東ソー CO2とケイ素からDEC合成、触媒技術を開発

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2020年11月30日

 東ソーと産業技術総合研究所(産総研)は27日、CO2とケイ素化合物(テトラエトキシシラン:TEOS)を原料として、ポリカーボネート(PC)やポリウレタン(PU)の原料となる「ジエチルカーボネート(DEC)」を効率的に合成する触媒技術を共同で開発したと発表した。この触媒反応は水を副生しないため、触媒の長寿命化と、高い反応効率を実現しており、実用化されれば、CO2を炭素資源として再利用するカーボンリサイクル社会への貢献が期待できる。

 CO2を様々な有用製品として活用する「カーボンリサイクル」に向けた技術開発が重要視されている。資源エネルギー庁がまとめた「カーボンリサイクル技術ロードマップ」では、CO2の化学品への利用例として、PUやPCといった「含酸素化合物(酸素原子を含む化合物)」を想定。CO2から含酸素化合物を合成する技術としては、CO2とアルコールを原料とする反応の検討が報告されているが、目的物の生成効率や反応に用いる触媒の寿命に課題があり、実用化に向けて製造プロセスの低コスト化が実現できる技術が求められている。

 こうした中、両者は、産総研がケイ素資源から直接合成する方法を開発したテトラアルコキシシランをCO2と組み合わせ、DECを高効率に合成する技術の開発に取り組んだ。DECは幅広く活用されている有用化学品だが、その製造法はホスゲンを原料としている。これまで、CO2とエタノールを原料にDECを合成する研究開発は広く行われてきたが、この反応では水が副生するため、生成したDECと水が反応して原料に戻ってしまう逆反応が進行。また、反応系中の触媒が加水分解されて活性が失われてしまうなどの要因で、高効率合成が難しいという課題があった。

 今回開発した技術では、水を副生しないテトラアルコキシシランの一種であるTEOSを原料とする方法を考案。さらにこの反応に有効な触媒を見出だして、製造プロセスの低コスト化を実現できる合成方法を開発した。今回の成果は、産総研が取り組む「砂からTEOSを合成する技術」と組み合わせることで、CO2と砂という実質的に無尽蔵ともいえる資源から有用化学品を製造する可能性を拓くもの。

 両者は今後、より低コストで省エネルギーな製造方法の確立を目指し、反応条件や触媒のさらなる改良を行う。またスケールアップの検討など、実用化に向けて必要な技術課題の解決に取り組み、2030年ごろまでの実用化を目指す。

NECなど AIで化学プラントの運転変更操作を効率化

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2020年11月26日

 日本電気(NEC)、産業技術総合研究所(産総研)、三井化学、オメガシミュレーションの4者はこのほど、AIとシミュレータ上に再現したミラープラントを組み合わせた運転支援システムを構築し、運転員の手動操作と比較して40%効率的な運転ができることを三井化学のプラントで実証したと発表した。同技術により、化学プラント運転の効率化、例えば、運転安定化までの時間短縮による原料やエネルギーの削減が期待される。

化学プラント運転支援システムの効果
化学プラント運転支援システムの効果

 化学プラントでは顧客の多様なニーズに合わせた生産が行われているが、生産量や生産品を変更する運転変更操作は、安全を見ながら操作する必要があるため、運転員が手動で、あるいはベテラン運転員の操作をルールベース化し手順通りに再現するシーケンス制御で行っている。プラント状態はゆるやかに変化するため、最適な状態となるまでの運転変更操作に数時間から半日程度を要することがある。運転変更の試行を繰り返すと原料やエネルギーが無駄になることから、効率化が望まれていた。このような課題に対し、強化学習を代表としたAI技術の研究が進んでいるものの、プラント級の大規模・複雑な対象には対応できなかった。

実証システム
実証システム

 NECと産総研は、プラントなどの大規模で複雑なインフラの効率的な操作とその根拠を合わせて提示できるAI技術「論理思考AI」を開発。これまで人が行ってこなかった操作もシミュレータ上で試行することにより、運転員が試行錯誤をしながら複数回行っていた運転変更操作を最適化できるようになった。この最適化した操作を運転員が確認し操作することで、運転変更の時間短縮が可能になる。

