【新年特集】昭和電工代表取締役社長 髙橋秀仁氏

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2022年1月5日

完全統合に向け新体制、価値観共有による人材育成を図る

 ━2023年の完全統合(法人格統合)を前に両社の社長に就任されました。

  昭和電工と昭和電工マテリアルズ(SDMC)の統合作業は順調に進捗しており、1月からは経営判断の一本化、CXO(最高責任者)をチームとする経営組織体制への移行が滞りなく進捗した。これに伴い、社長も一本化したほうが良いと森川現会長、丸山現会長が判断され、私が社長に推薦されたと推察している。

 統合新会社の社長に求められる役割は経営の質の向上だ。ただ経営は1人で行うものではなく、経営チームとしての体制づくりが重要になる。新たな12人の執行役員は、昭和電工から7人、SDMCから5人の構成だが、昭和電工の7人のうち、私を含め5人が2015年以降の入社だ。現在はこれだけの規模の2社が1つになる、いわば有事だという認識のもと、内部昇格者と外部採用者の非常にバランスが取れたキャビネットができた。それぞれの分野の専門家が集まり、チームで経営する体制が整ったといえる。

 ━入社以降の変革の成果について。

 私が昭和電工に入社してから一貫して取り組んできたことは3つある。1つ目はポートフォリオの改革だ。具体的には独SGL社の買収によるカーボン事業の強化、川下のコーティング材料会社の買収、最後に日立化成の公開買い付けを行った。これにより、当社は大きく変革したと自負している。

 2つ目は事業経営の見える化を図ったことだ。KPI管理の導入と報告書のフォーマットの標準化により、事業間に横串を通すことができた。

 3つ目がマーケティング力の強化だ。私は以前から日本の総合化学メーカーはマーケティングに対する意識が低いと感じていた。そのため、戦略企画部にマーケティングチームを新設し、研究開発の方向性を市場に近づけた。今回の両社の統合に伴い、マーケティング力が高いSDMCの組織と合流して体制が強化された。これから大きな成果が出てくると期待している。これら3つの取り組みはすべて目処が立った。社長就任を機に、今後は人材育成にすべてをかける考えだ。

 ━どういった人材を育てていきますか。

 今回、当社グループが求める人材像として、4つのバリュー(価値観)を定義した。1つ目が、「プロフェッショナルとしての成果へのこだわり」だ。サラリーマンではなく、プロフェッショナルとして、自分がやるべきことが分かり結果を残せる人を指している。ほかは「機敏さと柔軟性」「枠を超えるオープンマインド」「未来への先見性と高い倫理観」だ。言語化するだけではなく、この価値観を従業員に浸透させていくための仕組みづくりも行う。バリュー(価値観)を人事制度に落とし込み、これから従業員の評価は、「仕事の実績」と「4つのバリュー(価値観)」の二軸で行っていく。

 今回、統合に向けて経営組織を検討した際に、グローバルカンパニーをベンチマークとして比較したが、一番差が大きいのがHR(ヒューマンリソース)=人事だった。日本の人事は労政と制度が主であるのに対し、グローバルカンパニーのHRは、価値観の共有やリーダーシップトレーニング、サクセッションプランニングなどに注力している。今後、日本の人事を支えてきた新卒採用、学歴主義、年功序列、終身雇用のパッケージが崩れていく中で、人材確保のためには、モチベーションや価値観、トレーニング、上司から部下へのフィードバックなどが重要になる。これらをきっちりできる体制を整えていかなければ、会社が生き残っていくことさえ難しくなってしまうだろう。

 ━新しい企業風土を作っていくのですか。

 新たな人事評価によって、当社が求める価値観と行動様式に合わない従業員は、マインドを変えるか、変えられなければ会社を去ることも選択肢となる。さらに新入社員や中途採用に対しても価値観と行動様式が選考基準になる。そうなれば、当社には同じ価値観と行動様式を共有する人材しかいなくなる。これによって何を目指すかといえば、価値観やポテンシャルが高い人材を見つけ出し、トレーニングを積ませ、早めに将来の幹部候補を育成していくことだ。若いうちに経験を積んで出世した人がロールモデルとなる。こうしてハイポテンシャルな人材のプールができれば、会社に好循環が生まれてくる。また、従業員にとっても、こうした上司の下では、働き甲斐とやる気が出てくるだろう。もちろん、ここまで到達するには並大抵のことではない。10年はかかると見ているが、誰かが始めなければならない。

 ━髙橋社長が目指される「良い会社」とは。

 当社は長期ビジョンにおいて「世界で戦える会社」を掲げているが、良い会社であることが世界で戦える会社の条件になる。良い会社になるためには、会社のクオリティを向上させるだけではなく、しっかり業績で結果を出して収益を上げることも重要だ。十分な収益があるからこそ、サステナビリティや社会貢献、DXに投資ができるからだ。そのため長期ビジョンでは、2025年に売上高1兆~2兆円、EBITDAマージン20%の達成を掲げた。世界で戦える会社として、クリアしていかなければならない目標となる。さらに今年からは、投資効率の観点からROIC10~15%も新たな指標に加える考えだ。株主と従業員では良い会社の意味が異なり、両立させることは簡単ではないが、当社以外でもどこへ行っても通用できる人材を育てること、人材育成がその答えになる。人材育成で従業員自身のスキルアップはもちろん、そうした人材が多くいる会社は売上や利益も伸びるわけであり、ステークホルダーが求める企業価値の向上にもつながってくる。

