NEDOなど 微生物発酵技術で香料原料の高生産性を達成

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2020年12月21日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と地球環境産業技術研究機構(RITE)はこのほど、香料などの原料となるカテコールを微生物によって発酵生産する技術を開発したと発表した。新たに開発した複数のスマートセル基盤技術を活用して、初期生産株の約500倍となる世界最高レベルの生産濃度を達成した。

カテコール生産技術の比較
カテコール生産技術の比較

 香料の原料や半導体の加工材料として需要が高いカテコールなどの芳香族化合物は、主に石油を原料とする。バイオマスなどの再生可能資源を原料とするには糖の微生物発酵法があるが、カテコールなどの芳香族化合物は微生物毒性があり、生産代謝経路が長く複雑なため、実用生産は困難である。

 両者は2016年度から「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発(スマートセルプロジェクト)」に取り組み、「スマートセルインダストリー」の創生を視野に入れ、スマートセルの基盤技術の確立を目指している。

 研究開発成果
研究開発成果

 RITEは微生物の物質生産性向上のために、情報解析による基盤技術の高精度化と有効性の検証を行ってきた。これら基盤技術を使い、カテコールの効率的生産のために設計した代謝経路をコリネ型細菌の細胞内に再現することで、カテコールの高生産株を開発した。手法の異なる複数の基盤技術を活用することで生産性は段階的に向上し、カテコール生産濃度は初期生産株の約500倍に達した。これは発酵生産による世界最高レベルの濃度だ。これにより、これまで石油原料に依存していたカテコール製造を再生可能資源由来に転換でき、環境に配慮した持続可能な生産への効果が期待できる。

 今後NEDOはこれを先行事例として、生物機能を活用して高機能化学品や医薬品などを生産する次世代産業「スマートセルインダストリー」の実現を目指す。またRITEはこの技術をベースに、さらに生産株へ改良を加えるとともに、大量生産法の開発などを進めて早期の実用化を目指す。

NEDOら 世界初の新ゲノム編集技術で植物遺伝子改変

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2020年12月18日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と徳島大学はこのほど、世界で初めて、新しいゲノム編集ツールCRISPR-CasタイプI-D(TiD)が植物細胞の遺伝子改変技術として有効であることを実証したと発表した。海外のゲノム編集知財に抵触せず、現行のゲノム編集技術CRISPR-Cas9と比べて標的以外のDNA配列の変異リスクが低く、より広範囲な様式の変異をゲノムに導入できることが確認された。

 植物や微生物の細胞がもつ物質生産能力を人工的に最大限引き出した生物合成技術「スマートセル」により、生産が難しい有用化合物の創製や生産性をより向上させた合成技術の開発など、物質生産での基盤技術と実用化技術開発を目的に「植物などの生物を使った高機能品生産技術の開発(スマートセルプロジェクト)」を2016年から推進してきた。その中でゲノム編集は遺伝子機能を改良する重要な技術だが、海外の知的財産権であるため活用しにくい。

 徳島大学は、機能が不明でゲノム編集には使われてこなかったTiDに注目。標的の認識やDNA切断のメカニズムを明らかにし、ゲノム編集ツールとして利用できることを見出だし、植物細胞の遺伝子改変に世界で初めて成功した。既存技術と比較して、導入できる変異の様式が多様で、標的以外のDNA配列に変異が起こるリスクが低いことも確認。海外のゲノム編集知財にも抵触しない。動物や微生物など様々な生物遺伝子の機能改変も可能だ。日本のバイオインダストリー推進の原動力として期待される。

 今後、徳島大学はTiDの変異導入効率の向上や、様々な機能ドメインを付与した多様なゲノム編集のツール化を進める。NEDOは後継事業「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発(バイオものづくりプロジェクト)」を今年度より立ち上げ、原料供給から最終製品のスケールアップにいたるボトルネックの解消を進めていく。

 

NEDO 発電とCO2回収を一体化、コスト低減を図る

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2020年12月11日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はこのほど、発電とCO2分離・回収プロセスを一体化したシステムの研究開発として、「多様な燃料を利用するCO2回収型ポリジェネレーションシステム基盤技術開発」と、「CO2分離・回収型ポリジェネレーションシステム技術開発」の2件のテーマを採択した。

