京都工芸繊維大学ら、マイクロファイバー化PSに逆圧電的特性発見

, , ,

2020年7月3日

 京都工芸繊維大学と産業技術総合研究所(産総研)の共同研究チームはこのほど、膜状態では圧電効果を示さない汎用樹脂(ポリスチレン:PS)が、電界紡糸法でマイクロファイバー化するだけで逆圧電的特性(加電により変形)を示し、その圧電効果は従来の圧電材料を大きく上回ることを明らかにした。さらに、その特異な逆圧電的特性を説明する数理モデルも提案した。材料の選択肢を広げ、軽量・柔軟・高性能圧力センサーやアクチュエーターを、安価に大面積で製造する可能性が拓けた。

 IoTの発展に伴いウエアラブルデバイスの需要が高まる中、軽量・柔軟・高通気性の機能性繊維が注目されている。中でも圧電機能は生体の動作や心拍を捉えるセンサー、振動や音声を出力するアクチュエーターなど用途が広く、圧電性繊維材料への期待は高い。軽量・柔軟な圧電材料としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)類やポリ‐L‐乳酸(PLLA)などの圧電樹脂が、主に膜状で検討されてきた。圧電性向上のためにポーリングや熱処理をしても、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などのセラミック系材料には及ばない。

 昨年報告の、電界紡糸法PSマイクロファイバーの準静的な正圧電的特性(変形により電圧発生)に加え、今回、逆圧電的特性とその周波数特性を確認した。ガラス基板電極上にPSマイクロファイバー(平均直径4.8㎛)を直接電界紡糸法で堆積させ、その上に金箔電極を接着して試験体を作製。印加時のファイバー膜の膜厚変化を、レーザー変位計で測定した。圧電効率を示す圧電d定数(電圧と変形の相関)は、準静的な電圧印加で3万pm/Ⅴ超、1k㎐の高周波でも約1.3万pm/Ⅴと、圧電樹脂膜の約250倍、PZTの約20倍であった。

 電界紡糸法で作製したマイクロファイバー膜は、正電荷と負電荷が上下面に偏在するエレクトレット(半永久的帯電材料)である。これを簡略モデル化し他要素を考慮して数理モデルを構築。測定データの解析から、同ファイバー膜の優れた圧電特性は、優れた帯電性と柔軟性によることを示した。

 今後は、電界紡糸PSマイクロファイバー膜の特異な圧電的特性の詳細なメカニズム解明を進めるとともに、着用型の生体動作センサーやアクチュエーターとしての応用展開を目指す考えだ。

 

三井化学 炭鉱電車プロジェクト、「音の資産」を公開

, , , ,

2020年7月3日

 三井化学は、福岡県大牟田市の大牟田工場で原材料の搬入などに使用してきた、三井化学専用線(旧三池炭鉱専用鉄道)を今年5月7日をもって廃止とし、運用を取りやめた。 

炭鉱電車にまつわる様々な音をASMR音源で収録
炭鉱電車にまつわる様々な音をASMR音源で収録

 三池炭鉱の時代から100年以上の長きにわたり活躍した炭鉱電車の歴史に幕が下ろされた。同社では、炭鉱電車への感謝と未来に向けたレガシーとしての活用を検討する「ありがとう炭鉱電車プロジェクト」を進めており、このほど同プロジェクトの1つである「音の資産」の記録化が完成し、ウェブサイトを通じ公開を始めた。

 記録化にあたっては、ブランデッドオーディオレーベル「SOUNDS GOOD」とコラボし、炭鉱電車にまつわる様々な音を、ヒトの感覚が刺激され心地よさを感じるというASMR音源として収録。「車掌室3.6」「大解剖、炭鉱電車100年の音」「珍しい踏切と手動の線路切替レバー」「宮浦駅のレトロなものたち」の4つの音源を公開した(https://soundsgoodlabel.com/mitsuichemicals/asmr/vb59/)。