 ━昭和電工グループの強みをどう見ていますか。

 当社はポートフォリオの中に、成長事業を持っていることが一番の強みだ。特に、半導体材料は規模や品揃えで他社を圧倒しており、2500億円超の売上規模がある。またSiCエピウェハや再生医療といった次世代事業も需要が高まっており、今後どういう花を咲かせてくれるかを楽しみにしている。研究開発についてもシナジーが発現する。昭和電工の素材技術、SDMCの加工技術が一体化したことで、素材とアプリケーションの間がつながり、技術の擦り合わせがしやすくなった。バリューチェーンが長くなればなるほど、素材からプロセスまでをブラックボックス化することが可能になる。そして製品開発において、素材と加工の境界線での擦り合わせが難しいほど、それを自社でできる当社の勝つチャンスが大きくなり、収益性の向上も期待できる。

 ━一方、課題については。

 1つは、コア成長事業に位置づけているモビリティ分野の見直しだ。コロナ禍の影響やグリーン化の加速により、各事業の状況が変化している。今後、市場が伸びてくる電気自動車(EV)に照準を合わせ、この分野のポートフォリオを再構築していく必要がある。また、石油化学やカーボンといった市況の波に左右される事業のボラティリティの軽減や、資源価格の影響を受けやすいバルク系化学製品群の収益の安定化も重要なテーマと捉えている。

 ━事業環境が大きく変化しています。

 2021年は、当社のほとんど事業環境が改善傾向となった。自動車分野は半導体不足の影響を受けたものの、エレクトロニクス分野は旺盛な需要が継続した。石化事業も原油価格の高騰で製品価格が上昇したことに加え、受払差益も寄与した。またカーボン事業も需要が戻りつつある状況だ。

 2022年については、コロナ禍の鎮静化や、資源価格の動向などが不透明であり先を見通すのが難しい。特に石化事業は、原油価格が不安定な動きを見せており、2022年は厳しい状況になるかもしれない。また化学品についても、原材料価格の高騰分をしっかり製品に転嫁することが重要であり、また、転嫁されるものであると広く理解してもらうことが必要だ。一方、カーボン事業は大幅な改善を見込んでいる。黒鉛電極はフル販売を想定しており、ここでしっかり収益を確保していく。このように事業環境はまだら模様となる見通しであり、楽観はしていない。

 ━コングロマリットプレミアムをどう実現していきますか。

 当社は多岐にわたる事業を持っているが、各事業の価値を個別に出して足し算した企業価値よりも、市場における企業価値が下回っている状況であり、コングロマリットディスカウントが起こっていることは否定できない。これは、コングロマリットの価値が算出しにくいことも背景にある。例えば、当社のライフサイエンス事業の価値が評価されず、株価に反映されていない。そういった意味において、市場との対話を行うIR活動は改善していかなければならない。コングロマリットでディスカウントを起こさないためには、株主目線の経営でやるべきことをやる、技術的なシナジーを追求する、価値観を共有する優秀な人材を育成する、この三つを地道に取り組んでいくしか方法はない。

 ━汎用品と付加価値品では利益率も戦略の時間軸も違います。

 コングロマリットディスカウントの解消には、高い収益率が求められるが、そのためには事業ポートフォリオの売上構成比を変えていく必要がある。当社でいえば、利益率の高いエレクトロニクス分野をはじめとした成長事業の売上高を、2030年に6000億円の規模に拡大することを目指している。これが達成できれば、石油化学や化学品の利益率が低下したとしても十分カバーすることができる。一方、事業の選択と集中をより強化する方法もあるが、私は企業の中にいろいろなフェーズの事業を持つことは必要だと考えている。エレクトロニクス、石油化学、機能性材料などは、経営の仕方や収益性、時間軸も異なってくるが、この環境が全く違う事業間で人事のローテーションを行うことが人材の育成・成長につながるからだ。将来のリーダー候補には、全部のフェーズを経験させたい。

 ━石油化学事業の将来をどう見ていますか。

 石油化学事業は、エネルギー多消費型でCO2排出が多いことから、カーボンニュートラル(CN)への対応が大きなテーマになっている。今後、業界全体としてクラッカーの再編・統合を検討する場合に、どこがオーナーとして適切かを考えていく必要がある。またCNに向けた対応により、上昇が避けられないコストを誰が負担するかといった課題も併せて議論しなければならないだろう。

 ━理想とするリーダー像はありますか。

 リーダーに必要なものは何かと問われた場合、人物のチャーム(魅力)に尽きると答えている。人から好かれ、人が集まってくるリーダーが理想だ。また、外資系企業に在籍した経験からすると、日本の会社は上司が部下を褒めるケースが少ない。褒められて悪い気がする人はいない。たった一つの褒め言葉が仕事のモチベーション向上につながる。仕事をする上で、現場には緊張感が必要だが、頑張った従業員に対しては、人として評価するべきだと考える。これが当たり前のように行われる会社にしていきたい。