 発電システムに燃料をガス化するプロセスを統合し、CO2の分離・回収までを一体化することでエネルギー効率を向上させ、CO2の分離・回収コストの低減に取り組む。併せて、発電燃料には石炭やバイオマス、炭素系廃棄物(廃プラスチックなど)を利用し、水素や化学品といった有価物を併産するポリジェネレーションシステムの構築にも取り組む。これにより、システムの経済性を高めてCO2分離・回収コストの低減につなげるだけでなく、中小規模発電を含めた実用化・事業化も視野に入れることができる。

 一方、出力が安定しない太陽光や風力のような再生可能エネルギーの活用を増やすには、需要と供給の不均衡を防ぐ電力需給調整が重要となる。このため同事業では、電力需給調整力をポリジェネレーションシステムに包括することも検討する。同事業によりCO2分離・回収コストを現状のCO2 1t当たり4000円程度から1000円台にまで低減する発電技術の確立を目指す。そして、将来のカーボンリサイクル技術の実用化につなげていくことで脱炭素社会の実現に貢献する。

 なお、今回の事業名は「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/次世代火力発電基盤技術開発/CO2分離・回収型ポリジェネレーションシステム技術開発」。期間は2020~2024年度で、全体予算は30億円程度となる。

本事業で研究開発するポリジェネレーションシステムのイメージ
本事業で研究開発するポリジェネレーションシステムのイメージ

NEDO 機械学習システムの品質評価テストベッド公開

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2020年12月8日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、AIシステムに関する品質の指標および測定プロセスを提供する「機械学習システムの品質評価テストベッドα版(機能限定)」を開発し、企業・大学などの開発者向けにオープンソースソフトウエアとして公開した。

 実社会でAIシステムを広く活用するためには、安心して利用可能とする品質マネジメントが不可欠となる。NEDOの「人と共に進化する次世代人工知能に関する技術開発事業」において、産総研は「機械学習品質マネジメントガイドライン」を公開したが、品質マネジメントを実施していくためには個別の品質評価項目に対して具体的な品質指標の測定・検査・改善を支援するツール群と、その作業全体を統括管理できる作業環境が必要となる。

 すでに、機械学習モデルの管理とともにAIシステムの品質要件定義から運用までのライフサイクルを支援するいくつかのツールが存在するが、次々に開発される新しい機械学習モデルや品質測定技術などを柔軟に取り入れられる共通基盤はこれまで存在しなかった。

 両者が開発したテストベッドは、AIシステム開発者・AIシステム品質評価者・評価手法開発者が共同で参加し、AIシステム開発時に品質管理で用いる学習・検査などのツールを組み込み、開発プロセス支援と評価記録・検証とを両立させる作業環境を提供するソフトウエア群。

 今回公開されたテストベッドは、「AIシステム評価パッケージ(AIT)」作成ツール、品質アセスメントWebサーバー、評価レポート作成アプリケーションで構成される。このテストベッドを利用することでAIシステムの品質について定量的に評価するとともに、開発プロセスや評価記録・検証など包括的な支援を行うことができ、品質に関する不透明性の解消やビジネス活用の加速が期待できる。

 今後は、品質評価プロセスの共通基盤としての機能をさらに充実させて、AIシステム品質管理のエコシステム構築を目指す。

NEDO 無人航空機を遠隔で識別、通信評価試験を実施

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2020年12月1日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はこのほど、ドローンなど無人航空機の安心・安全な運航に向け、ブロードキャスト型通信システムによってドローンを遠隔から識別する評価試験に成功した。

送信機を搭載したドローン機体
送信機を搭載したドローン機体

 試験は「福島ロボットテストフィールド」(福島県南相馬市・浪江町)で10月19~23日に行い、水平到達距離300m以上で識別できることを確認した。具体的には、Bluetooth5.0を使用したブロードキャスト型の試作送信機を搭載した高度約150mを飛行するドローンと、地上に配置した試作評価受信機との水平距離が300m(送信機側と受信機側に搭載されているGPSで測定)以上の条件で、識別情報や位置情報、Bluetooth5.0などの受信を確認するとともに、評価試験方法の確立を行うことができた。