 今回、同技術とオメガシミュレーションのミラープラント(オンラインダイナミックシミュレータ)を連携させ、三井化学の訓練用実プラントに適用。その結果、生産量を変更する運転変更操作で、運転員の手動操作と比較して操作時間を40%短縮できることを確認した。

 

産総研 高潜熱・高熱応答性の固体相変化蓄熱材料を開発

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2020年10月28日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、熱応答性に優れた固体相変化材料(PCM)を開発したと発表した。金属との複合化で熱伝導率、耐水性、機械加工性を大幅に向上させた。

 パワーデバイスなどの電子デバイスの高熱誤動作を避けるための温度制御には、高い放熱効率が求められる。急激な温度上昇対策には、過剰な発熱をPCMに蓄熱し、相変化温度に保つ方法がある。

 融解型PCMは、熱容量は大きいが熱伝導率が低く熱応答性が悪い。産総研が開発した固体PCMの二酸化バナジウム(VO2)セラミックスは機械強度に優れ熱伝導率も融解型の10倍以上だが、数W/m・K程度であり急速に熱吸収する用途には不十分。熱応答性の向上には高熱伝導物質との複合化が有効だが、両物質界面の熱抵抗に課題があった。

 今回、産総研のVO2の表面活性化技術を利用した金属とVO2の複合化で、反応相や拡散層などの不純物層のない界面が形成することを透過型電子顕微鏡観察で確認。界面熱抵抗は抑えられ、金属と同程度の熱伝導率(約70W/m・K)と大きな潜熱(約100J/㎤)を両立した。これらは複合化する金属の量で調整可能だ。

 一方、V2Oは水和物を生成し、水に浸漬すると腐食し溶出する。しかし、複合化する金属を選択すると、電気防食効果で耐水性は大幅に向上。熱交換器など水のある環境への応用が可能だ。また、セラミックスであり機械加工は困難だが、金属複合化により導電性と靭性が向上し、セラミックス加工用ダイヤモンド砥石での研削・切断加工のほか、導電性を生かした放電加工、金属加工用超硬工具での切削加工も可能となった。

 今後は実用化に向け、金属分散固体PCMの有償サンプル提供を開始し、蓄熱温度域や蓄熱量などの熱特性を利用目的に合わせて調整できるよう材料設計を進めていく考えだ。

産総研と理研 バイオマスベースの機能性ポリマーを開発

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2020年10月27日

 産業技術総合研究所(産総研)と理化学研究所(理研)はこのほど、共同でバイオマスを原料とする新たな機能性ポリマーを開発した。

 性質の異なる2つのバイオマスベース原料の縮合体をモノマーとして重縮合させた、ヒドロキシ桂皮酸骨格とリシノール酸骨格が規則的に交互配列したコポリマーだ。ヒドロキシ桂皮酸骨格中のメトキシ基数で機械物性や熱物性が変化。ゴムやフィルムなどの透明材料としての応用が期待される。

 2030年の世界のバイオ市場は約200兆円と予測され、欧州は既存石油由来製品の3割をバイオ由来製品で代替する目標を掲げるが、実用化には強度面が課題だ。産総研がバイオマス由来の機能性モノマーの分子配列制御で高物性ポリマーを目指す中、共同事業「理研‐産総研チャレンジ研究」の「新・バイオマスニッポン総合戦略」の支援で実施。米ぬかやリグニンに含まれるヒドロキシ桂皮酸類(クマル酸、フェルラ酸、シナピン酸)とひまし油由来のリシノール酸という性質の異なる2分子の縮合体を重縮合し、2種の機能性分子が規則的に交互配列した純粋な共重合体(コポリマー)を合成した。

 リシノール酸だけの重合体(PRA)は室温で液状だがコポリマーは固体で、加熱プレスで圧縮成形加工したフィルムはいずれも無色透明で繰り返し屈曲が可能だ。クマル酸は引張応力が弱く引きちぎれ、フェルラ酸は応力は最小だが切れずによく伸び(800%以上)、シナピン酸は応力が最大で強靭(15.4M㎩、585%)、破断後にゆっくりと元に戻る形状記憶性を示した。

