柔軟な知財施策、事業戦略の一部として組み込む
三菱ケミカルは24日、中国における赤色蛍光体の特許侵害訴訟で全面勝訴が確定したことを踏まえ、知的財産戦略の強化について記者会見を開催し、知的財産部の阿部仁部長(4月から経営執行職知的財産本部長)が説明を行った。
近年、経営上で知財の重要性が高まっている。ただ知財戦略については、知財部門の活動方針や具体的な重要施策などを指す場合があり、定義が曖昧だ。阿部部長は「各社の知財戦略を見る場合、1つの側面からではなく、全体で捉えることが重要になる」と指摘した。
同社は、知財戦略の基本方針として、①重要資産である知的財産を有効活用し企業価値を高める、②知的財産権を保護し第3者から侵害された場合には適切な措置を取る、③第3者の有効な知的財産権を尊重する、を掲げている。この方針の下、知財戦略については、事業ごとに知財上の施策を定め実行する「知財戦略活動」に注力。阿部部長は「日本の機能性材料の特徴は、規模が小さい市場で、高いシェアをもっていることだ。つまり、市場でポジショニングを上手く取ることが高収益につながる」とし、事業ごとの状況(目標、環境)に応じた柔軟・フレキシブルな知財施策が重要になると指摘した。
そしてもう1つのポイントとして、知財が独立して戦略を立案するのではなく、全体の事業戦略の中で他の施策とセットで知財施策を議論していくことを挙げた。ビジネスモデル構築、市場開発、他社とのアライアンス、研究開発など全体的な事業戦略に知財を組み込んでいく考えだ。
こうした中、知財部門の役割として、知財施策の立案・実行を主導することに加え、事業戦略に主体的に参画していく。例えば、長い歴史をもつ石油化学事業の知財には、特許だけでなく、エンジニアリングや生産プロセス、オペレーションといった多岐にわたるノウハウの蓄積もある。すでにライセンスビジネスや、他社とのアライアンスに活用し収益化を図っているが、さらに拡大していくことを課題に挙げた。
また、会社全体で知財の底上げを図るために、事業部門・研究開発部門などの知財力の強化や、知的部門の人材育成もカギになる。阿部部長は「知財には専門性の高い人材が求められるが、事業をサポートするためにビジネス的な視点を併せもつ人材も必要だ。この2年間、知財部門の人材を事業部に派遣する人材ローテンションに取り組んできた。手応えを感じており、重要な施策として進めていく」と明らかにした。
一方、中国での赤色蛍光体の訴訟で全面勝訴したことについては「提訴以前から、知財について事業目標をしっかり定め、具体的な施策を策定・実行してきた。今回の勝訴は、これまで取り組んできた知財戦略が実を結んだ一つの成果だ」との見方を示し、「今後も知財戦略に基づいて、ビジネスや経営に知財を生かしていきたい」と語った。