ハイケムなど CO2からPXを製造する技術開発に着手

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2020年7月15日

 C1化学を進展させ川上・川下の事業拡大図るハイケムは14日、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「CO2を原料としたパラキシレン(PX)製造に関する技術開発」事業に参画し、共同開発に着手すると発表した。

 同事業では、CO2を原料としたPX製造に向けた画期的な触媒の改良や量産技術の開発、プロセス開発を実施するとともに、経済性やCO2削減効果を含めた事業性の検討を行う。PXはポリエステル繊維やペットボトルなどの生産に必要となる重要な化学品だが、これをCO2から工業的に製造する実用的な技術はまだ確立されていない。

 同事業にはハイケムをはじめ、富山大学、千代田化工建設、日鉄エンジニアリング、日本製鉄、三菱商事の6者が参画。カーボンリサイクル技術の世界最先端の取り組みを通じてCO2を原料としたPX製造の実用化を目指す。事業期間は今年度から2023年度まで。予算は19億9000万円。

 火力発電などから排出されるCO2の削減は気候変動対策として重要であり、またCO2を資源として捉えて回収し、有効利用する「カーボンリサイクル技術」の開発が求められている。経済産業省は昨年6月「カーボンリサイクル技術ロードマップ」を策定し、その中でCO2を素材や燃料へ利用することなどを通して、大気中へのCO2排出を抑制していく方針を示した。こうした中、NEDOは、既存の化石燃料由来化学品に代替することを目的とする化学品へのCO2利用技術の開発として、今回の取り組みを開始し、共同研究者6者を委託先として採択した。

 PXは、高純度テレフタル酸(PTA)を経由してポリエステル繊維やペットボトル用樹脂などに加工される化合物であり、工業上、極めて重要な基礎化学品。その組成から、化学品を製造するカーボンリサイクル技術の中では水素原料の使用量を抑えながらCO2を固定化できる特長があり、経済的観点と環境的観点、いずれの意味でも大いなる可能性を秘める。PXの世界需要は約4900万t/年あり、仮に現在の世界のPXの需要を全てCO2原料に切り替えた場合のCO2固定量は1.6億t/年に上る。

 ハイケムらは今回の共同事業を通じ、CO2からPXを製造するための画期的な触媒の改良、量産技術の開発やプロセス開発に加え、全体の経済性やCO2削減効果を含めた事業性検討を行い、実証段階への道筋をつける。

現在の工業的パラキシレンおよびポリエステルの製造の流れ(上)と、今回の新事業の狙い(下)
現在の工業的パラキシレンおよびポリエステルの製造の流れ(上)と、今回の新事業の狙い(下)

産総研 機械学習の品質マネジメントガイドラインを公開

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2020年7月14日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、企業や大学などの有識者と共同で、機械学習を用いた人工知能(AI)システムの品質を客観評価する「機械学習品質マネジメントガイドライン第一版」を策定し、産総研のウェブサイトで公開したと発表した。AIシステムの品質の透明性を上げ、ビジネスでの活用を加速させる狙い。

 AIシステムを安全性が不可欠な自動運転やロボット制御分野、公平性が重要な個人融資などの信用管理分野など広く利用するには、品質マネジメントが不可欠である。しかし、AIシステムは実在データに基づくため大きな環境変化に対応できない可能性があること、訓練データの学習により機能発揮することから、従来のソフトウェアに比べて品質管理が難しい。これまで性能評価技術は開発・発表されているが、品質要件定義、要件充足のためのAIシステムの性質とその確認方法に関し、系統的・網羅的なガイドラインや規格はない。

 今回、AIシステムの品質要件定義、実証実験、開発、保守・運用までのライフサイクル全体を網羅し、品質要求充足のための取り組みや検査項目を体系化した。「品質」を利用時に必要な「利用時品質」、機械学習要素に要求される「外部品質」、機械学習要素が持つ「内部品質」に分類。「内部品質」の向上により「外部品質」を充足し、「利用時品質」を実現する。

