東大など 電性高分子・ドーパント共結晶で高伝導達成

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2021年5月28日

 東京大学と物質・材料研究機構、科学技術振興機構(JST)、産業技術総合研究所(産総研)の共同研究グループはこのほど、独自開発した強力な酸化力をもつラジカル塩ドーパントと高分子半導体により共結晶構造を自発的に形成させ、従来以上の高い結晶性と伝導特性をもつ導電性高分子を開発したと発表した。

 高分子半導体は溶液を塗って乾かすだけで製膜でき、次世代エレクトロニクス材料として注目される。高分子半導体を導電性材料として使うには、ドーピング処理で電荷を注入し、電気伝導特性を向上させる必要がある。

 通常は、高分子半導体と酸化還元反応するドーパント分子を高分子膜に導入するが、ドーパント分子は陰イオンとして高分子膜内部にランダムに残るため結晶性を損ない、伝導特性に影響してしまう。結晶性構造を壊さずにドーパント分子を導入する手法を以前開発したが、ドーパント分子の立体的配置は不明瞭で、そのランダムさが電気伝導特性を制限している可能性があった。

 今回、より酸化力の強いラジカル塩ドーパントを開発。その溶液に高分子半導体の薄膜を浸漬したところドーピング量は非常に多く、X線回折分析により、高分子半導体とドーパント分子1対1による共結晶構造の形成を確認。ドーパント分子の位置を0.5㎚程度の精度で決定した。強力な酸化反応により、ドーパント分子が高分子半導体結晶にあるナノメートルスケールの周期的な空隙に入り、自発的に均質な密度で配列したと考えられる。一般的に通常の高分子膜の構造は乱れているが、今回は薄膜全体に配向性の高い共結晶構造が形成し、電気伝導度が高く白金などの貴金属に匹敵する高い仕事関数を示した。

 さらに、ドーパント分子種の最適化により、大気安定性も向上した。電気伝導特性は共結晶性領域に由来する金属的な伝導が支配的だが、今回の研究により、ミクロな共結晶構造の設計でマクロな電気伝導度の制御が可能であることが示唆された。様々な分子性イオンを充填・配列化した高分子半導体薄膜を大面積で容易に形成できるため、今後様々な機能性電子・イオン材料としての研究が進展することが期待される。

NIMSなど 低価格、高性能の熱電変換材料を開発

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2021年5月25日

 物質・材料研究機構(NIMS)と産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、希少元素を含まず低熱伝導率と高電荷移動度を両立した高効率の熱電材料の開発に成功した。低価格の熱電モジュールの実用化と普及に道を拓き、省エネ効果に加え、Society5.0の実現に必要な無数のセンサーの自立電源やモバイル発電機など幅広い分野での応用が期待される。

 一次エネルギーの多くは熱として排出され、その約90%は320℃以下の低温域だ。廃熱を電気に変換する熱電変換材料の効率には、熱伝導率を低く、電気伝導率を高くする必要があるが、電気伝導率が高いと熱伝導率も高くなる。Bi2Te3系が低温域で最高の熱電変換効率を示すが、主成分のTeが希少元素であることが普及を妨げている。

 今回、n型Mg3Sb2系材料に微量の銅原子を添加することで、熱伝導率低減と電気伝導率向上を両立できた。原子間隙に入った銅原子が熱伝導を司るフォノンの速度を低減し、熱伝導率を低減。また、粒界に入った銅原子が電子の散乱を抑え、高電荷移動度を向上。これにより、ジュール発熱によるエネルギー損失を抑え利用熱の散逸を抑止し、熱伝導率の低い多結晶体でありながら単結晶材料並みの電気伝導率、すなわち高熱伝導率を実現した。

 同様に高性能化したp型材料と組み合わせて熱電モジュールを作製。室温と320℃の温度差での熱電変換効率は、最高性能のBi2Te3系材料に匹敵する7.3%を示した。この材料の理論効率は約11%であり、さらなる高効率化も見込まれる。また、今回発見したフォノン散乱効果や粒界制御効果は、他の熱電材料の高性能化へ活用することも期待される。