 「車掌室3.6」には、炭鉱電車に録音機材を持ち込み、車掌室内で聞こえる、操作音や汽笛の音、トランシーバーでのやり取り、ブレーキ音、踏切の警報器音などを収録。宮浦駅から仮屋川操車場まで片道1.8㎞の運転区間を、一往復する沿線3.6㎞の音とともに収めた。貨車の連結音や鉄橋の通過音、耳を澄ませば乗務員の息遣いまで聞こえてくるほどに臨場感があふれる。他の音源では、炭鉱電車の点検音、作業員の声、どこか懐かしさのあるレトロな警報器音、ポイント切替レバーの操作音、100年を超す木造駅舎の階段の軋み音などがある。

 録音に携わったアーティストでプロデューサーのSeiho(セイホー)氏は、「電車はダイナミック音だけでなく、意外に繊細な音が周りにあって新しい発見だった」と、音源の中の解説で感想を語る。今回、同氏が炭鉱電車のASMR音源を散りばめた楽曲「Sampling―〝MITSUI CHEMICALS on SOUNDS GOOD〟」の公開も行う。誰もが身近な電車の音は、聞く人の脳裏に思い思いのイメージを描き出すことから、同氏が制作するインストゥルメンタルで情景を想像させる音楽と相性がいいという。記者は昼下がり、文庫本を手に木の床のチンチン電車に揺られ、過去から未来へと時空を旅しているような心地よさを感じた。同氏の楽曲は、専用サイト(https://www.youtube.com/playlist?list=PLu8hS8yDJGDoOrkfNSyB5x7sghJJX7gWg)などで公開している。

 なお、映画監督の瀬木直貴氏とのコラボによる、炭鉱電車の「風景の資産」記録化プロジェクトも進行中だ。大牟田市民などから募った炭鉱電車の古い映像や写真、思い出・エピソードをベースに、メモリアル映像の制作が行われている。また、新型コロナウイルス感染拡大により延期されている、炭鉱電車のラストランイベントについても、今秋をめどに準備を進めているとのこと。日程や詳細などは決定次第、三井化学の特設サイト(https://jp.mitsuichemicals.com/jp/coalmine_train/)で発表される予定。

BASF 技能五輪支援で塗装熟練技術者の育成を推進

, , ,

2020年7月3日

 BASFはこのほど、技能五輪国際大会の主催団体であるワールドスキルズ・インターナショナルと新たに2年間のグローバルインダストリーパートナーシップ契約を締結した。同社の世界レベルでの熟練した車体塗装技能者の育成推進の一環として、来年、中国・上海で開催される技能五輪国際大会を支援する。

 技能五輪国際大会は、熟練者の知名度と認知度の向上、経済成長と個人の成功につながる技能の重要性を示すことを使命とし、1950年に創設。世界中の若い技能者が磨き抜かれた技能を競う競技大会で、技術の向上に加え、技能者としての情熱を育むことにも貢献している。上海大会に合わせて、技能に特化した世界初の博物館「世界技能博物館」(上海)がオープンするが、BASFはその常設展もサポートする。

 一方、同社は、独自のグローバルSTAMPPプログラム=塗装業務の簡素化と改善=により、若い車体塗装技能者を対象とした1年間のインターンシップトレーニングを行っている。また、車体塗装分野への参入に必要な技能とビジネス背景を教える複数のトレーニングセンターを展開しており、昨年後半にはメキシコ・トルカにオープンした。

 コーティングス事業本部グローバル戦略マーケティングディレクターのボスケッティ氏は、「サステナビリティ、デジタル化および次世代の車体塗装技能者の多様性に焦点を当てるため、同大会との提携は有意義だ。若者、産業界、政府、教育機関が集まり、この産業の利益を促進し、熟練した車体塗装技能者がこの分野に参入することへの情熱を駆り立てるだろう」と期待を述べている。

帝人 汚水処理技術、B‐DASHプロジェクトに採択

, , , , , , ,

2020年7月3日

 帝人はこのほど、国土交通省が実施する下水道革新的技術実証事業「B‐DASHプロジェクト」に、帝人フロンティアを含む6者の共同研究体が提案した「災害時に応急復旧対応可能な汚水処理技術の実用化に関する実証事業」が、令和2年度実施事業として採択されたと発表した。

