産総研 高性能高信頼性n型有機半導体材料の開発に成功

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2020年5月25日

 産業技術総合研究所(産総研)は、東京大学、筑波大学、北里大学と産総研・東大先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリが、高信頼性かつ高電荷移動度、大気、熱、バイアス(動作電圧)ストレス耐性を併せ持ち実用に耐えうる塗布型n型半導体材料の開発に世界で初めて成功した。

 この材料は、新しい分子設計指針に基づく電子輸送性BQQDI(ベンゾイソキノリノキノリンジイミド)骨格を持つ塗布型n型有機半導体材料で、IoT社会のキーデバイスである電子タグやマルチセンサーの実用化を加速させることが期待される。

 現在汎用される主としてシリコン系の無機半導体は、電荷移動速度は高いが、重く、硬く、製造にも300~1000℃の高温が必要となる。一方、軽量かつ柔軟で、印刷による低温作製によりコストと環境負荷を大幅に軽減した有機系半導体が注目され、すでに無機半導体のアモルファスシリコンより1桁高い10㎠/V・s級の正孔移動度を持ち、実用に耐える環境ストレス耐性を示す印刷可能なp型半導体が報告されている。多種多様なハイエンドデバイス開発のためには、p型と同程度の安定性、プロセス性およびデバイス性能を併せ持つn型有機半導体が求められていた。

 こうした中、今回、ペリレンジイミド骨格に窒素を導入したBQQDI骨格を持つ有機分子が、大気下で安定なn型有機半導体の母骨格となることを発見。特に、フェネチル基を導入したPhC2‐BQQDIの単結晶が三㎠/V・sの電子移動度および高い信頼性因子を示すことを見出だした。大気下で6カ月以上安定にデバイスを駆動することが明らかとなり、熱ストレスやバイアスストレスに対しても極めて高いデバイス安定性が実証された。

 さらに、この優れた半導体特性が、無機半導体同様のバンド伝導機構に基づくことも実験的に証明された。分子力学計算と伝導計算からも、窒素を介した多点水素結合が分子間振動を抑制し電子移動度を向上させていることが明らかとなった。また、CMOS論理回路に応用することにも成功。

 BQQDI骨格は性能・耐性ともに前例のないn型有機半導体で、次世代エレクトロニクスの研究と産業の戦略材料になるだけにとどまらず、曲がるディスプレー、電子タグ、マルチセンサー、熱電変換素子、薄膜太陽電池などの開発への貢献が期待できる。

 なお、PhC2‐BQQDIは、来月上旬から富士フイルム和光純薬から試薬として販売される予定。

 

産総研 血管をもつ生きた3次元組織の作製技術を開発

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2020年5月13日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、細胞分子工学研究部門ステムセルバイオテクノロジー研究グループが、実際の臓器と似た構造の血管をもつ組織を人工的に作る技術を開発したと発表した。

今回用いた組織培養デバイスと作製した血管を持つ人工組織
今回用いた組織培養デバイスと作製した血管を持つ人工組織

 細胞と組織ゲルを組み合わせてヒトの臓器や腫瘍を模倣した人工組織「3次元組織」は、医薬品開発や再生医療、がん研究といった分野で、医薬品の検査、失った臓器・組織の置き換え、抗がん剤の試験などへの応用が期待されている。

 しかし、3次元組織に動脈のように送液できる主血管や、そこから分岐する毛細血管を作ることは困難であり、失った臓器・組織の治療のために効率よく酸素と栄養を供給したり、医薬品の試験のために組織内部に薬剤を流し込んだりすることは難しかった。

 今回開発した技術は、組織培養デバイスの中で、組織や血管の元になる細胞(臓器の機能を担う実質細胞、血管の元になる血管内皮細胞、血管の形成を助ける間葉系幹細胞)とコラーゲン(組織ゲル)を混ぜ合わせて培養することにより、主血管と毛細血管をもつ3次元組織を作製する。この組織は、培養デバイスで培養液を流すことで、1週間程度維持することができた。

 血管に培養液を流すことで、酸素や栄養、薬剤の供給が可能となり、材料とする細胞やデバイスの形・大きさを変えることで、様々な組織(臓器や腫瘍)へ応用することができ、創薬や再生医療といった幅広い分野への貢献が期待される。

 今後は、より大きな組織(臓器)の作製や、がんモデルでの抗がん剤の評価、iPs細胞由来の細胞を用いた組織の大量生産・高機能化、他の細胞を用いての脳や膵臓、小腸の作製を行う。また、培養デバイスにも改良を加え、安定的な長期間の組織培養や、様々な形の三次元組織の構築を目指す考えだ。