 なお本研究は、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業大規模プロジェクト型技術テーマ「センサ用独立電源として活用可能な革新的熱電変換技術」の支援を受けて実施された。今後、低価格で広範囲に適用可能な熱電モジュールの実用化を進めるとともに、他の温度域にも活用できる高性能熱電材料の研究開発も引き続き推進していく。

東ソーなど 低濃度CO2からの尿素誘導体合成法を開発

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2021年5月18日

 東ソーと産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、火力発電所排気ガス相当の低濃度CO2から、樹脂や溶媒、医薬品の原料として有用な化学品である尿素誘導体を合成する触媒反応を開発したと発表した。

 両者は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクト「NEDO先導研究プログラム/未踏チャレンジ2050/排気ガス由来低濃度CO2の有用化製品への直接変換」にて、低濃度CO2をポリウレタン原料などの有用化学品に直接変換する合成プロセスを研究開発しており、今回の技術の開発に至った。

 この技術は、日本で主流の石炭火力発電所排気ガスに相当する低濃度CO2(体積比率15%)とアミンから簡便に得られるカルバミン酸アンモニウム塩にチタン触媒を作用させて、有用化学品であるエチレンウレアなどのさまざまな尿素誘導体を効率的に合成できる。また、これまで直接利用が難しかった火力発電所排気ガス中の低濃度CO2を、濃縮・圧縮・精製といったコストやエネルギーが必要な工程を経ずに有用化学品に効率よく変換できるため、地球温暖化の原因とされるCO2の排出量削減への貢献が期待される。

 両社は今後、今回開発した反応について実際の火力発電所排気ガスを用いた検証を行った後、工業スケールでの尿素誘導体合成反応の実用化を目指す。なお、今回の成果の詳細は、英学術誌「Communications Chemistry」に掲載された。

今回開発した低濃度CO2からの尿素誘導体合成技術の概要
今回開発した低濃度CO2からの尿素誘導体合成技術の概要

産総研 即時・持続性ウイルス不活化コーティングを開発

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2021年4月22日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、就実大学と共同で即時性と持続性に優れた抗ウイルスコーティングの作製技術を開発した。

 消毒薬クロルヘキシジン(CHX)を含浸させたアルミナ(Al2O3)ナノポーラス膜で、多様な素材表面に質感と強度に優れ、耐久・持続性のある抗ウイルスコーティングを形成する。固体表面のウイルスは低温低湿下では1週間にもわたり感染力を保つため、ウイルスの不活性化は接触感染回避に重要だ。

 エンベロープ型ウイルスに対して界面活性剤による清拭は有効だが、ドアノブや手すり、つり革など公共のものには頻繁には行えず、短時間でのウイルス不活性化とその持続性が求められる。塗布しただけの薬剤は水や油に溶出し、長期間の抗ウイルス効果はない。薬剤を練りこんだ樹脂コーティングも、薬剤が表面に出にくく効果が不十分であり、密着性を落とす場合もある。

 今回、耐久性に優れたナノポーラスセラミックス膜に薬剤を担持・固定化する技術を開発した。強固な密着力と機械強度をもつ厚さ1㎛以上のナノポーラスセラミックス膜を、セラミックス微粒子を金属や樹脂、ガラスなどの基材表面に常温で吹き付け、その衝撃力だけで緻密なセラミックス皮膜を形成する産総研のエアロゾルデポジション法で作製。含侵用薬剤は、水溶液中の帯電状態や親油基の長さ、分子の立体構造などの観点でCHXを選定した。

 ステンレス基板上に作製した抗ウイルスコーティングの抗ウイルス効果を、A型インフルエンザウイルスを使ってISOのウイルス不活性化評価試験で評価した結果、24時間の抗ウイルス活性値は4.5以上、不活性化率は99.997%以上、2時間では各々3.7以上、99.98%以上であった。

 CHXの残留量をラマン散乱分光法で評価した結果、塗布しただけの薬剤は水溶液中の超音波洗浄1分30秒で消失したが、今回のコーティングでは10分後も残存した。乾燥環境でのボール・オン・ディスク試験(摩擦摩耗試験の一種)30分間でも、数分の1程度は残存していた。またコーティング表面の摩擦係数は1前後で、ビロードの様な感触である。

