東レリサーチセンター SNORM開発、パワー半導体の局所応力解析

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2021年9月13日

 東レリサーチセンターはこのほど、堀場製作所(京都市南区)の協力の下、現在の光学限界を超えた空間分解能をもつ実用的な走査型近接場ラマン分光装置(SNORM)を開発したと発表した。この装置により、パワー半導体上の局所部の応力歪み解析が、世界で初めて約100㎚の空間分解能で行うことが可能となった。

 ラマン分光法とは、レーザー光を試料に絞り込んだ時に発生する散乱光をスペクトルとして検出し、試料の組成や歪み、結晶性などの様々な化学的な情報を抽出する分析手法。非破壊かつ前処理なしで測定が可能なことから幅広い分野で利用されている。特に半導体の分野では、異種材料接合部にかかった応力や結晶の不均一性などの評価で高い有効性が認められている。

 現在、ラマン分光法の空間分解能は物理的な光学限界(およそ0.5㎛)が達成されているが、近年の半導体デバイスの微細化に伴い、さらなる高分解能化が求められている。特に、最近、急速な発展が見込まれるSi系や炭化シリコン(SiC)系パワー半導体を中心に、電極・半導体界面やゲート酸化膜と半導体基板界面に発生する応力がパワーデバイスの電気特性に大きな影響を与えることが判明し、㎚オーダーの空間分解能を備える新規応力分析手法の実現が待望されている。

 ラマン分光法の光の回折限界を超える方法として知られる「近接場光」は、通常光が通ることのできない微小開口近傍のみに発生する「染み出し光」を指し、ラマン分光法の空間分解能の限界を打破する方法として注目されてきた。東レリサーチセンターはNEDOプロジェクトで近接場光を光源としたラマン分光装置を開発。100㎚を切る空間分解能でのシリコン半導体の応力解析に世界で初めて成功したが、当時は近接場プローブ(小さい針)の安定性や分光光学系の感度などの問題から、実用化には至らなかった。

 こうした中、同社は、堀場製作所の協力の下、深紫外355㎚レーザーを使い、測定深さが5㎚以下で安定動作が可能な新規近接場ラマン分光装置の開発に成功。近接場プローブも新規に開発し、NEDOプロジェクトで開発した装置よりも空間分解能やS/N比を向上させ、水平・垂直方向ともに約100㎚の空間分解能が安定して得られることを確認した。

 同装置は、従来の顕微ラマン分光装置で測定可能なすべての材料に適用できる可能性があり、次世代パワー半導体以外にも樹脂成型品や炭素材料、セラミックスなどの局所構造解析に有効であると考えられる。また、同社がすでに開発済みのTERS(チップ増強ラマン分光法)顕微鏡では信号強度が弱くて測定困難な高分子や細胞などへの適用も見込める。

 同社は今後、近接場プローブの開発でさらなる空間分解能向上を目指すとともに、パワー半導体だけでなく、高分子材料やライフサイエンス分野を中心に同装置の対象材料を拡大し、材料開発のさらなるスピードアップに貢献していく。

 

 

 

AGC 太陽光発電ガラス、シンガポール工科大に採用

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2021年9月13日

 AGCはこのほど、太陽光発電ガラスが、2024年オープン予定のシンガポール工科大学のブンゴル新キャンパスに採用されたと発表した。

シンガポール工科大学のプンゴル新キャンパス
シンガポール工科大学のプンゴル新キャンパス

 同キャンパスは、シンガポール建設局によって設けられた従来の建物で必要なエネルギーを省エネと創エネで40%以上を削減した建物に与えられる「SLE(スーパー・ロー・エナジー)認証」の取得を目指している。エネルギーの供給元を分散化して地域の再生可能エネルギーの有効活用を可能にするマルチエネルギー・マイクログリッドを、東南アジアで初めて設置する予定。

キャンパス屋内
キャンパス屋内

 同キャンパスのフードコート天窓部分に設置されるAGCの太陽光発電ガラスは、このエネルギー源の1つとして採用され、同キャンパスの大規模発電所への依存度低減に貢献するとともに、ガラス本来の特長である自然採光も可能となり、明るい空間を演出する。こうした太陽光発電ガラスの特徴に加え、同件の受注窓口であるAGCアジアパシフィック社(シンガポール)が、基本設計から材料供給、施工までのサービスをワンストップで提供している点も評価され、今回の採用に至った。

経産省、ALPS処理水の海洋放出に向け、具体策を説明

2021年9月10日

 経済産業省は10日、東京電力ホールディングスの福島第一原子力発電所における多核種除去設備(ALPS)等処理水の処分について、オンラインによる説明会を開催した。なお同省は、8月24日に当面取り組むべき対策パッケージを公表している。