 サービス提供者は、「外部品質」として①リスク回避性、②AIパフォーマンス、③公平性、を設定し要求度に応じてレベル分けする。次に「内部品質」における①要求分析の十分性、②データ設計の十分性、③データセットの被覆性、④同均一性、⑤機械学習モデルの正確性、⑥同安定性、⑦プログラムの健全性、⑧運用時品質の維持性、の8項目を確認し「外部品質」への充足度を判断し、「利用時品質」を実現する。これは品質マネジメント要求達成のための関係者間の役割分担のほか、開発作業の受発注・委託での合意形成や検収条件の設定などにも利用できる。

 今後は実ビジネスでの活用とそのフィードバックにより利便性・有用性の向上と評価方法の拡張などを推進し、国内でのデファクトスタンダード化、さらには国際標準化を目指す考えだ。なお、今回のガイドラインの策定は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの受託事業として、2018年度から検討を始めていた。

NEDO ネットワーク末端での情報処理効率を一桁向上

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2020年7月10日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はこのほど、進化型・低消費電力AIエッジLSIの研究開発事業を通じて、ソシオネクスト、ArchiTekと豊田自動織機が、AI認識処理の「ハイブリッド量子化DNN技術(深層学習)」、画像処理の「進化型仮想エンジンアーキテクチャ技術(aIPE)」、自己位置推定・環境地図作成の「リアルタイムSLAM処理技術」を開発したと発表した。

 これらを用いたAIエッジLSIを試作評価したところ、AI認識処理と画像処理は汎用GPUの10倍以上の省電力化、リアルタイムSLAMの自己位置推定処理時間は汎用CPUの20分の1となる短縮化を達成した。

 IoT社会の到来により爆発的に増加するデータを高度に利活用するためには、クラウドでのデータ処理だけでなく、ネットワーク末端(エッジ)での低消費電力・高度情報処理が求められる。今回、パラメーターや入力値を低ビット化して処理する技術と、機械学習用の量子化ライブラリ、推論用の量子化エンジン、学習から推論への変換処理技術により、高速・高精度・低電力でのAI認識処理が可能となった。

 また、最小限のハード部品の組み合わせでアルゴリズムを構築することで、高速移動ロボットの自己位置推定処理時間を、大幅に短縮できた。これにより物流やマシンビジョン、セキュリティ・見守り、車載センシングシステムでの低電力、低遅延、低コストのエッジコンピューティングシステムが構築でき、超低消費電力社会の実現が期待できる。

 今後、進化型aIPEとハイブリッド量子化DNN技術の統合、リアルタイムSLAM処理技術の高度化、コンピュータービジョンとAI基本ミドルウェアライブラリの開発、クラウド・エッジ環境の最適化を進め、産業検査、運転支援、ドローンなどへ適用可能な高度・低電力AIの技術確立を目指す。なお、進化型aIPEを取り込んだプラットフォームのIP(回路情報)は、ArchiTekが10月から提供する予定。

日板硝子 抗ウイルスガラス「ウイルスクリーン」簡易衝立キットを開発

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2020年7月10日

 日本板硝子はこのほど、光触媒技術を活用した抗ウイルスガラス「ウイルスクリーン」を使った簡易衝立キットを開発したと発表した。

 ウイルスクリーン簡易衝立キット
ウイルスクリーン簡易衝立キット

 「ウイルスクリーン」は銅系化合物と酸化チタン光触媒を組み合わせた抗ウイルスガラス製品で、ガラスに付着したウイルスの活性を低減させる。商業施設のレジカウンターなどでの利用を想定した組み立て式の簡易衝立キットで、サイズは2種類、9月ごろ発売の予定。「ウイルスクリーン」は「抗ウイルス」が求められる病院や公共施設などへ提供してきたが、「新しい生活様式」では商業施設、ホテル、幼稚園、工場など様々な施設でもウイルス対策が求められている。