 今後は企業に呼びかけ、早期の実用化を目指す考えだ。

産総研と東大 モビリティ・サービス研究で連携・協力

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2021年4月20日

 産業技術総合研究所(産総研)と東京大学はこのほど、モビリティ・サービス分野の連携・協力の推進に関する協定を締結した。

 年齢や障害などに関わりなく、すべての人が「いつでも、どこでも」移動できる革新的なモビリティ・サービスの創出と社会実装を促進させることを目指したもの。これにより、移動の制限や不自由によって生じる生活の質(QOL)の低下を防ぎ、誰でも楽しく移動できる社会の実現を目指す。

 パーソナルモビリティから公共交通機関を含めた各種モビリティの要素技術となる生体計測・評価、AI、データ連携に関する研究と、異なるモビリティを切れ目なく連携し、安全・安心・便利なモビリティ・サービスの社会実装に必要なモビリティマネジメントやサービスに関し、研究協力を行う。両者の実験プラットフォームを活用して、研究開発の成果をシームレスに社会実装へとつなげていく考えだ。

東大など ナノスケール凹凸ガラスで耐熱・超親水性実現

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2021年4月19日

 東京大学と産業技術総合研究所(産総研)、物質・材料研究機構の共同研究グループはこのほど、ナノメートルスケールの凹凸を施した「ナノすりガラス」を開発した。超親水性を150℃で1日程度維持でき、高温での印刷が必要な有機半導体でも、良質な単結晶薄膜を大面積製造することが可能となった。

 有機半導体は印刷により高品質な結晶性薄膜を得られるが、そのためには半導体インクが均質に漏れ拡がる親水性の基板が必要だ。親水性は水の濡れやすさを指し、親水性が高いと表面に付いた水が薄く拡がって膜状になる。一般的に、親水性表面は親水性化学種・化合物コーティング、UV光照射、プラズマ処理などにより得られるが、汚損により親水性は低下し、継続的な維持は困難だ。

 今回、物質表面のわずかな凹凸と表面の濡れ性の関係に着目し、一般的なガラスの表面を弱酸性の炭酸水素ナトリウム水溶液、80℃で処理し、ナノメートルスケールの凹凸(1㎚程度)を形成。マイクロメートルスケールの凹凸機械加工の「すりガラス」に対し、「ナノすりガラス」と命名した。表面の水接触角は3度以下の超親水性を示し、150℃の高温下で1日程度維持した。

一般的な親水性処理では熱などで表面化学種が劣化するが、ナノすりガラスは表面の凹凸構造による親水性のため、熱による親水性の劣化は少ない。今回、150℃でのインク印刷で、n型有機半導体薄膜を1㎝角以上の大面積(従来法の約50倍)で製造することに成功した。できた半導体膜を転写法でデバイスにし電気的特性を評価したところ、優れた電子輸送性能を示すことが確認できた。

 超親水性ナノすりガラスは低環境負荷なプロセスで製造でき、表面平滑性に優れ、十分な透明性をもつ。低コスト・フレキシブルエレクトロニクス用の基板に利用するほか、親水性表面による高い防汚性を生かした水アカ防止など、様々な分野での利用が期待される。

産総研など 過度のリンによるサンゴ生育阻害を初公表

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2021年3月23日

 産業技術総合研究所(産総研)、北里大学、琉球大学の研究グループはこのほど、砂から溶出した高濃度のリンが稚サンゴの骨格形成を阻害することを初めて明らかにした。

 市街地や農地から過度の栄養塩が海に流れ込むと、サンゴが減少することは知られていたが、科学的メカニズムが明らかになり、サンゴ保全に役立つことが期待される。海水温上昇や海洋酸性化など地球規模のストレスによるサンゴの減少が指摘されているが、沿岸域の土地利用の変化や開発にともなう陸域由来の物質によるサンゴ生育環境の悪化など、地域特有の影響も懸念されている。

 リン酸塩は代表的な栄養塩の1つで、ATPやDNAなどの主要構成生体分子で、生命活動には必須だ。しかし、サンゴ礁の生態系は微量のリン酸供給(表層海水で0.3μM以下)で成立しており、リン酸供給が過剰になると、藻類などの増加、生きたサンゴの被度が減少、白化したサンゴの回復の遅れが生じる。リン酸塩はサンゴ骨格の素材である炭酸カルシウムへの吸着性が高く、また熱帯・亜熱帯の石灰質(炭酸カルシウム)の砂に蓄積していると考えられる。

