東京大学 大面積有機半導体単結晶で高感度歪みセンサー

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2021年1月18日

 東京大学と産業技術総合研究所(産総研)、パイクリスタル社(ダイセル子会社)の共同研究グループはこのほど、印刷法で製造した大面積・高性能有機半導体単結晶ウエハー表面に非破壊で高選択的に二次元電子系を形成するドーピング手法を開発し、従来の金属製歪みセンサーの10倍程度の感度をもつ歪みセンサー開発に成功したと発表した。

 有機半導体は軽量性、柔軟性、印刷適合性などに優れ、シリコン半導体に代わる安価で大量生産可能な次世代電子材料として期待される。半導体の電子状態の制御には不純物ドーピングが不可欠だが、ユニークな形やサイズの有機半導体分子とドーパント分子が複合化すると単結晶性が乱れ、その高い電子性能は維持できない。

 今回、有機半導体単結晶薄膜をドーパント分子溶液に浸漬するだけで表面がドーパント分子と反応し、有機半導体の単結晶性を維持したまま表面に高密度の二次元電子系を形成させることに成功。有機半導体単結晶デバイスの抵抗を精密に制御でき、抵抗値を7桁以上下げられる。結晶性が保持されているため、単結晶性に特有の巨大歪み応答効果も現れ、外部応力に応じて抵抗値が変わるフレキシブル歪みセンサーが実証された。

 この技術により有機半導体を厚さ7㎛のフレキシブル基板上に印刷し、曲面に貼り付け可能な歪みセンサーを開発した。感度は0.005%程度と従来の金属製歪みセンサーの約10倍。繰り返し使用に耐えることも確認した。さらに、より高性能な有機半導体材料やドーパント材料の開発により、安価で大量生産可能な歪みセンサーデバイス、特にIoT社会に必要なRFIDタグやトリリオンセンサーユニバースへの貢献が期待される。

 パイクリスタル社は高い安定性と性能をもつ有機半導体単結晶の成膜技術を独自開発し、フィルム状でフレキシブルな有機半導体デバイスを開発してきた。今回の歪みセンサーと有機半導体デバイスの事業化に向けた量産体制の確立を進めており、有機半導体デバイスの開発・マーケティング活動を加速し、新たなソリューションを提案していく考えだ。

産総研と東大 深層学習で未知化合物物性を高速外挿予測

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2020年12月15日

 産業技術総合研究所(産総研)と東京大学はこのほど、量子物理学の密度汎関数理論(分子や結晶などの物性は電子密度のみで計算可能)に基づく深層学習技術を開発したと発表した。化合物の原子配置を電子の確率分布を表す波動関数に変換し、深層学習により電子密度やエネルギーなどの物性値を高速・高精度に外挿予測する。

 材料開発や創薬の分野では化合物のエネルギー、触媒の反応収率、発電材料の効率、薬剤の活性など様々な物性値の計算・予測が必要だが、理論計算・シミュレーションの計算コストは膨大である。深層学習技術により計算量は減るが、ブラックボックス性の計算であり解釈性・信頼性が低い上、学習データ範囲外のデータを推測する外挿予測は精度が低い。

 今回、産総研の最先端の機械学習技術の理論・アルゴリズムの開発と実データへの応用技術と、東京大学の機械学習技術を材料開発に利用するマテリアルズ・インフォマティクスに関する研究を統合。化合物の原子配置をまず原子の波動関数、そして分子の波動関数に変換。これに分子波動関数から得られる電子密度と原子配置から計算できるポテンシャルが一対一対応するような物理制約を課した上で、原子配置と物性値の大規模データベースを学習し、物性値を予測する。量子物理の基本情報を深層学習モデルの内部で表現・経由した上で化合物の物性値を予測するため、深層学習モデルのブラックボックス性がなく、予測結果の解釈性・信頼性が得られ、学習データから外れた未知の化合物の物性も外挿予測できる。

 理論計算予測値と実験値の誤差が1~2kcal/molであるのに対し、誤差2~5kcal/molと実用に耐える精度で外挿予測が可能。また20原子以上の複雑な構造でも、外挿予測誤差は小さいことを確認した。さらに理論計算では1分子に数十分から数時間かかるところを、数分で1万種類の分子予測が可能。これにより、実用に耐える外挿精度と10万倍以上の高速化を実現した。