 近年、豪雨や地震などの自然災害で下水処理場が被災し、その機能を失う状況が多発。未処理の下水が流出した場合は、周辺住民の衛生・安全・財産にかかわる重大な事態につながる恐れがある。そのため、迅速な施工・設置により水処理の復旧が可能な技術開発が求められている。こうした中、6者(帝人フロンティア、エステム、積水アクアシステム、日新技術コンサルタント、豊橋技術科学大学、愛知県田原市)が共同で、実証事業を提案し採択された。

 実証技術の概要は、パネルタンクに特殊繊維担体を設置したユニット型水処理システム(生物反応槽)を、田原浄化センターの最初沈殿池横に設置し、水路から汚水を取水して、流入水をこのユニット型水処理システムへ送水。凝集沈殿処理、固形塩素剤による滅菌処理を行い、放流可能レベルにまで処理する。

 今回の実証技術は、災害発生時に運搬、現地での組み立て、運転の立ち上げ、維持管理、撤去が容易に実施可能で、迅速な応急復旧に優れたユニット型水処理システムを用いるもので、①調達が容易で可搬性に優れたパネルタンクを用いることで迅速な施工が可能、②運搬・組み立てが容易で下水処理の運転の立ち上げが早く解体撤去も容易、③省スペース、変形スペースで設置が可能、④ユニットの組み合わせにより流入水量、流入水質に対して柔軟な対応が可能、⑤高耐久かつ高負荷運転が可能で、運転管理が容易な特殊繊維担体を使用、⑥運転管理にはクラウド装置を使用し、安心・安全な遠隔管理を実施する、といった特長がある。

NEDO セメント工場のCO2再資源化技術開発に着手

, ,

2020年7月2日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はこのほど、セメント製造プロセスで排出されるCO2を再資源化し、セメント原料や土木資材として再利用する技術開発と実用化に向けた実証試験の助成先として太平洋セメントを採択したと発表した。実施期間は2020~21年度、予算は16億5000万円。セメント工場での1日10t規模のCO2分離・回収の実証試験は国内初の試み。

 セメント産業のCO2排出量は、国内では電力、鉄鋼に次いで多く総排出量の約4%であり、排出削減対策は重要な課題だ。このうちの約6割は、セメントの中間原料であるクリンカの製造過程で、原料の石灰石が分解して発生する。今年1月策定の「革新的環境イノベーション戦略」の中で、削減効果が大きく、日本の技術が貢献できるテーマの1つとして、「CO2を原料とするセメント製造プロセスの確立」が設定された。そうした中、セメント製造工程中のCO2を再資源化し、セメント原料や土木資材として再利用する技術の開発と実用化に向けた実証試験事業「炭素循環型セメント製造プロセス技術開発」に着手した。

 研究開発項目は、①セメントキルン排ガス中のCO2の分離・回収、②廃コンクリートや生コンクリートスラッジなどの廃棄物の再資源化によるCO2の排出削減、③セメント製品へのCO2の固定化である。具体的には、セメント工場内のセメントキルン排ガスから10t/日のCO2を分離・回収する実証試験と、CO2を廃コンクリートや生コンクリートスラッジにより炭酸塩として固定化し、原料石灰石の代替や道路舗装用の路盤材などの土木資材として再資源化する要素技術開発になる。

セメント工場(太平洋セメント熊谷工場)
セメント工場(太平洋セメント熊谷工場)

 同事業により、最適なCO2分離・回収システムとCO2再利用の「カーボンリサイクル」技術を確立し、2030年度までに国内セメント工場への導入を目指す考えだ。なお、この分野での2050年の世界全体のCO2削減量は約43億tと期待されている。

BASF 界面活性剤「APG」、生産開始25周年に

, ,

2020年7月2日

 BASFはこのほど、ドイツ・デュッセルドルフ工場にて、アルキルポリグリコシド「APG」の生産開始から25周年を迎えたと発表した。同拠点で操業開始以来、生産量は100万t以上となる。1995年の操業当初はヘンケルが運営していたが、2000年にコグニスに所有権が移管され、2011年にBASFの製品群に加わった。