 今回、ミドリイシサンゴが比較的多く生息する沖縄島北部沿岸部と、市街地や農地に比較的近い南部沿岸域で採取した石灰質の砂と共に、コユビミドリイシの稚サンゴを約40日間飼育し、稚サンゴの骨格形成の様子と飼育海水に溶出したリン酸塩濃度を調べた。北部沿岸部の砂から溶出したリン酸塩は5~8μMで、稚サンゴの底面骨格は海水のみの飼育時に比べ7割程度に減少した。

 一方、南部沿岸域の砂からの溶出量は12~20μMで、底面骨格は3割程度にまで減少し、高濃度リン酸塩添加時と同様の凹凸の激しい骨格表面になった。これにより、石灰質の砂は陸から流れ込んだリン酸塩を吸着し、高濃度で蓄積することが分った。砂に蓄積したリン酸塩を蓄積型栄養塩と定義し、サンゴなどの底生生物に対する影響の本格的調査を始めた。また、沿岸域の蓄積型栄養塩を調べることで、陸域負荷の大きな場所を特定することも可能だ。さらに底生生物の生育に影響を及ぼす可能性のあるその他の陸域由来物質についても、石灰質砂への蓄積の有無の調査を開始した。

産総研 SiCウエハー量産技術の大型共同研究を開始

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2021年3月22日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、ウエハーメーカーを含む民間企業17社と公的機関3機関との連携で次世代パワー半導体用炭化ケイ素(SiC)ウエハーの量産技術の確立を目指した大型共同研究を開始したと発表した。SiCインゴットを作るバルク単結晶成長プロセスからウエハー化の加工プロセスに至るまで低コスト化を実現する製造技術の開発を進める。

 パワー半導体素子は、大電力を制御する発電・送電システムや、産業用ロボットなどのFA機器、自動車や鉄道などの輸送機器、コンピューターなどの情報通信機器や家電製品に至るまで、幅広く産業・社会に浸透している。現在シリコン(Si)製パワー半導体が主流だが、SiC製パワー半導体素子はエネルギー損失が少なく、新幹線や電気自動車などへの社会実装も始まっている。しかしSiCは極めて堅く安定な材料であるため、単結晶成長やウエハー加工にかかる時間とコストが課題だ。

 SiC単結晶は2000℃以上の極高温の気相雰囲気で成長させるが、成長速度は1時間当たり500㎛~数㎜と遅く、Si単結晶の100分の1以下だ。またパワー半導体として致命的な結晶欠陥も多く残留し、生産効率の良い欠陥排斥技術も未確立だ。直径6インチクラスの大口径SiCウエハーの需要が世界的に高まる中、より高品質なSiC単結晶を高速に成長させる技術の早期確立を目指す。

 またSiC単結晶をウエハーに加工するには、単結晶の切断から研磨まで多くの工程でダイヤモンド砥粒を消費する。加工時間もSiウエハーの6倍以上かかるため、高速でダイヤモンド砥材の消費の少ないウエハー加工技術の確立を目指す。

 これら技術開発の活動の場として、民活型オープンイノベーション共同研究体「つくばパワーエレクトロニクスコンステレーション(TPEC)」内に材料分科会を新設し、柔軟な産学官連携体制のもとで主に「次世代SiC結晶成長技術開発」や「次世代ウエハー加工技術開発」のプロジェクトを推進している。またSiC結晶成長技術からウエハー加工技術に関わる材料、装置、プロセスの各専門企業が多数連携することで、従来の製造技術の抜本的な技術改革を早期に進められる体制作りを行っており、新規の参入を希望する企業や、研究機関を随時募集している。

 

産総研 大気中の希薄CO2のメタン直接合成触媒を開発

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2021年3月16日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、100㏙から数十%の濃度範囲のCO2から分離回収処理無しで直接高濃度メタンを合成する技術をデルフト工科大学と開発したと発表した。