 今後は材料開発や創薬の実応用に適用し、有用な触媒や薬剤の大規模な探索を行う。また物理学者・化学者と協力して物理学・化学関係の知識をより多く取り入れ、より高精度の予測ができる深層学習技術の開発を目指す。

東京大学ら ポリマー半導体への分子ドーピングが制御可能に

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2020年12月14日

 東京大学、産業技術総合研究所(産総研)、広島大学などによる共同研究グループは、世界で初めてポリマー半導体の立体障害と分子ドーピングの相関を明らかにし、ポリマー半導体の「隙間」サイズを制御することでドーピング量を100倍向上させることに成功した。

 半導体の結晶中に不純物(ドーパント)を添加することで、半導体中の電子数やエネルギーを精密に制御できる。 シリコン半導体のドーピングは、シリコン原子を別の原子に置換して行うが、ポリマー半導体のドーピングはユニークな形・サイズのポリマー分子とドーパント分子を複合化する必要があり、複雑な立体障害を制御する必要がある。

 同グループは結晶性ポリマー半導体へのドーピングに着目し、結晶性ポリマー半導体1ユニット当たり1ドーパント分子を高密度に複合化する技術を開発したが、ドーピング効果を最大化する分子設計指針は明らかではなかった。

 今回、結晶性ポリマー半導体のナノスケールの「隙間」に着目し、立体障害と分子ドーピングの相関を系統的に調査した結果、電気を流す骨格に周期的に付いた側鎖の密度を精密に制御し、隙間を適切に拡張することで、分子ドーピング量を100倍程度増加させることに成功。隙間を拡張した結晶性ポリマー半導体は従来の3倍程度の体積のドーパント分子を複合化でき、ほぼ最密充填された分子複合体を作製することにも成功した。

 結晶性ポリマー半導体の隙間とドーパント分子サイズの関係が明らかとなり、これまでにない様々な分子複合体材料の設計指針が明確になった。また、最密充填した分子複合体は金属のように電気が流れやすく、熱耐久性や環境耐久性も向上することが分ってきた。今後、異なる分子の複合化という単純な化学操作による革新的な電子・イオン材料の創製が期待される。

東京大学など n型有機半導体を開発、最小クラスの接触抵抗

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2020年11月26日

 東京大学、筑波大学、北里大学と産業技術総合研究所はこのほど、真空蒸着法と印刷法で良質な薄膜を再現性よく成膜でき、優れた大気安定性と電子移動度をもつn型有機半導体材料を開発したと発表した。また固いフェニル部位と柔らかいアルキル部位からなるフェニルアルキル側鎖が、分子集合体構造形成に重要であることを明らかにした。

 パイ電子系分子の有機半導体は一般に正孔が伝導しやすく、その多くが正孔輸送性(p型)で正孔移動度がアモルファスシリコンより一桁以上高い十㎠/V・s級のものもある。それに匹敵する電子移動度とプロセス適合性、大気安定性をもつ電子輸送性(n型)有機半導体の開発が求められている。

 同グループはBQQDI(ベンゾイソキノリノキノリンジイミド)骨格を開発し、フェニルエチル側鎖をもつPhC2-BQQDIが、高電子移動度・大気安定な単結晶薄膜を印刷法で成膜できることを見出だした。

 今回、側鎖アルキル部位の柔軟性に注目し、アルキル基の異なるPhCn-BQQDI(n=1~3)の集合構造と半導体特性を調べた。アルキル部位を選択することで印刷法でも真空蒸着法でも優れたデバイス性能と高い大気安定性が得られた。印刷法ではPhC2-BQQDIが最高の半導体性能を示し、電子移動度の計算予測と一致した。

 一方、真空蒸着法ではPhC3-BQQDIがより優れた電子移動度とn型有機半導体として世界最小クラスの有機半導体/金属電極の接触抵抗を示した。X線回折から集合構造はn数に依存し、良質で純粋な構造(単結晶)ほど接触抵抗が低いことが分かった。

 分子動力学計算による分子の揺らぎは、バルク単結晶中ではnが大きいほど大きく、薄膜中ではnが小さいと極端に大きい。印刷法(バルク状態)では揺らぎが小さいほど単結晶化、真空蒸着法(薄膜)では基板との相互作用を受けるため揺らぎが大きいものほど多形化すると考えられる。