 今回発売の「簡易衝立キット」は、レジカウンターなどでの飛沫感染防止を想定し、客側に抗ウイルス膜、店員側に飛散防止フィルムを貼り付けたもの。抗ウイルス膜は、銅系化合物(抗菌・抗ウイルス効果)を酸化チタン光触媒膜(有機物の分解)にスパッタリングした複合膜。銅系化合物の抗ウイルス効果が弱まっても、光触媒機能により効果が回復する。

 また光触媒は、蛍光灯やLED照明対応の「可視光応答型」である。ものに付着した細菌やウイルスは一般的に12~24時間生存すると言わるが、「ウイルスクリーン」は、ガラス面に付着したウイルスを室内照明下約60分で99%以上減少させる。一般的なアクリルや塩ビと比べ、耐久性(耐UV、変色)、美観(透過性、視認性)、メンテナンス(消毒不要)の点で優れている。

 同社は、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどのレジカウンターで、感染を気にすることなく買い物ができる「新たな生活様式」が生まれることを期待している。なお、「ウイルスクリーン」は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト」で東京大学との共同研究から生まれたもの。

 

NEDO 革新的センシングデバイスの研究開発に着手

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2020年7月8日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はこのほど、過酷な環境下や非破壊での計測、超低濃度成分の検出などを可能とする革新的センシングデバイスの実現に向け、新たに6件の研究開発に着手した。

 人口減少や少子高齢化などにより、インフラの維持管理や産業保安の負担増、医療・介護費の増大、地域の人手不足や移動弱者の増加などの様々な社会課題が顕在化している。その解決には、豊富なリアルデータによる現状の見える化が重要であり、サイバー空間とフィジカル空間を融合させるセンシングデバイスが必要とされる。

 こうした中、「IoT社会実現のための革新的センシング技術開発」事業として、新たに「建機オイルの劣化状態モニタリング」「製造装置内流体濃度分布のリアルタイム計測」「次世代の火山活動モニタリングシステム」「安価で高性能なVR搭載システム」「ペットや人間の健康管理に関する呼気分析システム」のための高精度センシング技術の開発と、設置環境や経年劣化に対するセンシングデバイスの信頼性確保のための「ワイヤレス通信を用いた遠隔機器校正ネットワーク技術」の研究開発を行う。実施期間は2020から24年度の予定。

 これにより、産業機器の保全や高効率制御、火山の遠隔監視、テレワークや遠隔医療などの促進、疾病の予兆検知などが期待される。様々な社会課題の早期解決と新産業の創出を両立するSociety5.0の実現を目指す。

 

NEDOと福島県 低炭素水素の利活用拡大の協定を締結

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2020年7月7日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と福島県はこのほど、「低炭素水素の利活用拡大に関する連携・協力に関する基本協定」を締結した。

 福島県浪江町で再生可能エネルギー(再エネ)を使った水素製造実証に取り組むNEDOと、「再生可能エネルギー先駆けの地」の実現に向けて再エネの導入拡大と関連産業の育成・集積を進めている福島県が包括的な協定を締結することで、①再エネ由来水素の活用およびそれを通じた再エネ導入の推進と研究開発に向けた相互協力、②再エネ由来水素および福島県内の再エネの広報・啓発活動、を連携・協力して進めていく。

 なお、期間は6月19日から2022年3月末まで。すでに、福島県が設置した、あづま総合運動公園(福島市)とJヴィレッジ(楢葉町)にある純水素型燃料電池に、今年3月に開所した世界最大級の再エネ水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」から水素を供給し、施設内の一部電力供給を開始している。

NEDO 世界初、水素輸送の国際実証試験を本格開始

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2020年7月6日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はこのほど、水素社会構築に向けた事業の一環として、次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合(AHEAD)とともに、世界初の国際間水素輸送実証試験を、本格的に開始した。

