東京大学ら ポリマー半導体への分子ドーピングが制御可能に

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2020年12月14日

 東京大学、産業技術総合研究所(産総研)、広島大学などによる共同研究グループは、世界で初めてポリマー半導体の立体障害と分子ドーピングの相関を明らかにし、ポリマー半導体の「隙間」サイズを制御することでドーピング量を100倍向上させることに成功した。

 半導体の結晶中に不純物(ドーパント)を添加することで、半導体中の電子数やエネルギーを精密に制御できる。 シリコン半導体のドーピングは、シリコン原子を別の原子に置換して行うが、ポリマー半導体のドーピングはユニークな形・サイズのポリマー分子とドーパント分子を複合化する必要があり、複雑な立体障害を制御する必要がある。

 同グループは結晶性ポリマー半導体へのドーピングに着目し、結晶性ポリマー半導体1ユニット当たり1ドーパント分子を高密度に複合化する技術を開発したが、ドーピング効果を最大化する分子設計指針は明らかではなかった。

 今回、結晶性ポリマー半導体のナノスケールの「隙間」に着目し、立体障害と分子ドーピングの相関を系統的に調査した結果、電気を流す骨格に周期的に付いた側鎖の密度を精密に制御し、隙間を適切に拡張することで、分子ドーピング量を100倍程度増加させることに成功。隙間を拡張した結晶性ポリマー半導体は従来の3倍程度の体積のドーパント分子を複合化でき、ほぼ最密充填された分子複合体を作製することにも成功した。

 結晶性ポリマー半導体の隙間とドーパント分子サイズの関係が明らかとなり、これまでにない様々な分子複合体材料の設計指針が明確になった。また、最密充填した分子複合体は金属のように電気が流れやすく、熱耐久性や環境耐久性も向上することが分ってきた。今後、異なる分子の複合化という単純な化学操作による革新的な電子・イオン材料の創製が期待される。

産総研 低コスト成膜技術で多接合太陽電池の普及を加速

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2020年12月10日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、同ゼロエミッション国際共同研究センターと大陽日酸が共同で次世代太陽電池普及の鍵となるハイドライド気相成長(HVPE)法によるアルミニウム系材料の成膜と太陽電池への応用を可能にする装置を開発した。

 Ⅲ-Ⅴ族化合物太陽電池はバンドギャップ(光吸収波長)の異なる材料を積層した多接合構造で発電効率は最も高いが、高価な原料と基板、遅い成膜速度など製造コストの高さが課題であった。また、高効率化には各構成セルの高性能化が必要で、特にインジウム・ガリウム・リン(InGaP)トップセルの表面電流損失をAlIn(Ga)P層で抑制することが不可欠だ。

 両者は2015年度よりNEDOの支援を受け、有機金属気相成長法より低コストであるHVPE法の水平置き縦型装置の開発を進め、高速成膜性を実証。今回Al系材料の高品質成膜を検討した。

 HVPE法では、金属と塩化水素ガスを700~850℃の炉内で反応させ金属塩化物前駆体にするが、AlはAlClとなり石英反応炉を損傷するため使用できなかった。今回反応温度を500℃に下げ、AlCl生成を抑え石英との反応性の低いAlCl3を生成することで、Al系材料の成膜が可能となった。これによりInGaPセル表面を不活性化でき、出力電流が増大し、発電効率が向上した。

 また、AlAsの成膜が可能になったことで、基板コストも低減できた。基板上にAlAs層、太陽電池層の順で成膜。AlAs層をフッ化水素酸で除去して太陽電池層を基板から剝離することで、基板は再利用できる。剝離した太陽電池層は薄膜なため、産総研の半導体接合技術「スマートスタック」により異種材料と接合して発電効率を向上できる。今回、剝離や接合の実証にはGaAsセルを使ったが、InGaPセルや多接合構造でも同様に剝離や接合が可能だ。

 これまで2インチ基板で検討したが、今後6インチサイズが成膜できる量産型HVPE装置を開発し、さらにそのⅢ-Ⅴ族化合物太陽電池をシリコンやCIGSなどの安価な太陽電池と接合して発電効率35%以上、発電コスト200円/Wの太陽電池の実現を目指す。

NEDO 機械学習システムの品質評価テストベッド公開

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2020年12月8日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、AIシステムに関する品質の指標および測定プロセスを提供する「機械学習システムの品質評価テストベッドα版(機能限定)」を開発し、企業・大学などの開発者向けにオープンソースソフトウエアとして公開した。