原子力発電所事故収束対応室 福田光紀室長

 資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室の福田光紀室長は『ALPS処理水の海洋放出についてはIAEA(国際原子力機関)が評価しているものの、多くの人が懸念を抱いていると認識している。地元をはじめ様々な関係者に対して、安心が共有されるよう幅広く説明を尽くす努力が必要だ』と語った。

 

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産総研 透過光量を抑制する液晶材料の熱安定性を向上

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2021年9月10日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、神戸市立工業高等専門学校(神戸高専)、大阪有機化学工業と共同で、透明と白濁の切り換え繰り返しで高い耐久性をもつ液晶と高分子の複合材料を開発したと発表した。液晶と異方構造を有する高分子(異方性高分子)の複合材料は、生活温度付近で、低温で透明、高温で白濁に切り換わる機能をもち、調光ガラスなどへの応用が期待されている。

 近年、建物や移動体の省エネ化とユーザーの快適性の両立が着目され、有用な部材の開発が進んでいる。窓は太陽光を取り込むために必須である反面、太陽熱は冷暖房負荷や快適性に大きく影響する。調光ガラスは、太陽光の入射量を制御する部材で、様々な方式が提案されてきた。例えば、電気や雰囲気ガスで動作させるタイプは、ユーザーが切り換えたり自動化したりできる点で利便性が高く、特に電気方式はすでに上市されている。しかし、施工時の配線など設置条件や導入・運用費用にまだ課題が残る。それに対し、熱応答型は電源を必要とせず、施工後の後張りや必要に応じて剥がすといった取り扱いの容易さなどで有利な面がある。

 産総研は、多様なニーズに応えるため、電気、ガス、温度に応じて光の反射、吸収、透過が変わる様々な調光ガラスの開発を進め、それぞれの特徴を生かした提案を行ってきた。こうした中、3者は共同で、可視光の直進透過率を80%以上かつ太陽光の透過率を20以上制御する熱応答型の調光材料を2019年に開発。透明/白濁の繰り返し耐久性に課題があったが、今回、異方性高分子を架橋剤で網目構造化したことで、材料の熱安定性が高まり、繰り返し耐久性が大幅に向上。窓ガラスのメンテナンス保証期間(10年程度)に相当する回数で温度変化を繰り返しても持ちこたえる耐久性向上を達成し、実用化のめどがついた。次の段階では、耐久性と並ぶ実用化の課題であるコスト削減に着手する。

 一方、ガラス基板を用いた調光ガラスは、新築建物などの窓ガラス施工時の導入が想定される。国内にはすでに窓が設置された既築物件が多くあり、同技術を普及させるため、今後、後張りできる柔軟性のある透明基材による調光フィルムの開発に取り組む考えだ。

 

資生堂 赤外線が肌に悪影響を与えるメカニズムを解明

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2021年9月10日

 資生堂はこのほど、赤外線の影響を正確に評価する実験手法を確立し、赤外線が肌に悪影響を与えるメカニズムの一端を解明したと発表した。同社は、紫外線による肌の酸化ストレスが光老化の原因の1つであることや、太陽光強度のブルーライトが肌にダメージを与えることを見出だしてきたが、今回、赤外線による影響を確認した。

太陽光中の赤外線
太陽光中の赤外線

 赤外線は可視光より波長が長く、物体を温める作用をもち、天気の良い日に屋外で太陽に当たると、体表温度は数分で約40℃にまで達する。熱作用の影響を排除して光の影響を正しく評価するために、温度上昇をコントロールし光と熱の影響を切り分けて確認できる、独自の実験手法を確立した。

3つのタイプの光酸化 (イメージ図)
3つのタイプの光酸化 (イメージ図)

 線維芽細胞へ赤外線を照射した結果、赤外線の「光」ではなく赤外線によって生じる「熱」によって、シミや赤み、シワなどへの関与が示唆される血管内皮増殖因子(VEGF-A)が増加した。また、肌トラブルの原因となる皮膚中の過酸化脂質も赤外線による「熱」によって増加したことから、日常的に浴びうる赤外線によって生じる「熱」が、肌に悪影響を与えることが分った。

 健やかで美しい肌を保つには、紫外線酸化、ブルーライト酸化、赤外線酸化(熱酸化)の3種類の光酸化へ対応が重要だ。今回併せて、赤外線の熱による肌内部のVEGF-Aと過酸化脂質の産生を抑制する植物由来エキスも特定でき、赤外線の熱による肌ダメージを防ぐ可能性があるとしている。