 NEDOは、水素社会での水素の安定供給を目指し、2015年から「水素社会構築技術開発事業」に取り組んできた。今回、未利用エネルギー由来の水素の国際サプライチェーン構築のために、トルエンを水素キャリアとする「有機ケミカルハイドライド法」の国際実証試験を本格的に開始した。

 水素単体では多くの体積を必要とすることから、輸送に課題がある。トルエンと反応させてメチルシクロヘキサン(MCH)に変換することにより体積は500分の1になる上、既製のISOタンクコンテナによる常温・常圧での輸送・貯蔵が可能となる。さらに今回、大規模なMCH脱水素処理技術を開発し、低コスト運用の可能性が開けた。

 昨年11月にブルネイの水素化プラントが完成、12月には製造したMCHが日本に到着した。川崎市内の脱水素プラントが4月に稼働を始め、MCHから分離した水素を東亜石油京浜製油所内の水江発電所のガスタービンに供給している。脱水素後のトルエンはブルネイへ輸送し、6月からトルエンの再水素化処理を開始した。こうして、一連のプロセスからなる水素サプライチェーンが完成し、安定稼働に入った。

 水素供給源はLNGプラントのプロセス発生ガスで、水素輸送能力は年210t(燃料電池自動車フル充填約4万台相当)。今年末まで実証試験を行い、水素化・脱水素化設備の性能検証と課題の抽出、運用技術の確立、国際取引のノウハウ蓄積を図り、海外からの水素輸送と国内の水素発電の大規模な水素利用システム技術を確立し、本格的な水素社会の実現を目指す方針だ。

 

NEDO セメント工場のCO2再資源化技術開発に着手

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2020年7月2日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はこのほど、セメント製造プロセスで排出されるCO2を再資源化し、セメント原料や土木資材として再利用する技術開発と実用化に向けた実証試験の助成先として太平洋セメントを採択したと発表した。実施期間は2020~21年度、予算は16億5000万円。セメント工場での1日10t規模のCO2分離・回収の実証試験は国内初の試み。

 セメント産業のCO2排出量は、国内では電力、鉄鋼に次いで多く総排出量の約4%であり、排出削減対策は重要な課題だ。このうちの約6割は、セメントの中間原料であるクリンカの製造過程で、原料の石灰石が分解して発生する。今年1月策定の「革新的環境イノベーション戦略」の中で、削減効果が大きく、日本の技術が貢献できるテーマの1つとして、「CO2を原料とするセメント製造プロセスの確立」が設定された。そうした中、セメント製造工程中のCO2を再資源化し、セメント原料や土木資材として再利用する技術の開発と実用化に向けた実証試験事業「炭素循環型セメント製造プロセス技術開発」に着手した。

 研究開発項目は、①セメントキルン排ガス中のCO2の分離・回収、②廃コンクリートや生コンクリートスラッジなどの廃棄物の再資源化によるCO2の排出削減、③セメント製品へのCO2の固定化である。具体的には、セメント工場内のセメントキルン排ガスから10t/日のCO2を分離・回収する実証試験と、CO2を廃コンクリートや生コンクリートスラッジにより炭酸塩として固定化し、原料石灰石の代替や道路舗装用の路盤材などの土木資材として再資源化する要素技術開発になる。

セメント工場(太平洋セメント熊谷工場)
セメント工場(太平洋セメント熊谷工場)

 同事業により、最適なCO2分離・回収システムとCO2再利用の「カーボンリサイクル」技術を確立し、2030年度までに国内セメント工場への導入を目指す考えだ。なお、この分野での2050年の世界全体のCO2削減量は約43億tと期待されている。

NEDO 羽田空港地域で自動運転の実証実験を開始

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2020年6月23日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はこのほど、羽田空港地域で、自動運転技術を活用した次世代公共交通システムの実現に向けた実証実験などを開始した。