 カーボンニュートラルの実現に向け、発電所や産業分野から排出されるCO2の大幅削減と、排出されたCO2を回収し炭化水素系燃料や炭素含有有用化合物へ転換して有効利用する研究開発が精力的に進められている。さらにネガティブエミッション技術の導入に向け、大気中のCO2を回収する直接空気回収も注目される。

 CO2濃度は産業排出ガス中で数~数十%、大気中で約400㏙と希薄なため、100%近くまで濃縮するための分離回収過程では多くのエネルギーとコストがかかり、高効率化や分離回収不要の革新的プロセスが求められる。今回、CO2吸収とそれをメタンに転換する二元機能触媒を開発したことで、100㏙のCO2からでも最大1000倍以上高濃度のメタンを直接合成することが可能となった。この触媒はCO2回収機能をもつアルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)やアルカリ土類金属(カルシウムなど)と、CO2と水素をメタンに転換する機能をもつニッケルを組み合わせたものだ。

 産業分野からの排出濃度を想定した5~13%と、大気を想定した400㏙、さらに希薄な100㏙のCO2濃度条件で、450℃の固定層反応器で試験を行った。CO2濃度100㏙のガスを反応器に流すとCO2だけが選択的に吸収され、40分後に吸収が飽和し始めるまで反応器出口からのCO2排出はなかった。その後反応器に水素を導入するとメタンが迅速に生成し、最大で体積分率1000倍以上高濃度のメタンに転換した。転化率は90%以上であった。さらに、大気中の酸素による触媒劣化を確認するために酸素を含むCO2ガスでの試験も行ったが、若干の性能低下はあるものの、CO2の回収とメタンへの高効率転換が確認できた。

 今後は、触媒重量当たりのCO2回収量とメタン生成量がさらに高い二元機能触媒の開発を目指すとともに、実用化を目指した高効率な反応プロセスの開発を行う。

産総研と電通大 全可視光領域で発光する酵素基質群開発

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2021年2月24日

 産業技術総合研究所(産総研)と電気通信大学はこのほど、医療・環境診断や生体イメージングに適用する全可視光領域発光の「虹色発光標識のポートフォリオ」を共同開発したと発表した。

 生物発光を使うバイオアッセイや癌のイメージングなどが注目され、特に最近はウイルス検出などの医療診断の関心が高い。しかし、生物発光は発光色が限られ、特に海洋生物由来発光は短波長の青~緑色に偏り、ヘモグロビンによる吸収や発光標識間の干渉で生体イメージングには不向きだ。長波長の黄~赤色発光がなく、マルチカラーイメージングによる効率的なバイオアッセイや医療・環境診断ができなかった。

 産総研は化学物質生理活性の発光可視化の研究で、人工生物発光酵素群「ALuc」や赤色蛍光色素がついた発光基質を開発。電通大はホタルや海洋生物由来の発光システムで発光を長波長化・多色化する基質群を合成してきた。

 今回、両者の技術を組み合わせ、黄色より長波長の発光やマルチカラーイメージングを実現する生物発光システムを開発。海洋生物由来の発光酵素に共通するセレンテラジン骨格と、発光エビ由来の発光酵素「NanoLuc」と反応して高輝度発光するフリマジンを参考に、13種の発光基質を開発した。

 ウミシイタケ発光酵素「RLuc」と「ALuc」に発光するが「NanoLuc」には発光しないもの、「ALuc」のみ、「NanoLuc」のみに発光するもの、「RLuc」に特に強く発光するものがあり、天然のセレンテラジンは「ALuc16」に強く発光した。これらの組み合わせで、青色~近赤外の様々な発光色を生み出せる。

 相互選択性が非常に高い組み合わせもあり、発光信号間の干渉のないバイオアッセイなどへの応用により、例えば7つのバイオマーカーの同時計測による各種診断の迅速・簡便化などが期待できる。さらにウイルスを高感度で検出できるバイオアッセイや、赤色発光による動物個体内の癌転移などを可視化できる可能性もある。

 今後これを利用した医療・環境診断研究に加え、長波長領域でより高輝度で化学的に安定な虹色発光標識ポートフォリオや、動物個体内での生体イメージングを目指す考えだ。