 「APG」は、再生可能原料であるデンプンと植物油に由来するオールラウンドな界面活性剤で、パーソナルケアやホームケア、さらには業務用や工業用途での幅広い処方に、マイルドさと泡立ちの良さを提供する。

 パーソナルケア向けの「Plantacare(プランタケア)」は100%植物由来製品。糖構造をベースとしたオールラウンドな界面活性剤で、幅広い洗浄用途に適している。ホームケア/業務用洗浄向けの「Glucopon(グルコポン)」は、各種の要求性能に対する多くの問題を解決することができる。界面活性剤としての機能特性と、環境に優しいソリューションに対する様々なニーズを、優れた方法で組み合わせている。工業用途向けの「Agnique(アグニーク)」は、塩との相溶性が高く、農薬の付着を向上させる展着剤として有効。乳化重合用乳化剤「Disponil(ディスポニル)」も、塗料、接着剤、ゴム産業などで優れた環境プロファイルを示す。また各種エコラベルの要件を満たし、重合工程中にホルムアルデヒドを一切放出しない乳化剤として認定されている。

 これらの「APG」関連製品は、洗浄製品や産業工程助剤に対する近年のニーズを満たし、パーソナルケア、ホームケア、業務用・工業用途での最新素材であり続けている。同社はサステナビリティと天然由来原料に対する消費者や顧客の期待を原動力に、市場展開を推し進める考えだ。

カネカ ロート製薬と涙道カテーテル事業で提携合意

, ,

2020年7月2日

 カネカはこのほど、ロート製薬と、涙道カテーテル事業に関する事業提携で合意したと発表した。カネカの技術力・製品開発力と、ロートの眼科領域での高いブランド力・販売力のシナジーによる、涙道カテーテル事業のさらなる拡大を目指す。まず販売分野からスタートし、涙道カテーテルの製造販売認証のロートへの承継などを進め、提携強化を図る。

涙道カテーテル
涙道カテーテル

 カネカは、1994年に流涙症治療に使用する涙道カテーテルを上市した。流涙症は、涙道の閉塞により涙が鼻腔に排出されずあふれ出る疾患で、高齢化が進む日本、米国そしてアジアでも症例数の増加が見通されている。

 主な治療法は、専用チューブを一定期間涙道に挿入し涙道を再建する、涙道カテーテル挿入術。同社のイソブチレン系熱可塑性エラストマー(SIBS:スチレン・イソブチレン・スチレン共重合体)などを活用した柔軟性と強度を併せ持つ製品は国内トップシェア、米国でも5年以上の販売実績がある。

 一方、ロートは国内トップシェアの一般用目薬をはじめ、胃腸薬、スキンケア製品などの事業を展開。今年3月には医療用眼科点眼薬を主力とする日本点眼薬研究所をグループ会社化している。

 カネカは、今後も患者や医療関係者が求める製品とサービスを提供し、眼科領域での当該治療に貢献していく考えだ。

 

丸紅 米プロピレンの長期引取契約、23年1Qに開始

, ,

2020年7月2日

 丸紅はこのほど、米国最大のエネルギー関連ミッドストリーム企業であるエンタープライズ社と、米国産プロピレンの長期引取契約を締結した。

 エンタープライズ社は、テキサス州ヒューストンの西部に位置するモントベルビュー地区で、新しい製造プラントの建設を進めており、プロパン脱水素(PDH)法によってプロピレンを生産する計画。丸紅は、2023年第1四半期から引き取りを開始する予定。なお、今回の契約は、今年1月にエンタープライズ社が保有するモーガンズポイントターミナルから初出荷を行った米国産エチレンの輸出サービス契約と同様に、エンタープライズ社との長期にわたる協業の1つとして位置づけられる。

 プロピレンは、日用雑貨品や産業部材に幅広く使用される合成樹脂ポリプロピレン、ABS樹脂やアクリル繊維などの原料であるアクリロニトリルの主原料でもあり、必要不可欠な原料として需要の拡大が見込まれている。