 パイ電子共役骨格とフェニルアルキル側鎖との協同的挙動が、基板上での集合構造形成に重要で、今後の有機半導体材料開発の重要な分子設計指針となることが期待される。なおPhC2‐BQQDI試薬は富士フイルム和光純薬から販売中で、PhC3‐BQQDI試薬も今年度内に販売予定だ。

 

東大ら 高再現性・生体適合性高感度ラマン分光法を開発

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2020年10月15日

 東京大学、産業技術総合研究所、神奈川県立産業技術総合研究所はこのほど、東大合田圭介教授の研究グループが極めて高い再現性、感度、均一性、生体適合性、耐久性をもつ表面増強ラマン分光法(SERS)の基板を開発し、実用的な微量分析法を実現したと発表した。

 1970年代に発見されたSERSは、金属基板上の局在表面プラズモン共鳴(LSPR)により通常のラマン分光法よりも数桁以上高い感度で無標識の微量分析に有効であったが、感度は金属ナノ構造による強電磁場の位置(ホットスポット)に依存するため低再現性、不均一性で、金属基板の光熱と酸化による低生体適合性、低耐久性が課題であった。金属基板代替のシリコンやゲルマニウムナノ構造体、グラフェンなどの2次元材料、半導電性金属酸化物などは構造共鳴や電荷移動共鳴による最大5桁程度の感度増強が実証されたが、固有の光触媒活性や生体分子への有害性により、再現性は低かった。

 今回LSPRに依存しない、金属不含有の多孔質炭素ナノワイヤをアレイ状に配列したナノ構造体(PCNA)基板を開発。広帯域電荷移動共鳴による化学的増強により約6桁の感度増強を実現した。基板全面が活性化するため高い再現性と均一性、耐久性を示し、光熱によって損なわれていた生体適合性も大幅に改善した。これらの特性は、ローダミン6G、β‐ラクトグロブリン、グルコースなどの分子で実験的に実証した。またPCNA基板は1枚約1000円で大量生産が可能だ。

 同手法の高い実用性および信頼性により、分析化学、食品科学、薬学、病理学など多岐にわたる学術分野に加え、感染症検査、糖尿病検査、がん検診、環境安全、科学捜査などでの微量分析への展開が期待される。

 

 

東京大など 高製造性・高性能両立の有機半導体を開発

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2020年9月11日

 東京大学、富山高等専門学校、筑波大学、北里大学と産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、特異な構造相転移挙動により高溶解性・高移動度・環境ストレス耐性をもち、高製造プロセス適性かつ高性能な有機半導体を開発したと発表した。その成果は、アメリカ化学会(ACS)学会誌のオンライン速報版で公開された。

 有機半導体は低分子間力の固体であり軽量・柔軟で、印刷で製造できるため低生産コスト・低環境負荷である。性能も市販アモルファスシリコンより1桁以上高い10㎠/Vs級の移動度をもち、次世代のプリンテッド・フレキシブルエレクトロニクス材料として期待される。しかし、高性能有機半導体分子の多くは有機溶媒への溶解性が乏しく、製造プロセスが限られることが課題であった。

 同研究グループが開発したデシル置換セレン架橋V字型分子C10-DNS-VWは、製造プロセス適性と高性能を両立している。SPring-8による構造解析で、高溶解性だが低電荷輸送性の1次元集合体構造と、高電荷輸送性だが低溶解性の2次元集合体構造の2種類の集合体構造を形成し、加熱処理により1次元から2次元に、良溶媒存在下では2次元から1次元へ相転移することが分かった。

 また分子動力学計算では基板表面では2次元集合体構造は1次元構造よりも安定であり、蒸着法や塗布結晶化法などの製造プロセスによらず、薄膜作製時に2次元構造が再現性よく得られた。一般的な芳香族溶媒に対して1重量%以上溶解するため、様々な印刷プロセスに適用できる。塗布プロセスで得られた単結晶薄膜を用いたトランジスタは、世界最高レベルの11㎠/Vsの移動度、良好な電荷注入特性、高環境ストレス耐性を示した。

 今回開発のC10-DNS-VWからなる有機半導体は、蒸着法や印刷法などの各種製造プロセスへの適合性が高い。電子タグやマルチセンサーなど各種ハイエンドデバイス開発を加速し、次世代プリンテッド・フレキシブルエレクトロニクス分野の起爆材料となることが期待される。