 実社会でAIシステムを広く活用するためには、安心して利用可能とする品質マネジメントが不可欠となる。NEDOの「人と共に進化する次世代人工知能に関する技術開発事業」において、産総研は「機械学習品質マネジメントガイドライン」を公開したが、品質マネジメントを実施していくためには個別の品質評価項目に対して具体的な品質指標の測定・検査・改善を支援するツール群と、その作業全体を統括管理できる作業環境が必要となる。

 すでに、機械学習モデルの管理とともにAIシステムの品質要件定義から運用までのライフサイクルを支援するいくつかのツールが存在するが、次々に開発される新しい機械学習モデルや品質測定技術などを柔軟に取り入れられる共通基盤はこれまで存在しなかった。

 両者が開発したテストベッドは、AIシステム開発者・AIシステム品質評価者・評価手法開発者が共同で参加し、AIシステム開発時に品質管理で用いる学習・検査などのツールを組み込み、開発プロセス支援と評価記録・検証とを両立させる作業環境を提供するソフトウエア群。

 今回公開されたテストベッドは、「AIシステム評価パッケージ(AIT)」作成ツール、品質アセスメントWebサーバー、評価レポート作成アプリケーションで構成される。このテストベッドを利用することでAIシステムの品質について定量的に評価するとともに、開発プロセスや評価記録・検証など包括的な支援を行うことができ、品質に関する不透明性の解消やビジネス活用の加速が期待できる。

 今後は、品質評価プロセスの共通基盤としての機能をさらに充実させて、AIシステム品質管理のエコシステム構築を目指す。

東ソー CO2とケイ素からDEC合成、触媒技術を開発

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2020年11月30日

 東ソーと産業技術総合研究所(産総研)は27日、CO2とケイ素化合物(テトラエトキシシラン:TEOS)を原料として、ポリカーボネート(PC)やポリウレタン(PU)の原料となる「ジエチルカーボネート(DEC)」を効率的に合成する触媒技術を共同で開発したと発表した。この触媒反応は水を副生しないため、触媒の長寿命化と、高い反応効率を実現しており、実用化されれば、CO2を炭素資源として再利用するカーボンリサイクル社会への貢献が期待できる。

 CO2を様々な有用製品として活用する「カーボンリサイクル」に向けた技術開発が重要視されている。資源エネルギー庁がまとめた「カーボンリサイクル技術ロードマップ」では、CO2の化学品への利用例として、PUやPCといった「含酸素化合物(酸素原子を含む化合物)」を想定。CO2から含酸素化合物を合成する技術としては、CO2とアルコールを原料とする反応の検討が報告されているが、目的物の生成効率や反応に用いる触媒の寿命に課題があり、実用化に向けて製造プロセスの低コスト化が実現できる技術が求められている。

 こうした中、両者は、産総研がケイ素資源から直接合成する方法を開発したテトラアルコキシシランをCO2と組み合わせ、DECを高効率に合成する技術の開発に取り組んだ。DECは幅広く活用されている有用化学品だが、その製造法はホスゲンを原料としている。これまで、CO2とエタノールを原料にDECを合成する研究開発は広く行われてきたが、この反応では水が副生するため、生成したDECと水が反応して原料に戻ってしまう逆反応が進行。また、反応系中の触媒が加水分解されて活性が失われてしまうなどの要因で、高効率合成が難しいという課題があった。

 今回開発した技術では、水を副生しないテトラアルコキシシランの一種であるTEOSを原料とする方法を考案。さらにこの反応に有効な触媒を見出だして、製造プロセスの低コスト化を実現できる合成方法を開発した。今回の成果は、産総研が取り組む「砂からTEOSを合成する技術」と組み合わせることで、CO2と砂という実質的に無尽蔵ともいえる資源から有用化学品を製造する可能性を拓くもの。

 両者は今後、より低コストで省エネルギーな製造方法の確立を目指し、反応条件や触媒のさらなる改良を行う。またスケールアップの検討など、実用化に向けて必要な技術課題の解決に取り組み、2030年ごろまでの実用化を目指す。