 丸紅は、世界中の顧客に対し、プロピレンの輸送に必要な物流や需給調整機能を提供している。今後、エンタープライズ社から米国産プロピレンを長期にわたり調達することで、顧客へ適時・適量を安定的に供給することが可能となり、顧客製品の安定生産にも一層寄与していく。

製造プラント完成予想図
製造プラント完成予想図

ENEOS 再エネ企業と提携、新サービス創出を目指す

, ,

2020年7月2日

 ENEOSはこのほど、エネルギーサービス事業者であるLooopと業務・資本提携契約を締結したと発表した。

 ENEOSは、分散電源の活用を中心とした次世代型エネルギー供給・地域サービス事業を成長事業の1つと位置づけ、自社リソースを活用したエネルギーサービスの創出を目指している。

 一方、Looopは再生可能エネルギーの最大普及を通じた「エネルギーフリー社会の実現」をビジョンとして、太陽光発電所の開発から、国内外での自家消費のシステムの施工・管理、電力小売事業まで、電力に関わる一貫したサービスを展開している。

 今回の提携により、店舗や工場などの屋根を借りて太陽光発電設備を設置・運営する自家消費支援事業に参入し、サービスの早期開始を目指す。さらに、太陽光発電や蓄電池などを活用した新サービスを共同で検討していく。

 今後は、Looopの強みである、商品・技術を集約し、新サービスを早期に市場投入する力を最大限に活用するとともに、ENEOSが全国に所有するインフラや、卒FITなどの分散電源、IPP・新電力事業で培ったノウハウなどを生かし、電気事業・再生可能エネルギー事業領域をターゲットにした新サービス創出を早期に実現させる。

 ENEOSは、分散電源の活用を中心とした次世代型エネルギー供給・地域サービスの展開を通じて、低炭素・循環型社会の実現に貢献していく考えだ。

産総研 抗体の高次構造の完全・非破壊的解析技術を開発

, , ,

2020年7月1日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、東京大学、中外製薬と、抗体の高次構造(HOS)情報を、製剤条件・低温保存温度で非破壊的に取得できる独自のNMR測定技術を開発したと発表した。

 バイオ医薬の躍進に伴い、その薬効や安全性をHOSに基づいて評価することが求められ、溶液中の抗体タンパク質のHOSの適切性や、熱劣化していないことの確認が必要となる。しかし、抗体などの高分子量バイオ医薬のHOS情報を、溶液組成や測定温度に制約されずに、非破壊的に取得する技術はなかった。産総研が昨年開発した「FC‐TROSY法」により、分子量15万超の抗体の非破壊観測は可能となったが、芳香族アミノ酸の観察に限られる上、フッ素核導入によるタンパク質のHOS変化もゼロではない。

 今回開発した「窒素核観測CRINEPT法(N‐CRINEPT法、窒素15直接観測と交差緩和による低感度核の感度増強法)」は、安定同位体「窒素15」標識をアミド部分に施す必要があるが、フッ素導入は不要でありフッ素によるHOS変化の恐れはない。そしてプロリンを除くすべてのアミノ酸残基由来の信号を取得できる。

 また、分子量15万超のタンパク質のNMR解析に必要であった重水素化が不要となり、重水素化が困難な新型コロナウイルス(SARS‐CoV‐2)の表面タンパク質などの大きな膜タンパク質の解析も可能となった。これにより、HOS情報の網羅性改善と完全非破壊性を実現し、製剤保存条件でのありのままの抗体分子のHOS情報を取得できるようになった。またNMR法で解析可能なタンパク質の数が飛躍的に増えたことにより、抗体医薬の研究開発への貢献が期待される。

 今後は、「N‐CRINEPT法」を研究・開発段階の抗体医薬に適用するなど、社会実装を進める。また、NMR法を用いた創薬支援基盤技術をさらに発展させ、バイオ医薬に限らず低分子、中分子など多様な医薬に対応できる創薬基盤技術プラットホームを構築していく考えだ。