桑の木材に20%程度含まれる芳香族高分子リグニンに由来する。

 そこで、赤材桑からリグニンを単離して分子構造を調べたところ、赤材桑のリグニンには、インデンの元になる多量のケイ皮アルデヒド類が取り込まれていた。

 次に、研究グループはリグニンの合成に関与する、シンナミルアルコールデヒドロゲナーゼ(CAD)遺伝子の全塩基配列を決定したところ、通常品種では正常なCAD遺伝子が、赤材桑では一塩基の挿入によって完全に壊れていた。

 通常品種では、CADの働きによりケイ皮アルコール類が合成され、これが重合することでリグニンが生成する。しかし、赤材桑ではCAD遺伝子が破壊されているため、十分な量のケイ皮アルコール類が合成できず、その代替としてケイ皮アルデヒド類が重合することにより、リグニンの構造が変化することが判明した。

 ケイ皮アルデヒド類のリグニンへの取り込みは、塩基性条件下でのリグニンの分解性を高め、その後の酵素処理による木材からの単糖の回収率(糖化率)向上に寄与することが期待される。実際にアルカリ溶液で前処理した木粉をセルラーゼで加水分解したところ、期待通り赤材桑の木材では糖化率が格段に向上した。

 現在、化石資源の一部を代替するため、木材から燃料や化成品を製造する技術の開発が世界中で進められているものの、木材からの効率的なリグニンの除去が大きな技術課題となっている。リグニンが取り除きやすい木材を蓄積する赤材桑をさらに詳しく調べることは、桑だけでなく、他の樹種の木材の用途拡大にも貢献すると考えられる。

NEDOなど 小型中性子解析装置開発、非破壊で分析

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2020年2月25日

 NEDOは新構造材料技術研究組合(ISMA)の組合員の産業技術総合研究所と、輸送機器の構造材料・部品などの非破壊分析向けに小型中性子解析装置を開発した。

 同装置は解析用の放射線として透過力の高い中性子線を使うことで、従来のX線では透過できなかった、センチメートル厚の金属部品などの内部の結晶情報を、非破壊で分析することを可能にした。

 自動車などに代表される輸送機器の軽量化は、省エネ化の促進やCO2排出量の削減に直結する、重要な技術開発の1つと位置づけられている。最近は様々な軽量部材で輸送機器を構成(マルチマテリアル化)することで、総合的な軽量化が図られている。

 その場合、材料の物性がそれぞれ異なるため、組み合わせ部材の健全性が重要になるが、その評価には非破壊検査を通じて、結晶のひずみなどの変化を分析できることが必要だ。

 そこで、NEDOはX線よりも透過力が高い中性子線に着目。これを用いたマルチマテリアル部材などの解析手法の確立に取り組み、世界で初めてブラッグエッジイメージング法に特化した小型装置を協力機関と短期間で開発し、最初の中性子の発生と結晶情報を含む透過スペクトルの計測に成功した。

 ブラッグエッジイメージング法とは二次元検出器を利用して、画素ごとに試料を透過した中性子強度の波長分布(ブラッグエッジスペクトル)を測定し、結晶情報の抽出と画像化を行う測定法のこと。これにより、金属などで構成する部品や材料内部の広い面積(現状10㎝角)の結晶相・ひずみなどの結晶構造情報を、二次元画像として非破壊で観測できるようになった。

 小型のため使用時は専有となり、自由な条件設定が可能なほか、小規模体制での運営により、産業ユーザーからの装置利用時間などに関する要望にも柔軟に対応できる。また、自動車部品を想定して、様々な試料サイズに適応できる試料室も設けた。これらにより、健全性の高い構造材料・部品の開発と輸送機器の軽量化の促進につなげることができる。

 今後は中性子線の安定化や検出器の高感度化など、装置の性能向上を進め、2020年度の本格稼働を目指す。

千葉工大など 海底資源の正確な面積算出方法を確立

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2019年12月24日

 千葉工業大学次世代海洋資源研究センターと産業技術総合研究所、東京大学、海洋研究開発機構、神戸大学はこのほど、南鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)で、マンガンノジュールが密に分布する領域(マンガンノジュール密集域)を地図上に示し、その面積を正確に算出する方法を世界で初めて確立した。

