北海道大学と京都大学、東京都立大学の共同研究グループは、プロパン脱水素によるプロピレン製造過程で、高温条件下、世界最高の耐久性と選択性を示す新規合金触媒の開発に成功した。開発したのは、白金(Pt)とガリウム(Ga)の合金ナノ粒子の表面に鉛(Pb)を添加した触媒(PtGa‐Pb/SiO2)。
研究グループは、この新規な触媒が、プロパン転化率30%、プロピレン選択率99.6%の高い触媒性能を600℃の高温下で、96時間以上もの長時間維持できる、極めて高い耐久性を持つことを見出だした。プロピレン製造時の触媒再生コストの大幅な削減が期待される。
プロピレンはプラスチックや合成ゴム、香料、医薬品といった様々な化成品の原料となる石油化学工業の重要な基幹物質。近年、シェールガス由来の安価なプロパンからプロピレンを製造するプロパン脱水素の需要が高まっているが プロピレンを高い収率で得るには600℃以上の高温を要するため、現行の工業プロセスでは炭素析出による触媒の著しい劣化が問題となっている。安定的なプロピレン製造には連続的な触媒の再生工程が必要になり、コスト削減の観点から高温でも劣化しない高耐久な触媒の開発が望まれていた。
同研究では、ユニークな性質と構造を持つPtとGaの合金(PtGa金属間化合物)に着目。PtGaは、熱安定性が高く高温でも構造が変化しない利点のほか、3つのPt原子からなる「Pt3サイト」と、1つのPt原子が複数のGa原子に囲まれ孤立した「Pt1サイト」の2種類の触媒活性点が表面に存在する特徴がある。
研究グループは、このうちPt3サイトはプロピレン生成だけでなく炭素析出も進行させてしまう一方、Pt1サイトがプロピレンを選択的に生成し、炭素析出を抑える優れた触媒活性点として機能すると予想。「Pt3サイトを何らかの方法で塞げば、耐久性の高い触媒を開発できる」と考えた。そこでPt3サイト上だけに触媒活性を持たない別の種類の金属原子を置くことを検討し、様々な種類の金属や触媒合成手法を駆使することでPt1サイトだけが機能する新たな触媒の開発に取り組んだ。
同研究により明らかになったPt1サイトの優れた触媒性能は、プロパンだけでなくエタンやイソブタンなど、その他の低級アルカンの脱水素やメタンの有効利用などにも応用できる可能性が高い。石化の発展に大きく寄与するとともに、触媒・材料開発の面でも幅広い波及効果が期待される。