 ガラス転移温度はポリマー骨格中のメトキシ基数に関係し、0個のPRAがマイナス73℃、1個のクマル酸がマイナス15℃、2個のファルラ酸が4℃、3個のシナピン酸が24℃と分子設計上の重要な指針となる。加熱するといずれも350℃付近で約50%が分解したが、PRAがその後も急速に分解が進んだのに対し、コポリマーはその後の分解は緩やかで完全分解は500℃付近だった。安価で豊富な非可食性バイオマスを原料とする「100%バイオマスベースのポリエステル」として、ゴム材料や包装材料など様々な分野への応用が期待できる。

 今後は生分解性評価などを進める一方、試料提供などで連携を進め、実用化に向けて物性を向上させていく考えだ。

 

産総研 人工光合成で海水から水素・酸素を高選択で製造

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2020年10月26日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、可視光に応答する酸化物半導体光電極への太陽光照射により、食塩水や海水など塩化物イオン含有の水溶液から低電解電圧で水素と酸素を選択的に製造する人工光合成技術を開発した。

 光電極表面に少量のマンガン酸化物を担持するだけで、次亜塩素酸(HClO)生成が抑制されることを発見。光電極による人工光合成技術で水素製造システムの実現に加え、天然光合成系の酸素発生中心がマンガンである理由を解くカギが示唆され、実用化・基礎研究双方への貢献が期待される。

 太陽光を利用し、光電極や光触媒での水分解で水素・酸素を製造する技術は低コスト・クリーンで、水素社会実現の基盤技術として研究が盛んだ。海水の使用は低コストだが、酸素とともに海水中の塩化物イオンからHClOを生成。殺菌・消毒機能は有用だがシステムの腐食劣化を促進するため、酸素だけを選択的に生成する光電極の開発が求められている。

 産総研が開発した酸化物半導体光電極BiVO4/WO3/FTOは太陽光を利用して低電圧で水を効率的に分解して水素と酸素を生成。この光電極表面に各種金属イオン含有前駆体溶液を塗布・焼成し、金属酸化物修飾を施した。

 イオン交換膜による二室型反応容器で塩化ナトリウム(NaCl)含有反応溶液を使った電気化学反応システムで、これら光電極の酸素とHClOの生成能力を評価。無修飾の光電極からは酸素とHClOが同時生成したが、マンガン修飾光電極のみHClOはほとんど生成せず酸素選択性は90%以上を示した。

 NaClの濃度やpH、マンガン前駆体やマンガン酸化物の結晶構造の違い、異種元素との複合などの影響は小さく、広範な条件下で選択的に酸素を発生。多種多様な共存イオンを含む人工海水でも再現した。マンガンのこの特異性は、酸素生成に比べてHClO生成の過電圧が相対的に著しく高い、マンガン固有の触媒作用によるものと示唆された。

 天然光合成の酸素発生中心はマンガンの酸化物集合体から成るが、今回「生物にとって有害なHClO生成を幅広い条件下で抑制する特異性が酸素発生中心の進化に関与している」という新たな仮説を提唱できた。今後、今回開発した光電極の長期安定性向上など、太陽光による水素製造の実用化を目指した研究開発を行うとともに天然光合成の進化仮説の立証も行っていく考えだ。

住友理工と産総研 先進高分子デバイス連携研究室を設立

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2020年10月21日

 住友理工と産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、産総研のつくばセンター内に「住友理工-産総研先進高分子デバイス連携研究室」を設立したと発表した。自動車業界は「CASE」(コネクト、自動運転、シェア、電動化)など新規の機能・役割で、100年に1度の大変革期を迎えている。

ステアリングタッチセンサー
ステアリングタッチセンサー

 住友理工は新たなニーズを取り込むため、防振ゴムやホースの研究開発で培った「高分子材料技術」「総合評価技術」によりハンドルやシートへの圧力や接触を検知・可視化するセンシングデバイス「スマートラバー(SR)センサ」技術を開発し、この変革に応えた技術・製品を生み出してきた。

 今回提携する産総研の「情報・人間工学領域ヒューマンモビリティ研究センター」は、人を計測し理解する基盤研究の下、運転支援や自動運転技術をはじめ、歩行から公共交通機関まで様々な移動手段の支援技術と移動価値向上技術の研究開発を行い、人間を中心にモビリティ全体を最適化し、ライフスペースの拡大を図っている。

