東京大学など、高次トポロジカル絶縁体で次世代省エネに一歩

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2021年1月26日

 東京大学と東京工業大学の研究グループはこのほど、産業技術総合研究所(産総研)、東京大学大学院、大阪大学大学院らの研究グループと共同で世界初の高次トポロジカル絶縁体の実現を擬一次元積層物質の実験で明らかにしたと発表した。

 高次トポロジカル絶縁体は、近年理論的に存在が予想された新しい量子相だ。結晶内部は絶縁体だが表面の特定の稜線が金属化し、スピンの向きのそろった電子が一次元で安定して流れる(スピン流)。電子の「電荷」と「スピン」の性質のうち、「電荷」を利用するのがエレクトロニクスだが、スピントロニクスは「電荷」と「スピン」の両方を活用する次世代省エネ技術の1つで、高性能ハードディスクなどに応用されている。原子層物質と呼ばれる薄いシート状物質を「積み木」のように積み上げることで、新奇な電気・磁気的性質を生み出せる。

 トポロジカル絶縁体は結晶の表面全体が金属化するのに対し、高次トポロジカル絶縁体は試料の稜線だけが金属的であることが予想されていたが、三次元結晶では未確認だった。今回、トポロジカル原子層を自在に組み換えられる擬一次元ビスマスハライド(ヨウ素、臭素化物)に着目し、積層の取り方によって様々なトポロジカル量子相を実現できる物質設計指針を提案した。また、角度分解光電子分光法による電子状態の直接観測で、Bi4Br4(ビスマス臭化物)が世界初の高次トポロジカル絶縁体であることを実証した。

 Bi4Br4は奇数番目と偶数番目の層が交互に180度反転しながら積み上がり、結晶表面には無数の階段構造が形成し1つ1つに稜線ができる。結晶内電子が感じる対称性が通常と異なるため、結晶の稜線だけが金属となり高次トポロジカル絶縁体状態となることが分った。また、稜線に沿って流れる電流の総量は大きいため検知できた。

 今後、積層の取り方による物質設計指針により、従来のトポロジカル絶縁体とは異なる新奇な性質が見出だされることが期待される。また、接着テープなどで積層物質からトポロジカル性質の薄片を取り出せるため、省電力スピン流デバイスや量子計算デバイスへの応用が期待される。

 

エア・ウォーター ごみ焼却炉CO2回収設備の開発着手

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2020年10月14日

 エア・ウォーターはこのほど、環境省の実証事業「清掃工場から回収した二酸化炭素の資源化による炭素循環モデルの構築実証事業」で、ごみ焼却炉排ガスからCO2を回収する商用規模の設備の開発に着手した。清掃工場から回収したCO2のメタネーションによるエネルギー資源化は世界初の取り組み。代表事業者である日立造船からCO2の分離・回収に係る事業範囲の再委託を受け、2018年度の事業開始当初から参画し、設備の設計・製作・実証を担当してきた。

 神奈川県小田原市環境事業センターでの小規模実証試験で所定のCO2純度・回収率を達成したため、今年から規模を拡大する。設備仕様はCO2純度80%以上、回収量125N㎥/hの予定。

 同社グループは長年、産業ガス事業で培ってきたガステクノロジーや多彩な事業領域に対応する技術開発を深化させ、脱炭素社会に対応し環境負荷の低減に貢献する取り組みを進めている。

 

ハイケム 副生ガスからEG生産、CO2削減へ

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2020年9月7日

C1ケミカル軸に経済性・環境性の両立を目指す

 ハイケムのC1ケミカルが新たなステージに入った。先月、同社がもつ「SEG技術」を採用した、製鉄所の副生ガスを利用してエチレングリコール(EG)を製造する世界初のプラントが稼働を始めた。

中国・山西沃能化工科技のEGプラント。ハイケムのSEG技術により副生ガスから年産30万tを製造
中国・山西沃能化工科技のEGプラント。ハイケムのSEG技術により副生ガスから年産30万tを製造

 SEG技術とは、水素とCOからなる合成ガス(Syngas)を原料とし、ポリエステル繊維やペットボトルの原料の1つとなるEGを非石油由来で製造する技術。

 今回の取り組みでは、製鉄所のコークス炉や高炉から排出される副生ガス中の水素とCOを活用する。COを燃やしてCO2にすることなく、EGの原料として利用し炭素を固定することから、CO2の発生を抑制。同プラントが通年で稼働した場合、年間56万tのCO2排出量を削減できるとしている。

 同プロジェクトは、中国の大手民営鉄鋼企業である山西晋南鉄鋼集団の完全子会社「山西沃能化工科技」との共同によるもので、製鉄所からの副生ガスを原料に年産30万トンのEGを製造する。2017年にハイケムがSEG技術のライセンス供与を行っていた。

 同社が目指すのは、C1ケミカルのトータルソリューションカンパニー。今年度からの中計に基づき、C1ケミカルを川上・川下へと拡大する「水素エネルギー事業」と「生分解性ポリマー事業」への展開が始まったところだが、その中心となるのがSEG技術のライセンス事業になる。

 同社は2009年に同ライセンス事業に参入した。宇部興産がもつ石炭由来の合成ガスからシュウ酸ジメチル(DMO)を製造する技術と、さらにDMOからEGを生産するパイロット技術に注目。ハイケムは、後工程のDMO水添によりEGを製造する実機を確立し、両社の技術を中国企業にライセンスしている。

 さらに、COからDMO、DMOからEGの生成に必要な銅触媒・パラジウム触媒も、同社の中国・南通にある触媒工場から提供しており、EGのビジネスモデルを構築した。第1基目のプラントは2012年に稼働。以降、高純度のEGを安全・安定的に供給することが高く評価され、製造するEGは中国国内の大手ポリエステルメーカーへの採用実績も多い。

 SEG技術は、CO2削減効果が見込めるエコな技術としても注目を集める。石炭・天然ガスをはじめ、各種産業排気ガスなどを原料として利用でき、炭素を固定するためだ。

 現在、合計23件、約940万t規模のライセンス供与を行うが、このうち75万tのEG製造にはコークス炉ガスなどの産業排気ガスを原料として使用する。そのプラントが全て稼働した場合、年間125万tのCO2を削減できる見込み。また、バイオマス原料やCO2を利用したEG製造も技術的には可能であり、研究開発を進めている。

 同社は「炭素利用効率を上げて空気をきれいにする」をビジョンの1つに掲げ、事業活動を通じて環境の豊かさに貢献していく。