JSR 3Dプリンター新製品、半値以下で高性能を実現

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2021年9月10日

 JSRは9日、100%子会社であるディーメックが、高精細な造形を実現できる光造形3Dプリンターの低価格版として、新製品「DARAM3(ダラム スリー)」の販売を開始したと発表した。

 これまでディーメックは、造形の精度と美しさが特長の光造形3Dプリンター「BAシリーズ」を開発し販売してきた。こうした中、最新機となる「DARAM3」は、高性能な光造形の特長を生かした上で部品や工程の徹底した見直しを行い、従来の半分以下の低価格を実現した。「BAシリーズ」と同じSLA昇降方式であり、高精細な造形を行うことができることに加え、高出力レーザーの採用により高速造形も可能だ。

 造形用の光硬化性樹脂としては、「BAシリーズ」でも実績のある高靭性、高透明、高耐熱などの特性をもった樹脂の使用が可能。自動車部品や家電部品、玩具や住宅設備など、試作を繰り返し行う場面で、初期段階の試作はもちろん、寸法精度やかみ合わせなどを確認する機能性試作としての利用も期待される。

 3Dプリンターは現在、様々な方式の装置が性能を競う。ディーメックの採用する光造形方式は3Dプリンターの元祖ともいえる伝統のある方式で、造形の精度と美しさには定評があり多くのユーザーが継続して使用している。ディーメックは、装置の保守メンテナンスを含めたアフターフォローでも引き続き高い評価を得られるよう、3Dプリンターのニーズに応えていく。

ブルーイノベーション 上下水道の3Dモデル化サービスを開始

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2021年9月9日

 ブルーイノベーションはこのほど、フソウと都市デジタルツインの中核である3D都市モデル整備に向け業務提携し、3Dスキャナとドローンによる上下水道インフラ向け3Dモデル化サービスのトライアル提供を開始したと発表した。

3 D スキャナによる施設撮影風景
3 D スキャナによる施設撮影風景

 同サービスでは、インフラ施設内部は設置型レーザー計測の3Dスキャナで、施設外部はドローンで撮影した画像からフォトグラメトリ(3DCGを作成する技術)で、それぞれ点群データ化。目視可能な上下水道インフラ施設すべてをありのままにデジタル化し、バーチャル空間上に実際に存在する都市と対になる双子(ツイン)の3D都市モデルを再現する。

 社会インフラを支えている上下水道インフラ施設は高経年化が進んでおり、幾度もの改築・更新工事の結果、設計図面がない、または設計図面があったとしても現状と異なる場合があり、設備の状況を正確に把握することが困難なケースが少なくない。

ドローンによる施設撮影風景
ドローンによる施設撮影風景

 これに対し、同サービスを導入することで設備をありのままに3Dモデル情報として可視化でき、関係者間でのイメージ共有や合意形成の迅速化と省力化、保守・運用業務の記録の一元化、遠隔化や効率化、高度化が実現できる。さらに、都市デジタルツインの実現に重要な3D都市モデルのデータとして、まちづくりのDXへの活用も可能となる。

 両社は今後、上下水道以外のインフラ施設への展開も視野にサービス開発を加速するとともに、持続可能で強靭な都市づくりに寄与する3D都市モデル整備に向けて、積極的に取り組んでいく。

 

NEOD 高効率なAI処理のプロセッサー設計を開発

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2021年9月8日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はこのほど、東京工業大学との研究チームがエッジ機器で高効率な畳み込みニューラルネットワーク(CNN)推論処理を行うプロセッサーアーキテクチャーを開発し、大規模集積回路(LSI)を試作したと発表した。

 今後、同技術の活用により、例えばスマートフォンの先進的な拡張現実(AR)アプリケーションやロボットの柔軟な動作制御など、電力供給量などの制約が厳しいエッジ機器でも高度なリアルタイムAI処理の単独での実行が期待できる。

 従来の深く枝刈り(プルーニング)されたCNNの推論処理では、メモリへのアクセスが不規則になるため計算効率が低下するという課題があった。こうした中、NEDOと東工大の研究チームは、既存のCNNモデルを変形して高精度で高効率な処理ができる形式に変換するアルゴリズムを開発。さらに、このアルゴリズムを効率的に処理するための、入力データの平面シフトを扱う整形機構と直積型並列演算アレイを中核としたアーキテクチャーを提案した。

 これにより試作LSIによる実測で、最大26.5TOPS/Wという世界トップレベルの実効効率を達成。今回の開発により、クラウド側で実行していた高度なリアルタイムAI処理をエッジ側で実行でき、AIサービスのプライバシー確保やクラウドへの通信量の削減などが期待できる。