 連携研究室は住友理工の先進技術と産総研の研究開発の成果を融合し、生活全般での人々の安全・安心・快適への寄与を目的に設立した。具体的には、センシングデバイス実装車両による実際の再現走行実験で、生体情報・状態の推定可能限界を明らかにする。

 例えば、「SRセンサ」をシートに内蔵またはクッション形状に加工して座面に置き、座面の圧力変化からドライバーの心拍・呼吸・体の動きなどを検知し、疲労や居眠り、急病予兆などドライバーの状態を推定することで、警告や運転支援システムの作動、外部への通報などにつなげるドライバーモニタリングシステムを開発する。

ハプティクスインターフェース
ハプティクスインターフェース

 また、ステアリングタッチセンサや「SRセンサ」の柔軟・通電性を利用したハプティクスインターフェース(信号入力で振動)などで自動運転の安全性を確保していく。 その中で官能定量化の先端的技術やデータ解析技術の深化、既存技術とデジタルの融合による技術革新など総合評価技術を高度化し、各種開発途上技術を確立し、高付加価値の製品群とソリューションを創出することにより、グローバル・システムサプライヤーとしてモビリティ社会のさらなる発展に貢献することを目指す考えだ。

NEDOなど 大変形特性の分子構造を機械学習で特定

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2020年10月9日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と産業技術総合研究所(産総研)、先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)はこのほど、ソフトアクチュエーターなどに必須の低応力・大変形の材料開発を加速する手法を共同で開発した。

 柔軟な材料でできたソフトアクチュエーターは小型・軽量・静音・耐水で、動力源も熱・電気・光などと豊富。その上、筋肉のように曲線的で繊細に動き、より生活に近い場所での活躍が見込まれ、特にリハビリ・介護のための作業補助、パワーアシスト用ウエアラブルマシンや、医療手術支援のための遠隔操作マシンなどへの応用が期待される。しかし材料開発は技術者の「勘と経験」による試行錯誤のため、コストと時間が課題であった。

 NEDOの「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」で計算・プロセス・計測を統合して有機・高分子系機能性材料開発の高速化に取り組む中、ソフトアクチュエーター材料の有力候補である液晶エラストマーの分子構造と材料変形の関係を機械学習させ、目標特性を発現する分子構造の予測が可能となった。

 同プロジェクトの要素技術「液晶エラストマー粗視化分子動力学シミュレーター」は1次構造レベルから高分子構造を表現可能。液晶エラストマーは柔軟な分子鎖に剛直な分子単位を含む架橋高分子で、分子鎖中の粒子の数、架橋の長さと密度、強直分子の間隔と配向方向などの分子構造を表すパラメーターの組み合わせは数百以上あるが、大変形特性を決定するパラメーターを特定し、分子構造の有力候補を短時間で約10分の1に絞り込むことに成功。革新的ソフトアクチュエーター材料の開発期間を大幅に短縮できる。またエラストマーやゲルなどの大変形を特徴とする様々な材料開発への応用も期待できる。

 今後、実在の材料に対し、より高度な設計指針を出すためのデータベースの拡充と技術開発を行い、革新的ソフトアクチュエーター開発のための高速材料選定技術を構築するとともに、幅広い材料開発への適用を目指す考えだ。

 

NIMSと産総研 磁気トムソン効果実証で応用展開へ道

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2020年9月25日

 物質・材料研究機構(NIMS)と産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、温度差のある導電体に電流を流すと生じる吸熱・発熱(トムソン効果)が磁場に依存して変化する現象「磁気トムソン効果」の直接観測に世界で初めて成功した。熱エネルギー制御のための新機能・新技術の創出や、熱・電気・磁気変換現象に関する基礎物理と物質科学のさらなる発展が期待される。

 トムソン効果はゼーベック効果(熱流→電流変換)やペルチェ効果(電流→熱流変換)と並ぶ金属や半導体の基本的な熱電効果で、2物質の接合を必要とせずに単一物質で動作することが特徴。その熱電効果の磁場・磁性依存性は測定・評価の困難さから明らかではなかった。