 なお、今回の開発は、日本学術振興会の助成金と、日本医療研究開発機構の委託事業「防御シールドを形成し、免疫監視を回避するがん微小環境の理解と医療シーズへの展開(2018~20年度)」による支援を受けて行った。

昭和電工 AIでフレキシブル透明フィルムの開発を迅速化を実証

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2020年4月15日

 昭和電工はこのほど、産業技術総合研究所(産総研)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)と共同で、フレキシブル透明フィルムの開発に人工知能(AI)を活用することにより、要求特性を満たすフィルムの開発の実験回数を25分の1以下に低減できることを実証したと発表した。

フレキシブル透明フィルムの用途例
フレキシブル透明フィルムの用途例

 今回の開発は、NEDOの「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト(超超PJ)」の委託事業として実施。超超PJでは、経験知による従来の材料開発からの脱却を目指し、AIやマルチスケールシミュレーションを積極的に活用することで、従来と比較して実験回数を削減し、開発期間を大幅短縮することを目指している。

 昭和電工など4者は、モバイル機器などの開発に欠かせないフレキシブル透明フィルムの設計にAIを活用し、要求特性を満たすポリマーの探索に取り組んでいる。

 はじめに熟練研究員が27種類のフィルムを作成し、その原料の分子構造、モル比などの化学的な情報をECFP(Extended Connectivity Circular Fingerprints)という手法を応用して説明変数に落とし込み、目的変数にはトレードオフの関係にあり並立の難しい物性である換算透過率、破断応力、伸びの3項目を選択し、作成したフィルムの実測データをAIに学習させた。

AI予測を行い作製したフレキシブル透明フィルム(引張試験中の写真)
AI予測を行い作製したフレキシブル透明フィルム(引張試験中の写真)

 その後、説明変数を網羅的に割り当てたデータを用意して、偏差値概念を導入したAIにこれら3項目が等しい割合で最大となる配合を予測させ、その予測の通りに3種類のフィルムを作成し、AI学習データを作製した熟練研究員が自己の知見に基づき作成した25種類のフィルムの物性値とを比較した。 

 この結果、AIが予測した配合で作成した3種類のフィルムの物性値は、いずれも比較実験として熟練研究員が作成した25種類のフィルムの物性値よりも優れていることが判明。研究員による開発に比べて25分の1以下の実験回数でより高い物性値のフィルムを得られたことから、大幅な開発期間の短縮が可能なことが実証できただけでなく、研究員の経験知をもとに作成した製品を超える製品が開発できる可能性があることも実証した。

 今後は同技術をさらに高度化させ、要求特性を満たしながらより良い物性値となる配合比をAIが提案できるように開発を進めていく。なお、同件の詳細は、超超PJ成果報告会のウェブサイトに発表された。

東大・産総研など 世界最速の有機トランジスタ実現

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2020年3月24日

 東京大学と産業技術総合研究所(産総研)、物質・材料研究機構の共同研究グループはこのほど、有機半導体単結晶の薄膜上で、チャネル長1㎛スケールの微細加工手法を新たに開発した。

 高移動度と短チャネル化を同時に達成したことで、同研究グループが持つこれまでの世界記録を2倍程度更新し、世界最速となる38M㎐の遮断周波数を達成した。また、この有機トランジスタには交流信号を直流信号に変換する整流性があり、100M㎐でもその整流性が失われないことを実証した。

 世界中で有機トランジスタの高速化が進められている中、同研究グループは超短波帯で動作する有機トランジスタの開発に世界で初めて成功した。

 有機半導体は有機溶媒に溶かしたインクから、印刷プロセスにより柔軟性のあるデバイスを作製できることから、次世代半導体材料として期待されている。同研究グループではこれまでに、厚さわずか数分子層(10㎚程度)からなる有機半導体単結晶超薄膜を、大面積で塗布可能な印刷手法を開発している。このような高品質の有機単結晶薄膜では、高い移動度が実現されており、有機トランジスタの高速化に極めて有望だ。

 半導体集積デバイスの応答周波数は、論理演算を担うトランジスタの移動度と、そのチャネル長に依存する。微細加工手法として、フォトレジストを用いたリソグラフィが広く使われているが、多くのフォトレジストは有機半導体薄膜にダメージを与えることが知られており、有機トランジスタでは、リソグラフィによる高移動度と短チャネル化を両立することは困難だった。

 今回、同研究グループは有機半導体単結晶の薄膜上に、フッ素系高分子膜を薄くコーティングすることで、有機半導体でのダメージフリーリソグラフィ手法を新たに開発し、1㎛スケールの微細加工を達成。超短波帯で動作する有機トランジスタの開発に世界で初めて成功した。

