産総研 業界と領域またぐ標準化を主導、専門組織新設

, ,

2020年7月22日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、イノベーション推進本部内に「標準化推進センター」を設置した。IT化やIoT化などにより、従来の業界団体の枠組みを超えた複数の業界にまたがる新しい産業分野での標準化ニーズが増加する中、国内産業の国際競争力強化のためにも、国際的なルール作り(標準化)を主導していく考えだ。

 同センターでは、産総研の関連領域での政策当局や産業界のニーズに応え、戦略の検討支援や具体的な標準化活動を推進する。中立的立場でステークホルダー間の調整・合意形成を行い、社会課題解決のための標準化を進める中核的組織を目指す。これら調整や標準の普及策検討などを一貫して主導・推進する、専門人材「標準化オフィサー」も新設した。

 また情報技術分野の標準化活動を推進するため、情報・人間工学領域内「デジタルアーキテクチャ推進センター情報標準化推進室」とも連携し、産総研を中核とした標準化活動に取り組む。

 産総研は、これまで培ってきた標準化活動のノウハウをもとに、ステークホルダーと協働して標準化活動に取り組み、社会に役立つ国際的なルールの確立やそれらの活用を通じて、国内産業の国際競争力の強化を図っていく。

 

産総研 機械学習の品質マネジメントガイドラインを公開

, , ,

2020年7月14日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、企業や大学などの有識者と共同で、機械学習を用いた人工知能(AI)システムの品質を客観評価する「機械学習品質マネジメントガイドライン第一版」を策定し、産総研のウェブサイトで公開したと発表した。AIシステムの品質の透明性を上げ、ビジネスでの活用を加速させる狙い。

 AIシステムを安全性が不可欠な自動運転やロボット制御分野、公平性が重要な個人融資などの信用管理分野など広く利用するには、品質マネジメントが不可欠である。しかし、AIシステムは実在データに基づくため大きな環境変化に対応できない可能性があること、訓練データの学習により機能発揮することから、従来のソフトウェアに比べて品質管理が難しい。これまで性能評価技術は開発・発表されているが、品質要件定義、要件充足のためのAIシステムの性質とその確認方法に関し、系統的・網羅的なガイドラインや規格はない。

 今回、AIシステムの品質要件定義、実証実験、開発、保守・運用までのライフサイクル全体を網羅し、品質要求充足のための取り組みや検査項目を体系化した。「品質」を利用時に必要な「利用時品質」、機械学習要素に要求される「外部品質」、機械学習要素が持つ「内部品質」に分類。「内部品質」の向上により「外部品質」を充足し、「利用時品質」を実現する。

 サービス提供者は、「外部品質」として①リスク回避性、②AIパフォーマンス、③公平性、を設定し要求度に応じてレベル分けする。次に「内部品質」における①要求分析の十分性、②データ設計の十分性、③データセットの被覆性、④同均一性、⑤機械学習モデルの正確性、⑥同安定性、⑦プログラムの健全性、⑧運用時品質の維持性、の8項目を確認し「外部品質」への充足度を判断し、「利用時品質」を実現する。これは品質マネジメント要求達成のための関係者間の役割分担のほか、開発作業の受発注・委託での合意形成や検収条件の設定などにも利用できる。

 今後は実ビジネスでの活用とそのフィードバックにより利便性・有用性の向上と評価方法の拡張などを推進し、国内でのデファクトスタンダード化、さらには国際標準化を目指す考えだ。なお、今回のガイドラインの策定は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの受託事業として、2018年度から検討を始めていた。

高エネ研など 結晶構造の自動解析精度、熟練者超え

, , , ,

2020年7月13日

 高エネルギー加速器研究機構(高エネ研)と総合研究大学院大学、産業技術総合研究所(産総研)は共同で、数理最適化の一手法であるブラックボックス最適化手法を用いて、物質・材料研究に必要不可欠な粉末X線回折(PXRD)パターンの解析を自動化・高効率化する手法を開発した。これにより、熟練者を超える解析精度と解析速度だけでなく、従来の手法では得られない結晶構造候補の発見も可能になった。

 物質・材料の機能と性質の多くは結晶構造で決まるため、その詳細な解析は、様々な物理現象研究や高機能材料開発の出発点となる。最も広く利用されている分析手法は、PXRD法だ。その測定結果には結晶構造情報以外のパラメータも多く含まれるため、結晶構造解析のためのパラメータ調整(リートベルト精密化法、仮定した結晶構造から計算した回折パターンと実測パターンが一致するようにパラメータを調整)には膨大は労力を要し、人的・時間的コストが問題となる。熟練者でも1日に1件であり、データ解析の自動化や効率化が求められている。