 計5回の研究航海で調査した、南鳥島EEZ内約15万5500㎢の範囲の中の40%にも及ぶ広大な海底が、マンガンノジュール密集域であることを突き止めた。その面積は四国と九州を足し合わせた面積に匹敵する。密集域は南鳥島EEZ内の様々な海域に及んでいるため、南鳥島EEZの残りの未調査海域を考慮すれば、さらに面積は広がると予想される。

 南鳥島EEZにはマンガンノジュールのほか、レアアース汚泥やマンガンクラストといった海底資源が、豊富に存在することが近年明らかにされている。その中で、南鳥島EEZに分布するマンガンノジュールは、コバルトを多く含むという特徴がある。コバルトはエコカーやスマートフォンのリチウムイオン電池に必須の元素で、集積回路の多層配線技術の銅やタングステンに代わる金属となりうる重要なレアメタルであるが、価格変動が激しく、供給リスクがあることが問題となっている。

 今回の手法では、マンガンノジュール密集域に、実際にどの程度の量のレアメタル(特にコバルト)が含まれているかを直接知ることはできない。しかし、今後マンガンノジュールの化学分析を精密に行ってレアメタル含有量を明らかにし、今回開発した面積算出法と組み合わせることで、南鳥島EEZ内に存在するレアメタルの総量を精度よく算出することができるようになり、有望海域の効率的な絞り込みに繋がると期待される。

産総研など 機能性酸化物ナノ粒子の高速合成法を開発

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2019年12月2日

 産業技術総合研究所と先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)は共同で、粒子径の揃った機能性酸化物ナノ粒子を高速に合成する手法を開発した。

 急速加熱が可能なマイクロ波反応容器を用いた水熱合成法により、光学特性が環境温度に依存して可逆的に変化する、サーモクロミック特性を示す二酸化バナジウム(VO2)ナノ粒子を、従来の30分の1程度の短時間で合成できる。さらに、粒子径が揃い、粒子径の小さなVO2ナノ粒子の合成も可能になった。

 VO2は次世代自動車のスマートウィンドウ用途での活用が期待されている。次世代自動車の航続距離を伸ばすには、冷暖房負荷を減らす必要があるが、視認性を確保するため、可視光域は調光せず、近赤外光域の熱線だけを調光する特性が求められる。また、設置やコスト面から自律的に調光する材料が望まれており、それがサーモクロミック特性をもつVO2である。

 ただ、通常加熱の水熱合成法では、溶液の温度を急速に上昇させることが困難である上、溶液温度が空間的に不均一になるため、サーモクロミック特性を示すVO2ナノ粒子を合成するには、30時間程度の時間を要し、粒子径の揃った小径のナノ粒子の合成は困難であった。

 マイクロ波を用いた水熱合成法では、極めて短時間で均一に溶液の温度を上昇させることができ、通常加熱よりも合成温度を高温にできるものの、通常加熱の水熱合成で用いてきた原料溶液では、目的外の結晶相も形成されてしまうため、良好なサーモクロミック特性を示すVO2ナノ粒子が合成できなかった。

 そこで、均一加熱・急速加熱・高温加熱という、マイクロ波水熱合成法の利点に適した原料溶液を調製することで、合成に要する時間を1時間以内まで短縮。さらに、短時間で合成が終了するため、粒子の成長を抑えられ、従来よりも小粒子径で粒子径が揃ったナノ粒子が合成できるようになった。

 なお、この研究開発は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の受託事業による支援を受けて行った。

 

京大・産総研 合成ダイヤを使い量子センサーで世界最高感度 

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2019年10月8日

 京都大学と産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、人工的に合成したリンドープn型ダイヤモンドを使い、NV中心(窒素―空孔中心)の室温での世界最長電子スピンコヒーレンス時間(T2)と、単一NV中心を用いた量子センサーの世界最高の磁場感度実現に成功したと発表した。