 物流管理などに広く用いられている、RFIDタグの通信周波数である13.56M㎐より十分に大きな値であることから、今回作製したデバイスは、無線タグの給電に十分応用可能なレベルに達していると言える。

 さらに、超短波帯はFMラジオ放送やアマチュア無線などの電波として利用されているが、将来、応答周波数がさらに増加することで、超短波帯を利用した長距離無線通信が可能な有機集積回路の実現が期待される。

 また、簡便な印刷プロセスで量産できることから、今後のIoT社会を担う物流管理に用いられる低コストの無線タグや、電磁波から電力を供給する無線給電システムへの幅広い展開が考えられる。

 

産総研 ゴム複合材料を開発、金属並みの熱伝導性を実現

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2020年3月6日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、ゴムのように柔軟で、金属に匹敵する高い熱伝導性を示すゴム複合材料を、東京大学と開発したと発表した。

 産総研のタフコンポジット材料プロセスチームと、東大大学院新領域創成科学研究科の寺嶋和夫教授らは、カーボンナノファイバー(CNF)・カーボンナノチューブ(CNT)の2種類の繊維状カーボンと、環動高分子のポリロタキサンを複合化させることで、金属並みの熱伝導性を実現した。

 今回開発したゴム複合材料は、フレキシブル電子デバイスの熱層間材や放熱シート、放熱板などへの応用が期待される。実験ではポリロタキサン中にフィラーとして、サイズの異なる2種類の繊維状カーボン(CNFとCNT)を分散させた。

 CNFは太さ200㎚で長さ10~100㎚、CNTは太さ10~30㎚で長さ0.5~2㎚。ゴム材料への繊維状カーボンの分散性の改善と、複合材料中の熱伝導ネットワークの形成が、高い熱伝導性のカギと考えられていることから、分散性改善のため、CNFとCNTを重量比9対1の割合で塩化ナトリウム水溶液に分散し、独自に開発した流通式水中プラズマ改質装置を通して表面改質を行った。

 次に、このCNF/CNT混合物を溶媒のトルエン中で、ポリロタキサン・触媒・架橋剤と混合した後、交流電界をかけながら架橋反応させてゲルを作製。得られたゲルをオーブンで加熱して溶媒を取り除き、フィルム状の複合材料を得た。

 この複合材料内部の電子顕微鏡像では、表面改質により繭状の凝集体がほぐれ、加えた電界の方向にCNFが配列していた。さらに、配列した大きなCNFに小さなCNTが巻き付き、CNF間をつなぐように分散していた。少量のCNTがCNF同士をつなぐことで、複合材料全体にわたる熱伝導のネットワークが形成され、高い熱伝導性が実現したと考えられている。

 今後はCNFの配向条件や改質条件を最適化して、熱伝導性と柔軟性の向上を図るとともに、フィラーの3次元構造の観察や解析を通して、複合材料の構造と特性との数理的関係の解明を進める。さらに、企業との共同研究により、部材とデバイスへの展開・実用化を図る。

 

産総研 超広帯域発光素子を開発、明るさと長寿命実現

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2020年2月12日

 産業技術総合研究所(産総研)は小型ハロゲンランプをしのぐ明るさと、1000時間以上の長寿命性を併せ持つ超広帯域発光素子を開発した。この発光素子は350㎚の近紫外線から1200㎚の近赤外線までの波長範囲の光を発光できる。

 この発光波長範囲は、広く利用されている光センサーや撮像素子(CCDなど)が感じることができる範囲(感光域)とよく一致しており、それら「機械の眼」にふさわしい効率の良い光源と言える。

 様々な方式による広帯域発光素子の開発が世界的に行われている中で、今回開発した素子は、紫外LEDと、そのLEDの光で励起され、さまざまな波長の光を発する複数の蛍光体を組み合わせて作製した。蛍光体を取り巻くバインダー材料や蛍光体層の物理的構造を改良することによって、実用製品に適用できる明るさ(発光強度)と安定性(寿命)を実現した。

 その結果、小型のハロゲンランプを光源とする超小型計測器や分析機器、例えば、鮮魚や精肉の脂乗りを分析するポータブル分析機器や、果実の糖度を非破壊で計測する機器などの上位互換の代替光源として使用できるようになった。この新たな光源素子の登場が引き金となり、従来の光源では実現できなかったパーソナルヘルスケア用の小型光センサーなど、新しい製品群の創出が期待される。

 今後、さらなる発光強度向上や安定性の向上に関する基礎研究を加速させるとともに、実用に向けたプロセス技術の開発を推し進め、より多くの目的に応える素子の開発やカスタマイズを進める。また、連携パートナーを募り、量産技術の開発や適用製品開発も行う。