NECなど AIで化学プラントの運転変更操作を効率化

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2020年11月26日

 日本電気(NEC)、産業技術総合研究所(産総研)、三井化学、オメガシミュレーションの4者はこのほど、AIとシミュレータ上に再現したミラープラントを組み合わせた運転支援システムを構築し、運転員の手動操作と比較して40%効率的な運転ができることを三井化学のプラントで実証したと発表した。同技術により、化学プラント運転の効率化、例えば、運転安定化までの時間短縮による原料やエネルギーの削減が期待される。

化学プラント運転支援システムの効果
化学プラント運転支援システムの効果

 化学プラントでは顧客の多様なニーズに合わせた生産が行われているが、生産量や生産品を変更する運転変更操作は、安全を見ながら操作する必要があるため、運転員が手動で、あるいはベテラン運転員の操作をルールベース化し手順通りに再現するシーケンス制御で行っている。プラント状態はゆるやかに変化するため、最適な状態となるまでの運転変更操作に数時間から半日程度を要することがある。運転変更の試行を繰り返すと原料やエネルギーが無駄になることから、効率化が望まれていた。このような課題に対し、強化学習を代表としたAI技術の研究が進んでいるものの、プラント級の大規模・複雑な対象には対応できなかった。

実証システム
実証システム

 NECと産総研は、プラントなどの大規模で複雑なインフラの効率的な操作とその根拠を合わせて提示できるAI技術「論理思考AI」を開発。これまで人が行ってこなかった操作もシミュレータ上で試行することにより、運転員が試行錯誤をしながら複数回行っていた運転変更操作を最適化できるようになった。この最適化した操作を運転員が確認し操作することで、運転変更の時間短縮が可能になる。

 今回、同技術とオメガシミュレーションのミラープラント(オンラインダイナミックシミュレータ)を連携させ、三井化学の訓練用実プラントに適用。その結果、生産量を変更する運転変更操作で、運転員の手動操作と比較して操作時間を40%短縮できることを確認した。

 

産総研 高潜熱・高熱応答性の固体相変化蓄熱材料を開発

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2020年10月28日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、熱応答性に優れた固体相変化材料(PCM)を開発したと発表した。金属との複合化で熱伝導率、耐水性、機械加工性を大幅に向上させた。

 パワーデバイスなどの電子デバイスの高熱誤動作を避けるための温度制御には、高い放熱効率が求められる。急激な温度上昇対策には、過剰な発熱をPCMに蓄熱し、相変化温度に保つ方法がある。

 融解型PCMは、熱容量は大きいが熱伝導率が低く熱応答性が悪い。産総研が開発した固体PCMの二酸化バナジウム(VO2)セラミックスは機械強度に優れ熱伝導率も融解型の10倍以上だが、数W/m・K程度であり急速に熱吸収する用途には不十分。熱応答性の向上には高熱伝導物質との複合化が有効だが、両物質界面の熱抵抗に課題があった。

 今回、産総研のVO2の表面活性化技術を利用した金属とVO2の複合化で、反応相や拡散層などの不純物層のない界面が形成することを透過型電子顕微鏡観察で確認。界面熱抵抗は抑えられ、金属と同程度の熱伝導率(約70W/m・K)と大きな潜熱(約100J/㎤)を両立した。これらは複合化する金属の量で調整可能だ。

 一方、V2Oは水和物を生成し、水に浸漬すると腐食し溶出する。しかし、複合化する金属を選択すると、電気防食効果で耐水性は大幅に向上。熱交換器など水のある環境への応用が可能だ。また、セラミックスであり機械加工は困難だが、金属複合化により導電性と靭性が向上し、セラミックス加工用ダイヤモンド砥石での研削・切断加工のほか、導電性を生かした放電加工、金属加工用超硬工具での切削加工も可能となった。

 今後は実用化に向け、金属分散固体PCMの有償サンプル提供を開始し、蓄熱温度域や蓄熱量などの熱特性を利用目的に合わせて調整できるよう材料設計を進めていく考えだ。

産総研と理研 バイオマスベースの機能性ポリマーを開発

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2020年10月27日

 産業技術総合研究所(産総研)と理化学研究所(理研)はこのほど、共同でバイオマスを原料とする新たな機能性ポリマーを開発した。

 性質の異なる2つのバイオマスベース原料の縮合体をモノマーとして重縮合させた、ヒドロキシ桂皮酸骨格とリシノール酸骨格が規則的に交互配列したコポリマーだ。ヒドロキシ桂皮酸骨格中のメトキシ基数で機械物性や熱物性が変化。ゴムやフィルムなどの透明材料としての応用が期待される。