 研究チームは今後、同研究の試作チップで実証した技術をさらに発展させ、枝刈り後の精度向上のための学習技術や、RISC-V(リスクファイブ)プロセッサーなどとのシステムレベル統合技術の開発など、より高精度・高効率なニューラルネット推論チップの実現を目指し、スマートフォンやロボットなどのエッジ機器での高度なAIアプリケーションの実現を目指す。

 

浜松ホトニクスなど 指先サイズの波長掃引レーザー開発

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2021年9月8日

 浜松ホトニクスはこのほど、独自の微小電気機械システム(MEMS)技術と光学実装技術を活用し、従来製品の約150分の1の世界最小サイズの波長掃引量子カスケードレーザー(QCL)を開発した。これにより、全光学式の分析装置を小型化できる。 

従来比約150分の1となる世界最小サイズの波長掃引QCL
従来比約150分の1となる世界最小サイズの波長掃引QCL

 火山の噴火予知のために火口付近の火山ガス中の二酸化硫黄や硫化水素などをモニタリングする際、電極でガスを検知する電気化学式センサーによる分析装置が多く使われるが、電極は火山ガスと接し性能劣化し短寿命であるため、長期間の安定的モニタリングにはメンテナンスが欠かせない。また全光学式の分析装置は、省メンテナンスで高感度、長期間安定して使用できるものの、光源が大きく装置が大型であるため、火口付近への設置は難しい。

 そこで、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が進める「IoT社会実現のための革新的センシング技術開発」で、同社と産業技術総合研究所(産総研)は昨年から小型・高感度・高メンテナンス性の全光学式次世代火山ガスモニタリングシステムの研究開発に取り組んでいる。

 光源のQCLは、中~遠赤外波長領域の高出力半導体レーザー。波長掃引QCLは、その光を高速で角度が変化するMEMS回折格子で分光し、波長を高速で周期的に変化させて出力する。MEMS回折格子を従来比で約10分の1に小型化し、小型磁石の採用と独自の光学実装技術により、従来の約150分の1にまで小型化(約5㎤)した。仕様は波長分解能約15㎚、掃引波長範囲7~8㎛、掃引時間20ミリ秒以下、最大ピーク出力約150㎽だ。これを産総研開発の駆動システムと組み合わせることで、高速動作と周辺回路の簡略化を実現し、光源として搭載することで分析装置を持ち運び可能なサイズまで小型化できる。

 今後、小型・高感度・高メンテナンス性の次世代火山ガスモニタリングシステムを構築し、多点観測などの実証実験を進める。また、浜松ホトニクスは同開発品と駆動回路や同社の光検出器を組み合わせたモジュール製品を2022年度内に発売し、化学プラントや下水道での有毒ガスの漏えい検出や大気計測など、応用拡大を図っていく考えだ。

三菱ケミカル 植物由来樹脂CPで生分解性リッドを共同開発

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2021年9月8日

 三菱ケミカルと大和製罐は7日、三菱ケミカルの生分解性樹脂コンパウンド「FORZEAS(フォゼアス)」を使用した生分解性リッド(紙コップなどのフタ)を開発したと発表した。

「FORZEAS」を利用した生分解性リッド
「FORZEAS」を利用した生分解性リッド

 現在、リッドは、一般的にポリスチレン(PS)などの非生分解性プラスチックで製造されているが、両社で材料開発や試作を重ね、生分解性リッドを開発した。材料には三菱ケミカルが製造する生分解性かつ植物原料由来の樹脂コンパウンド「フォゼアス」を使用し、大和製罐が成形加工を行う。

 リッドは、ホットドリンクにも対応できる耐熱性や飲み口のヒンジが切れないような柔軟性などが求められる。両社で素材の材料設計やリッドの形状設計の見直しを行うことで、要求性能を満たすリッドの開発に成功した。また、「フォゼアス」は素材そのものに優れた耐熱性があるため、ポリ乳酸など他の生分解性樹脂では必要となる耐熱性を上げるための特殊加工が不要で、既存のPSリッド成形機で成形が可能という特徴ももつ。

 今回の生分解性リッドは、三菱ケミカルの生分解性樹脂「BioPBS」を内側にラミネート加工した紙コップと組み合わせることにより、紙コップ容器とフタを分別せずに、コンポスト設備で一緒に分解可能になる。

 両社は今後、コンビニやカフェでの採用を目指し、生分解性リッドのサンプルワークを進めるとともに、食品包装向けに生分解性素材をトータルで提案できるような体制を整えていく。