産総研 透明電極の結晶化抑え透明有機デバイス高性能化

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2021年8月5日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、透明酸化物電極(透明電極)を使った透明有機デバイスの性能が透明電極の結晶化を阻害することで大幅に向上することを見出だした。窓のように透明性が要求される場所へも透明有機デバイス搭載が可能となり、用途が大きく広がる。

 有機デバイスは形状がフレキシブルであるため、皮膚などの複雑な形状の表面へも設置できる電子デバイスとして注目される一方、非透明であるため透明性やデザイン性が求められる用途には適さない。透明電極と組み合わせることで透明化できるが、透明電極を形成する過程でデバイスの電気特性が大幅に低下してしまうという問題があった。透明電極形成時に生じるプラズマや高エネルギー粒子によるデバイスへのダメージ低減に着目し、スパッタリング製膜法も開発されたが、本来のデバイス性能には届いていない。

 一方、透明電極の結晶化度が高いほど電気伝導性が高く性能向上に有利と予測し、透明電極/電荷注入層/有機薄膜/下部電極からなる透明有機デバイスの透明電極の結晶化を試みたが、逆にデバイス性能は低下。解析の結果、結晶化した透明電極の場合、電荷注入層/有機薄膜界面にギャップが形成され、デバイス内の電気伝導を阻害することが判明した。

 結晶化した透明電極では、透明電極内の応力が緩和する際に膜が変形し、膜面方向に微小な変位(位置のずれ)が生じ、電荷注入層下面と有機薄膜の上面が形状的に合致しなくなるので、電荷注入層/有機薄膜の界面に微細なギャップが形成されることが明らかとなった。

 一般に、酸化物薄膜の膜内応力は膜の結晶性を下げると低減することから、透明電極製膜中に結晶化を阻害する微量のガスを導入したところ、膜内応力は約4分の1に低減。これで有機電界発光デバイスを作製したところギャップは無くなり、電流/電圧特性と発光特性は大幅に改善した。

 今後、透明電極内の応力のさらなる低減と透明有機デバイスの高性能化に取り組むとともに、長期間使用時の耐久性など実用面の検討を行い、実用化に向けた研究を引き続き行っていく。