 2030年の世界のバイオ市場は約200兆円と予測され、欧州は既存石油由来製品の3割をバイオ由来製品で代替する目標を掲げるが、実用化には強度面が課題だ。産総研がバイオマス由来の機能性モノマーの分子配列制御で高物性ポリマーを目指す中、共同事業「理研‐産総研チャレンジ研究」の「新・バイオマスニッポン総合戦略」の支援で実施。米ぬかやリグニンに含まれるヒドロキシ桂皮酸類(クマル酸、フェルラ酸、シナピン酸)とひまし油由来のリシノール酸という性質の異なる2分子の縮合体を重縮合し、2種の機能性分子が規則的に交互配列した純粋な共重合体(コポリマー)を合成した。

 リシノール酸だけの重合体(PRA)は室温で液状だがコポリマーは固体で、加熱プレスで圧縮成形加工したフィルムはいずれも無色透明で繰り返し屈曲が可能だ。クマル酸は引張応力が弱く引きちぎれ、フェルラ酸は応力は最小だが切れずによく伸び(800%以上)、シナピン酸は応力が最大で強靭(15.4M㎩、585%)、破断後にゆっくりと元に戻る形状記憶性を示した。

 ガラス転移温度はポリマー骨格中のメトキシ基数に関係し、0個のPRAがマイナス73℃、1個のクマル酸がマイナス15℃、2個のファルラ酸が4℃、3個のシナピン酸が24℃と分子設計上の重要な指針となる。加熱するといずれも350℃付近で約50%が分解したが、PRAがその後も急速に分解が進んだのに対し、コポリマーはその後の分解は緩やかで完全分解は500℃付近だった。安価で豊富な非可食性バイオマスを原料とする「100%バイオマスベースのポリエステル」として、ゴム材料や包装材料など様々な分野への応用が期待できる。

 今後は生分解性評価などを進める一方、試料提供などで連携を進め、実用化に向けて物性を向上させていく考えだ。

 

産総研 人工光合成で海水から水素・酸素を高選択で製造

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2020年10月26日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、可視光に応答する酸化物半導体光電極への太陽光照射により、食塩水や海水など塩化物イオン含有の水溶液から低電解電圧で水素と酸素を選択的に製造する人工光合成技術を開発した。

 光電極表面に少量のマンガン酸化物を担持するだけで、次亜塩素酸(HClO)生成が抑制されることを発見。光電極による人工光合成技術で水素製造システムの実現に加え、天然光合成系の酸素発生中心がマンガンである理由を解くカギが示唆され、実用化・基礎研究双方への貢献が期待される。

 太陽光を利用し、光電極や光触媒での水分解で水素・酸素を製造する技術は低コスト・クリーンで、水素社会実現の基盤技術として研究が盛んだ。海水の使用は低コストだが、酸素とともに海水中の塩化物イオンからHClOを生成。殺菌・消毒機能は有用だがシステムの腐食劣化を促進するため、酸素だけを選択的に生成する光電極の開発が求められている。

 産総研が開発した酸化物半導体光電極BiVO4/WO3/FTOは太陽光を利用して低電圧で水を効率的に分解して水素と酸素を生成。この光電極表面に各種金属イオン含有前駆体溶液を塗布・焼成し、金属酸化物修飾を施した。

 イオン交換膜による二室型反応容器で塩化ナトリウム(NaCl)含有反応溶液を使った電気化学反応システムで、これら光電極の酸素とHClOの生成能力を評価。無修飾の光電極からは酸素とHClOが同時生成したが、マンガン修飾光電極のみHClOはほとんど生成せず酸素選択性は90%以上を示した。

 NaClの濃度やpH、マンガン前駆体やマンガン酸化物の結晶構造の違い、異種元素との複合などの影響は小さく、広範な条件下で選択的に酸素を発生。多種多様な共存イオンを含む人工海水でも再現した。マンガンのこの特異性は、酸素生成に比べてHClO生成の過電圧が相対的に著しく高い、マンガン固有の触媒作用によるものと示唆された。

 天然光合成の酸素発生中心はマンガンの酸化物集合体から成るが、今回「生物にとって有害なHClO生成を幅広い条件下で抑制する特異性が酸素発生中心の進化に関与している」という新たな仮説を提唱できた。今後、今回開発した光電極の長期安定性向上など、太陽光による水素製造の実用化を目指した研究開発を行うとともに天然光合成の進化仮説の立証も行っていく考えだ。