 京大化学研究所の水落憲和教授やエンスト・デイヴィッド・ヘルブスレブ特定研究員、産総研の加藤宙光主任研究員らの研究グループによるもの。

 NV中心とは、ダイヤモンドの格子中の炭素の位置に入った窒素と、それに隣接する炭素原子が抜けてできた空孔から成る不純物欠陥。また、T2とはスピンの量子的な重ね合わせ状態が、e分の1の大きさ(eは自然対数の底)になるまでの時間のこと。

 今回の成果により、n型半導体特性を生かした量子デバイスへの幅広い応用に道を開くことが期待される。高品質のダイヤモンドが人工的に合成できるようになり、これを使ったこれまでにないデバイスの実現が期待されている。

 中でも注目されるのがNV中心である。NV中心は室温でも長いT2を持ち、超高感度量子センサや量子情報素子の実現、量子センサの生命科学分野への応用の観点から注目されている。

 量子センサーではT2が長いほど感度が良くなり、今回の研究では、産総研で作製した高品質なリンドープn型ダイヤモンド中の単一NV中心のT2が、あるリン濃度で非常に長いことを見出した。

 リンは電子スピンを持つため磁気ノイズ源となり、リンをドープするとT2は短くなると考えるのが常識だが、今回の結果はそれに反するものだった。リン濃度だけを変えた試料での結果からも、一定量以上のリンがドープされた試料で世界最長のT2が測定され、リンドープの効果が確認された。

 n型ダイヤによるT2長時間化は、合成中に生成した空孔欠陥が電荷を帯び、磁気ノイズ源となる複合欠陥の生成が抑制されたためと考えられる。精密なノイズ測定から、今回の試料でのノイズ源は、リン以外の不純物欠陥の電子スピンであることが示唆され、それらを抑制することで、さらなるT2の長時間化も見込まれる。

 なお、この成果は8月28日に英国の国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載された。

 

東大など 金属性プラスチック実現、イオンで電子を制御

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2019年9月10日

 東京大学と科学技術振興機構(JST)、産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、世界で初めてイオン交換が半導体プラスチックでも可能であることを明らかにしたと発表した。

 イオン交換は古くから水の精製、タンパク質の分離精製、工業用排水処理などに応用されている。今回の研究では、極めて普遍的なイオン交換を使い、半導体プラスチックの電子状態を制御する革新的な原理を明らかにした。また、この原理を利用して、半導体プラスチックの電子状態を精密に制御し、金属的な性質を示すプラスチックの実現にも成功した。

 半導体中の電子の数やエネルギーは、半導体の結晶の中に少量の不純物(ドーパント)を添加することで制御することができる。不純物ドーピングはエレクトロニクスデバイスを支える最も重要な半導体技術で、半導体プラスチックにも適用されており、電気が流れるプラスチックである導電性高分子は、さまざまな電極材料や機能性コーティング剤として産業応用が拡大されつつある。

 しかし、ドーパント分子は大気中の水や酸素と反応して、ドーパントとしての機能が簡単に失われてしまうため、この酸化還元反応の制約を乗り越えることが望まれていた。

 東京大学大学院新領域創成科学研究科の山下侑特任研究員、竹谷純一教授(産総研・東大先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ研究員など兼務)、渡邉峻一郎特任准教授(JST戦略的創造研究推進事業研究員など兼務)の研究グループは、これまで半導体プラスチックとドーパント分子の二分子系で行われていたドーピング手法に対し、新たにイオンを添加することで、従来よりも圧倒的に高い伝導性をもつ導電性高分子の開発に成功した。

 さらに適切なイオンを選定することで、イオン変換効率がほぼ100%になること、ドーピング量が増大することも明らかにした。このように高いドーピング量をもつ半導体は、金属のような電気抵抗の温度依存性を示すことも分かった。

 イオンは低い電圧で大量の電荷を駆動・蓄積でき、他の化学種との高い反応性をもつ。電子もイオンも電荷を運ぶ媒体であるため、両方の特徴を生かしたイオントロニクスの研究が盛んに行われているが、今回の研究で実現した金属性プラスチック内のイオン交換反応により、イオントロニクスデバイスの実現を大きく前進させることが期待されている。