 NEDOが管理法人を務める戦略的イノベーション創造プログラム第2期「自動運転(システムとサービスの拡張)」では、交通事故の低減や交通渋滞の削減などの社会的課題の解決を目指して、自動運転実用化に向けて産学官共同で取り組むべき共通課題(協調領域)の研究開発を進めており、同実証実験はその一環。昨年10月から、臨海副都心地域の公道で実験用車載器を搭載した自動運転車を走行させ、信号灯火色などの交通インフラが提供する情報の有効性検証などを行っている。

 今年3月からは羽田空港と臨海副都心を結ぶ首都高速道路で、合流支援情報などを活用したインフラ協調型システムの実証実験を開始した。6月からは、羽田空港第3ターミナルと羽田空港跡地第1ゾーンを結ぶ公道で、磁気マーカー、高度道路交通システム(ITS)無線路側機を活用した公共車両優先システム(PTPS)、信号情報提供、高精度3次元地図などを利用した実証実験をスタート。バスの定時性の向上、磁気マーカーを活用した自動運転の実現、緩やかな加減速やバス停への正着制御などによる安全で快適な走行など、運転自動化「レベル4」相当の次世代型公共交通システムの実現を目指す。

 今後、東京臨海部での実験走行のデータを分析し、技術、精度、社会的受容性に関する課題解決への取り組みを促進し、実用化と普及の加速を図る。羽田空港地域での実証実験の成果を基に、次世代型公共交通システムを展開して、高齢者や交通制約者などの移動の確保やドライバー不足の改善・コスト低減などの社会的課題の解決に貢献していく考えだ。

NEDO 人工光合成、収率ほぼ100%の光触媒開発

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2020年6月12日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と、三菱ケミカルや三井化学などが参画する人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)はこのほど、紫外光領域ながら世界で初めて100%に近い量子収率(光子の利用効率)で水を水素と酸素に分解する粉末状の半導体光触媒を開発した。信州大学、山口大学、東京大学、産業技術総合研究所(産総研)との共同研究によるもの。これまでの光触媒では量子収率が50%に達するものはほとんどなく、画期的な成果といえる。

 ソーラー水素の実用化に向けた大幅なコスト削減には、太陽光エネルギーの変換効率向上が必要だ。そこには、利用光の波長範囲を広げることと、各波長での量子収率を高めることの2つの要素がある。前者は光触媒のバンドギャップ(電子励起に必要なエネルギー)の幅がカギになり、後者は触媒調製法や助触媒との組み合わせで決まる。今回は後者に注力し、ほぼ100%の量子収率を達成するとともに、触媒の構造・機能・調製方法などを明らかにした。

 代表的な酸化物光触媒SrTiO3(Alドープ)を、フラックス法により2種の結晶面を持つ粒子にすると、光で励起された電子と正孔が各結晶面に選択的に移動する異方的電荷移動という現象が起こる。この特性を利用して、各結晶面に水素生成助触媒(Rh/Cr2O3)と酸素生成助触媒(CoOOH)を光電着法により選択的に担持した。

 その結果、光励起した電子と正孔は再結合せずに各助触媒に選択的に移動するため、吸収光のほぼ全てを水分解反応に利用することに成功した。光励起された電子と正孔の一方通行移動は植物の光合成で行われているが、複雑なタンパク質構造によるため、人工的な再現は非現実的だった。今回の光触媒の構造は簡易であり、高活性光触媒の設計指針となる。

 今回は紫外光しか吸収しないため、降り注ぐ太陽光エネルギーの一部しか利用できない。可視光を吸収するバンドギャップの小さな光触媒に応用することで、太陽エネルギーの利用度は上がる。バンドギャップの小さな化合物での水分解にはさらに高度な触媒性能が求められるが、今回の触媒設計指針を応用することにより、製造プラントの省スペース化や製造コストの低減が期待される。

 NEDOらは、引き続き光エネルギー変換効率の向上を進め、人工光合成技術の早期実現を目指していく考えだ。