宇部興産 CO2回収・資源化プロセス、NEDO事業に

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2020年9月10日

 宇部興産は9日、東京大学、大阪大学、理化学研究所、清水建設、千代田化工建設、古河電気工業と共同で提案した、「電気化学プロセスを主体とする革新的CO2大量資源化システムの開発」プロジェクトが、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業に採択されたと発表した。

 同事業は、「ムーンショット型研究開発事業/2050年までに、地球再生に向けた持続可能な資源循環を実現」に公募したもので、委託期間は2022~2029年度の最大10年間の計画となっている。

 地球環境の保全のためには、社会活動により生じる温室効果ガス(GHG)の削減が必要であり、中でもCO2が非常に高い割合を占めている。日本は、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(閣議決定)の中で、2050年までに80%のGHGの排出削減に取り組むことを宣言。GHGの削減は、緊急対策が必要な地球規模の大きな問題となっている。

 また、昨年に示された「カーボンリサイクル技術ロードマップ」(経済産業省)では、CO2を資源として捉えて有効利用する「カーボンリサイクル技術」を通して、排出量を抑制する方針が示され、革新的な技術開発が求められている。

 こうした状況下、NEDOは、ムーンショット目標4の達成を目指す研究開発プロジェクトに着手。今回、採択された委託事業では、電気化学技術を主体とし、400ppm~15%程度の幅広い濃度範囲の気体中CO2濃度に対応し、かつ分散配置が可能なCO2回収・有用化学原料への還元資源化プロセスの開発を目指す。

 具体的には、大気中に放散された希薄なCO2と放散される前のCO2を回収し、再生可能エネルギーを駆動力として電気化学的に富化/還元し、有用化学原料を生成するプロセスまでの統合システムを開発。これにより、カーボンリサイクルの基盤を構築する。共同研究者は、今回の事業採択を受け、希薄な濃度に対応可能なCO2回収・資源化に係る革新的技術を産学官の協働により開発するとともに、統合システムの実用化と普及に向けた取り組みを加速する。

 

東北大学など 水と高圧氷の界面に「新しい水」を発見

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2020年9月8日

 東北大学と北海道大学、産業技術総合研究所(産総研)、東京大学はこのほど、高圧下で水が凍ってできる氷の表面に、通常の水とは混ざらない異構造・高密度の「新しい水」を発見したと発表した。水の異常物性を説明する「2種類の水」仮説の検証に新たな道を示した。

 水はありふれた存在だが、特異な物性をもつ奇妙な液体であり、多くの自然現象を支配している。たとえば雪だるまが作れるのは、0℃以下でも存在する氷表面の液体層のおかげだ。

 マイナス20℃、248M㎩の低温高圧条件で生成する氷Ⅲの、加減圧時の成長・融解過程を光学顕微鏡で観察。加圧成長時には界面に流動性の均質な液体膜が形成し、加圧を止めると不均質化して迷路のような模様になった。これは通常の水と新しい水が混ざり合わない異なる構造をもつことを示している。

 減圧融解時には活発に動く微小液滴が形成。この水は液滴の濡れ角から高密度であり、分子動力学シミュレーションからは氷Ⅲに近い構造であると考えられる。以上から、水/氷界面にはナノメートルオーダーの氷から水へ連続的に変化する液膜があるという通説に反し、マイクロメートルスケールの高密度水の液膜が存在することが明らかとなった。

 また25℃、954M㎩の常温高圧条件で結晶化する氷Ⅵ/水界面にも高密度の新しい水の生成がレーザー干渉顕微鏡で確認され、水/高圧氷界面の高密度水形成の普遍性が示された。なお、通常の氷は氷Ⅰhで六角柱状の格子構造、今回の低温高圧環境下の氷Ⅲは立方体構造、常温高圧環境下の氷Ⅵは底面が正方形の直方体構造である。

 今回の融液/結晶成長挙動の解明は、融液から機能性材料が生成する過程の解明に、さらには太陽系天体内部の高圧状態の氷から天体の形成過程の解明にも役立つと期待される。

東京大学など 「めっき」で高性能有機トランジスタを製造

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2020年9月4日

 東京大学と産業技術総合研究所(産総研)の共同研究グループはこのほど、「無電解めっき」による高精細パターニング金電極を有機半導体に貼り付けた高性能有機トランジスタの製造に成功した。