住友理工と産総研 先進高分子デバイス連携研究室を設立

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2020年10月21日

 住友理工と産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、産総研のつくばセンター内に「住友理工-産総研先進高分子デバイス連携研究室」を設立したと発表した。自動車業界は「CASE」(コネクト、自動運転、シェア、電動化)など新規の機能・役割で、100年に1度の大変革期を迎えている。

ステアリングタッチセンサー
ステアリングタッチセンサー

 住友理工は新たなニーズを取り込むため、防振ゴムやホースの研究開発で培った「高分子材料技術」「総合評価技術」によりハンドルやシートへの圧力や接触を検知・可視化するセンシングデバイス「スマートラバー(SR)センサ」技術を開発し、この変革に応えた技術・製品を生み出してきた。

 今回提携する産総研の「情報・人間工学領域ヒューマンモビリティ研究センター」は、人を計測し理解する基盤研究の下、運転支援や自動運転技術をはじめ、歩行から公共交通機関まで様々な移動手段の支援技術と移動価値向上技術の研究開発を行い、人間を中心にモビリティ全体を最適化し、ライフスペースの拡大を図っている。

 連携研究室は住友理工の先進技術と産総研の研究開発の成果を融合し、生活全般での人々の安全・安心・快適への寄与を目的に設立した。具体的には、センシングデバイス実装車両による実際の再現走行実験で、生体情報・状態の推定可能限界を明らかにする。

 例えば、「SRセンサ」をシートに内蔵またはクッション形状に加工して座面に置き、座面の圧力変化からドライバーの心拍・呼吸・体の動きなどを検知し、疲労や居眠り、急病予兆などドライバーの状態を推定することで、警告や運転支援システムの作動、外部への通報などにつなげるドライバーモニタリングシステムを開発する。

ハプティクスインターフェース
ハプティクスインターフェース

 また、ステアリングタッチセンサや「SRセンサ」の柔軟・通電性を利用したハプティクスインターフェース(信号入力で振動)などで自動運転の安全性を確保していく。 その中で官能定量化の先端的技術やデータ解析技術の深化、既存技術とデジタルの融合による技術革新など総合評価技術を高度化し、各種開発途上技術を確立し、高付加価値の製品群とソリューションを創出することにより、グローバル・システムサプライヤーとしてモビリティ社会のさらなる発展に貢献することを目指す考えだ。

NEDOなど 大変形特性の分子構造を機械学習で特定

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2020年10月9日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と産業技術総合研究所(産総研)、先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)はこのほど、ソフトアクチュエーターなどに必須の低応力・大変形の材料開発を加速する手法を共同で開発した。

 柔軟な材料でできたソフトアクチュエーターは小型・軽量・静音・耐水で、動力源も熱・電気・光などと豊富。その上、筋肉のように曲線的で繊細に動き、より生活に近い場所での活躍が見込まれ、特にリハビリ・介護のための作業補助、パワーアシスト用ウエアラブルマシンや、医療手術支援のための遠隔操作マシンなどへの応用が期待される。しかし材料開発は技術者の「勘と経験」による試行錯誤のため、コストと時間が課題であった。

 NEDOの「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」で計算・プロセス・計測を統合して有機・高分子系機能性材料開発の高速化に取り組む中、ソフトアクチュエーター材料の有力候補である液晶エラストマーの分子構造と材料変形の関係を機械学習させ、目標特性を発現する分子構造の予測が可能となった。

 同プロジェクトの要素技術「液晶エラストマー粗視化分子動力学シミュレーター」は1次構造レベルから高分子構造を表現可能。液晶エラストマーは柔軟な分子鎖に剛直な分子単位を含む架橋高分子で、分子鎖中の粒子の数、架橋の長さと密度、強直分子の間隔と配向方向などの分子構造を表すパラメーターの組み合わせは数百以上あるが、大変形特性を決定するパラメーターを特定し、分子構造の有力候補を短時間で約10分の1に絞り込むことに成功。革新的ソフトアクチュエーター材料の開発期間を大幅に短縮できる。またエラストマーやゲルなどの大変形を特徴とする様々な材料開発への応用も期待できる。

 今後、実在の材料に対し、より高度な設計指針を出すためのデータベースの拡充と技術開発を行い、革新的ソフトアクチュエーター開発のための高速材料選定技術を構築するとともに、幅広い材料開発への適用を目指す考えだ。