 今回、ロックインサーモグラフィー法による吸発熱現象の精密測定により、吸熱・発熱は温度差と電流に比例し、磁場を与えることで増強されることが観測された。実験に使ったビスマス・アンチモン(BiSb)合金の磁気トムソン効果は大きく、0.9T(テスラ)の磁場で90%以上増強し、ゼーベック効果やペルチェ効果と同等の出力を示した。これにより、磁気トムソン効果の基本的な性質が明らかになり、計測・評価技術が確立された。

 今後、磁気トムソン効果に関する物理・材料・機能探索を進めることで、電子デバイスの効率向上や省エネルギー化、小型化に資する熱マネジメント技術への応用展開をはじめ、熱・電気・磁気の相互作用がもたらす新しい物理現象の観測を目指していく。

東ソー ハイブリッドリサイクル技術、NEDO事業に

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2020年9月10日

 東ソーは9日、東北大学、産業技術総合研究所(産総研)、宇部興産、恵和興業、東西化学産業、凸版印刷、三菱エンジニアリングプラスチックスと共同で提案した、「多層プラスチックフィルムの液相ハイブリッドリサイクル技術の開発」が、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業に採択されたと発表した。

 同事業は、「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム」で進める「廃プラスチックを効率的に化学品原料として活用するためのケミカルリサイクル技術の開発」に公募したもの。なお、同事業の委託期間は今年6月から来年3月までとなっている。

 採択された技術は、包装・容器に多く使用されている多層プラスチックを高温高圧水中で処理することで、特定のプラスチック成分のみを原料にまで分解し、得られた原料と単離されたプラスチックの双方を再利用する。食品などで汚染されたプラスチックごみをそのまま処理できる可能性があり、一般ごみのリサイクル率向上に寄与することが期待される。

 今回の委託事業では、産官学で連携してプラスチックの分解条件の探索と連続処理プロセスの開発を進めることでプロセスの高効率化を図るとともに、社会実装を見据え、対象となる廃棄物の調査と処理プロセス適用時のLCA(ライフサイクルアセスメント)評価を行っていく。

東北大学など 水と高圧氷の界面に「新しい水」を発見

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2020年9月8日

 東北大学と北海道大学、産業技術総合研究所(産総研)、東京大学はこのほど、高圧下で水が凍ってできる氷の表面に、通常の水とは混ざらない異構造・高密度の「新しい水」を発見したと発表した。水の異常物性を説明する「2種類の水」仮説の検証に新たな道を示した。

 水はありふれた存在だが、特異な物性をもつ奇妙な液体であり、多くの自然現象を支配している。たとえば雪だるまが作れるのは、0℃以下でも存在する氷表面の液体層のおかげだ。

 マイナス20℃、248M㎩の低温高圧条件で生成する氷Ⅲの、加減圧時の成長・融解過程を光学顕微鏡で観察。加圧成長時には界面に流動性の均質な液体膜が形成し、加圧を止めると不均質化して迷路のような模様になった。これは通常の水と新しい水が混ざり合わない異なる構造をもつことを示している。

 減圧融解時には活発に動く微小液滴が形成。この水は液滴の濡れ角から高密度であり、分子動力学シミュレーションからは氷Ⅲに近い構造であると考えられる。以上から、水/氷界面にはナノメートルオーダーの氷から水へ連続的に変化する液膜があるという通説に反し、マイクロメートルスケールの高密度水の液膜が存在することが明らかとなった。

 また25℃、954M㎩の常温高圧条件で結晶化する氷Ⅵ/水界面にも高密度の新しい水の生成がレーザー干渉顕微鏡で確認され、水/高圧氷界面の高密度水形成の普遍性が示された。なお、通常の氷は氷Ⅰhで六角柱状の格子構造、今回の低温高圧環境下の氷Ⅲは立方体構造、常温高圧環境下の氷Ⅵは底面が正方形の直方体構造である。

 今回の融液/結晶成長挙動の解明は、融液から機能性材料が生成する過程の解明に、さらには太陽系天体内部の高圧状態の氷から天体の形成過程の解明にも役立つと期待される。