 有機半導体は印刷で作れるため、RFID(近接無線通信)タグや種々のセンサーなど膨大な数のデバイスを使うIoT時代に有望な基盤材料。移動度(動作速度)も実用レベルに達している。

 有機半導体の電極には、キャリア効率が高く酸化されにくい金や銀の貴金属薄膜が使われる。製造には高真空・高温/プラズマプロセスを要し、高真空チャンバーとポンプ、電極の微細パターニング用のリソグラフィーなどが必要で、高額設備投資、コスト、環境負荷が量産化の課題だった。

 今回、材質表面を金属被覆できる「めっき」のうち、薬品を用いる「無電解めっき」により真空プロセスなしで金電極を作製した。まずフッ素系高分子薄膜に真空紫外光LEDを照射し、銀微粒子インクが濡れる領域をパターニング(親液・撥液パターニング)。そこに銀微粒子インクを塗布して銀微粒子層のパターンを形成する。それを金めっき液に浸すと、銀の触媒作用で銀微粒子層表面に金の薄膜が被膜される。これでリソグラフィープロセスなしで10㎛程度の高精細パターニングが可能となった。

 この金電極を、同グループが開発した電極転写法により有機半導体上に取り付けて有機トランジスタを試作。ゲート電圧・ドレイン電流から求めた移動度は10㎠/Vs程度と実用レベルで、金属-有機半導体界面の接触抵抗も120Ωcm程度と十分に小さく、単分子層有機半導体(厚さ4㎚)の本来の性能を引き出せることを実証した。

 「無電解めっき」で、積層デバイスの大面積化が可能となり、半導体側の制約も減る。また、めっき液は基本的に有機溶媒を含まない水溶液で再利用が可能なため、環境負荷も小さい。低コスト・低環境負荷、フレキシブルエレクトロニクス用のプロセスとしての利用が見込まれる。

 今後、有機半導体を用いたソフトエレクトロニクスの社会実装やバイオエレクトロニクス分野への貢献が期待される。

 

 

DIC QII協議会の設立に合意、量子コンピューティングを実現

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2020年8月20日

 DICはこのほど、東京大学との間で、「量子イノベーションイニシアティブ協議会(QII協議会)」の設立に合意し、設立メンバーとして参画すると発表した。

 東大が設立したQII協議会は、産官学協力の下にわが国全体のレベルアップと実現の加速化を図り、広く産業に貢献することを目的としている。量子コンピューティングを実現する日本国内の科学技術イノベーションを独自の形で集結させ、量子コンピューティングのためのエコシステムを構築することで、戦略的に重要な研究開発活動を強化する。

 DICはQII協議会の一員として、量子コンピュータの産業利用の価値を高めるため、量子コンピューティング利用分野の探索と技術の構築を行う。特に、東大と連携して、材料開発に有益な化学シミュレーションに資する技術の研究と開発に注力する。

 コンピュータを使った化学シミュレーションは、化学材料の設計や化学反応の解明に大きく貢献することが期待されるが、計算の複雑さのため利用が限られている。量子コンピュータは、そのような複雑な計算を難なく行える能力をもっており、材料開発に革新的な変革をもたらす新たな技術として期待されている。

 同社では、量子コンピュータを使った化学シミュレーションによる未来の材料開発を見据え、量子コンピューティング技術の開発とエコシステムの構築を他社に先駆け積極的に行う。そして化学シミュレーションを主軸とした革新的な材料開発体制を構築することを目指す。

 その革新的な材料開発体制の下では、実験に関わる時間とコストおよび危険が大きく削減され、安全で快適な材料開発が行われることが期待される。また、コンピュータ上では自由自在に分子を作ることができ、発想力と創造力を生かした幅の広い研究開発が可能になる。

 なお、東大が事務局を務めるQII協議会は、慶應義塾、JSR、東芝、トヨタ自動車、日本アイ・ビー・エム、日立製作所、みずほフィナンシャルグループ、三菱ケミカル、三菱UFJフィナンシャル・グループなどが参加を予定。さらに、志を同じくする参加メンバーを広く募集している。

QII協議会で目指す成果
QII協議会で目指す成果