 また、通信評価試験を通じて、「送信機と評価受信機との水平方向の距離」「送信機の高度」「送信機の位置」が通信成功率に影響することを確認し、送信機と受信機が見通せる理想に近い状態で、水平距離300mにて最大通信成功率95%の性能を確認することができた。今回の試験で、将来Bluetooth5.0を搭載した一般的なスマートフォンなどで、ドローンを遠隔から識別できる可能性が明らかになった。

 NEDOは今後、今回の試験方法に基づいて、ドローンを遠隔から識別するための送信データの精査、運用を見据えたセキュリティの実装を行い、安心・安全にドローンを運航するための研究開発を実施していく。

送信機と評価受信機の位置関係
送信機と評価受信機の位置関係

NEDO 革新的ロボット研究開発基盤の構築事業を開始

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2020年11月24日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はこのほど、多品種少量生産現場などロボット導入が進んでいない領域にも対応する革新的産業用ロボットの実現に向け、重要な要素技術を産学連携で研究開発する事業に着手すると発表した。8社11大学などが参画し、期間は今年度からの5年間、今年度予算は2.5億円。既存技術の改良・改善のアプローチのみならず、サイエンス領域に立ち返った技術開発や異分野の技術シーズの取り込みなどによるイノベーション創出を目指す。

 産業用ロボットは自動車産業やエレクトロニクス産業に数多く導入され、日本の産業の発展に欠かせない基盤技術だ。また食品加工や物流分野などにも労働力不足を背景に導入が検討され、産業用ロボットの市場拡大が見込まれる。

 一方、日本には産業用ロボット専業メーカーが少なく、個別企業では対応が限定されるため、基礎・応用研究への支援が期待されている。今回、ロボティクス以外の分野も含めた幅広い大学研究者などと連携して要素技術を開発し、企業ニーズに対して大学のシーズを有効活用できるよう、将来の社会実装に向けた産学連携体制の基盤を構築する。

 研究開発する技術分野は「自動的・汎用的ロボットの動作計画技術」「多用な対象物に対応できるセンシング機能とハンドリング技術」「ロボットを安定操作できる遠隔制御技術」「ロボット構成部材へ適応できる新規な非金属や複合素材」だ。

 具体的テーマは「産業用ロボットの機能向上・導入容易化のための産学連携による基礎技術研究(6社10大学・研究所)」「変種変様な多能工作業を可能にするセンシング技術搭載エンドエフェクタの開発と実証(1社1大学)」「果菜作物収穫システムの開発(1社1大学)」だ。

DIC MR高度化のパッケージ素材、NEDOに採択

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2020年11月18日

 DICはこのほど、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募した2020年度「革新的プラスチック資源循環プロセス技術開発プロジェクト」の〝材料再生プロセス開発〟に採択され、8月より実証を開始したと発表した。

 同研究プロジェクトで担当する役割は、福岡大学工学部化学システム工学科の八尾滋教授をテーマリーダーに、6つの研究機関と、同社を含む12社が共同で廃プラスチックを新品プラスチックと同等の物性に再生し、再利用するマテリアルリサイクル(MR)の技術開発を行うもの。実施期間は、5年間(2020~24年度)を予定している。

 同研究プロジェクトでは、同社は〝材料再生プロセス開発〟へ参加し、インキや接着剤などのパッケージング素材がプラスチックのマテリアルリサイクル特性に及ぼす影響について基礎的な研究を行い、さらにこの研究で得た知見をもとに、環境負荷の少ないインキや接着剤などの製品開発を目指した研究を行っていく。

 DICグループは、世界的な社会課題である廃プラスチックや海洋プラスチック問題に対し、サステナビリティ戦略として同社が対応すべき領域を定め、取り組みを強化している。同研究プロジェクトに参画することで、プラスチックごみ問題の解決にあたると同時に、プラスチックの高度資源循環の社会実装に貢献していく。

NEDO 材料再生プロセス開発
NEDO 材料再生プロセス開発

NEDO 工場に超電導ケーブルを敷設、省エネ化を実証

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2020年11月16日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はこのほど、昭和電線ケーブルシステム(CS)、BASFとともに、BASFジャパン戸塚工場(横浜市戸塚区)に全長約200mの三相同軸超電導ケーブルを敷設し、今月8日から工場の省エネルギー化を目指す実証試験を開始した。

 民間工場の実系統に三相同軸超電導ケーブルを導入して行う実証試験は世界初。また、屋外にあるケーブルと高低差がある環境での施設形態も世界初となる。

 実証試験は来年9月末まで行い、液体窒素でのケーブル冷却の検証のほか運用コストの算出や安全性の確認を実施する。実証試験にはCSが2017年にNEDO助成事業で開発した三相同軸型の超電導ケーブルシステムを使用。この超電導ケーブルを30MW以上の大規模電力を使うプラントのケーブルに採用すると、従来のケーブルに比べ送電時の電力損失を95%以上抑制できる。これにより、年間2000万円以上の電気料金の削減効果が見込める。

 3者は今回の実証試験を通じて、民間のプラントでの敷設工法、運用管理方法、省エネルギー効果などを検証する。そして、プラントインフラの更新時や再生可能エネルギー活用時の電力損失削減に向けた超電導ケーブルの早期の実用化を行い、超電導技術の社会普及につなげていく考えだ。

BASFジャパン(株) 戸塚工場における超電導ケーブル敷設ルート
BASFジャパン 戸塚工場における超電導ケーブル敷設ルート

NEDO 無電力熱エネ輸送のループヒートパイプを開発

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2020年11月4日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はこのほど、未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合(TherMAT)と名古屋大学とともに、世界最大6.2kWの熱エネルギーを無電力で輸送できるループヒートパイプを開発した。3者は、エネルギーの供給過程で排出される未利用熱の革新的活用技術に関する研究開発に取り組んでいる。

世界最大6.2kWの熱エネルギーを無電力で輸送できるループヒートパイプ
世界最大6.2kWの熱エネルギーを無電力で輸送できるループヒートパイプ

 近年、工場排熱や自動車エンジンからの排熱など、これまで未利用であった熱エネルギーを有効活用する技術が注目されている。このような熱は、排出されている場所が利用先から離れている場合が多く、有効利用のためには、高温の熱源から利用先まで熱を損失なく運ぶ熱輸送技術が極めて重要になる。

 こうした中、2009年に名古屋大学は、電力を使用することなく半永久的に大量の熱輸送を可能にするループヒートパイプ技術を開発。ループヒートパイプは、多孔体が液を吸い上げる毛管現象を駆動源としており、高温廃熱を動力源として駆動することができるため、電力不要の熱輸送技術として期待されており、近年、スマートフォンなどの電子機器への適用が広がっている。しかし、これまでは熱輸送量が数百W程度と少なく、自動車や工場の排熱利用に適用できるような大量の熱輸送を行うことができなかった。

 そこでNEDOは、TherMATと名古屋大学とともに、未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発事業の一環として、「ループ型ヒートパイプの研究開発」に取り組み、今回、大熱量ループヒートパイプを開発し、電力を使わずに6.2kWという世界最大の熱エネルギーを2.5m輸送することに成功した。

 今後、自動車のエンジンや工場からの排熱利用、電気自動車やデータセンターの機器類の熱マネジメント、大型発熱機器の冷却などへの適用を図り、抜本的な省エネルギー化を目指す。

NEDOと浪江町 水素活用の協定を締結、道の駅に供給

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2020年11月2日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と福島県の浪江町はこのほど、水素の普及拡大に向け連携・協力する基本協定を締結したと発表した。なお、同協定は2022年3月31日までとなっている。

NEDO石塚理事長と浪江町の吉田町長
NEDO石塚理事長と浪江町の吉田町長

 NEDOは、浪江町に建設した再生可能エネルギーを利用した世界最大級の水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」を通じて、低コストでクリーンな水素製造技術の確立を目指している。

 一方、浪江町は「浪江町復興計画【第二次】」(2017年3月)に基づき、「エネルギーの地産地消の実現と新しい産業の創出」を目指すとともに、今年3月には「ゼロカーボンシティ」を宣言し「水素社会実現の先駆けとなるまちづくり」に向けた取り組みを進めている。こうした中、両者は、水素の普及拡大を視野に連携・協力する基本協定を締結した。

 同協定による初の取り組みとして、浪江町が「道の駅なみえ」に設置した純水素型燃料電池にFH2Rで製造した水素を供給し、今月から施設内の一部に電力供給と熱供給を行う予定。

 今後も、NEDOと浪江町はFH2Rで製造した水素の利活用や情報発信に取り組み、水素の普及拡大をけん引していく。