 今回、リートベルト精密化法が機械学習のハイパーパラメータ最適化問題(複数のパラメータ設定の最適化)と類似していることに着目。これに有効なブラックボックス最適化手法(アルゴリズム)をリートベルト精密化法に応用して、PXRDパターン解析を効率化する手法を開発した。これにより、熟練者を超えるフィッティング精度、つまり測定データとシミュレーション結果の高い一致精度がありながら、ノートPC使用で1時間程度にまで時間を短縮。また、従来からの熟練者の典型的な手順では到達できなかった結晶構造の候補を発見することにも成功した。

 この手法により、結晶構造解析のほか、電子顕微鏡、X線顕微鏡、X線吸収微細構造(XAFS)など様々な計測機器によるデータ解析の自動化が可能となり、計測と解析とを統合した計測機器開発に活用されると考えられる。そして、物質・材料の研究現場でのハイスループットで高精度な材料データを取得するという課題を解決し、世界最先端の研究開発プラットフォームが構築されることが期待される。

産総研 6Gの低電力化に向け、100G㎐超での導電率を計測

, ,

2020年7月9日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、高周波平面回路などに用いる金属材料の導電率を100G㎐超までの超広帯域にわたって簡便に測定する技術を開発した。

 通信インフラとし第5世代移動通信システム(5G)の事業化が進む一方で、次世代のポスト5G/6Gの研究開発も注目されている。6Gではさらなる高速大容量通信のためにミリ波(周波数100G㎐超)の利用が見込まれるが、周波数が上がるほど伝送損失は増大し消費電力も上がるため、低消費電力材料が求められている。

 高周波回路では、伝送損失は誘電体基板の誘電損失と金属線路の導電率で決まるが、金属・誘電体接着面での導電率低下が問題である。産総研は、誘電体基板で金属円板を挟んだ平衡型円板共振器を用いて、170G㎐までの超広帯周波数帯の誘電率測定技術を開発してきた。

 しかし、金属導電率に関しては、周波数100G㎐超帯での簡便・高精度な計測技術はない。今回、誘電体基板で金属箔を挟んだ誘電体共振器に対して、高次モード励振の共振特性から導電率を決定する電磁界解析アルゴリズムを開発し、10~100G㎐超の超広帯域にわたる簡便かつ従来と同等精度での計測を実現した。この技術により、5Gや6Gの低消費電力化に向けた材料開発が加速すると期待される。

 技術の詳細は、オンライン開催の国際会議IMSで先月発表された。今回、独立した金属円板の導電率計測を実証したが、今後、銅箔を誘電体基板上に実装した銅張基板の導電率計測を実証するとともに、銅張基板のミリ波帯での損失低減に向けたプロセス技術開発に貢献していく。さらに、ポスト5G/6G時代を見据えて、500G㎐までの計測技術の開発を進める考えだ。

 

 

京都工芸繊維大学ら、マイクロファイバー化PSに逆圧電的特性発見

, , ,

2020年7月3日

 京都工芸繊維大学と産業技術総合研究所(産総研)の共同研究チームはこのほど、膜状態では圧電効果を示さない汎用樹脂(ポリスチレン:PS)が、電界紡糸法でマイクロファイバー化するだけで逆圧電的特性(加電により変形)を示し、その圧電効果は従来の圧電材料を大きく上回ることを明らかにした。さらに、その特異な逆圧電的特性を説明する数理モデルも提案した。材料の選択肢を広げ、軽量・柔軟・高性能圧力センサーやアクチュエーターを、安価に大面積で製造する可能性が拓けた。

 IoTの発展に伴いウエアラブルデバイスの需要が高まる中、軽量・柔軟・高通気性の機能性繊維が注目されている。中でも圧電機能は生体の動作や心拍を捉えるセンサー、振動や音声を出力するアクチュエーターなど用途が広く、圧電性繊維材料への期待は高い。軽量・柔軟な圧電材料としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)類やポリ‐L‐乳酸(PLLA)などの圧電樹脂が、主に膜状で検討されてきた。圧電性向上のためにポーリングや熱処理をしても、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などのセラミック系材料には及ばない。

 昨年報告の、電界紡糸法PSマイクロファイバーの準静的な正圧電的特性(変形により電圧発生)に加え、今回、逆圧電的特性とその周波数特性を確認した。ガラス基板電極上にPSマイクロファイバー(平均直径4.8㎛)を直接電界紡糸法で堆積させ、その上に金箔電極を接着して試験体を作製。印加時のファイバー膜の膜厚変化を、レーザー変位計で測定した。圧電効率を示す圧電d定数(電圧と変形の相関)は、準静的な電圧印加で3万pm/Ⅴ超、1k㎐の高周波でも約1.3万pm/Ⅴと、圧電樹脂膜の約250倍、PZTの約20倍であった。

 電界紡糸法で作製したマイクロファイバー膜は、正電荷と負電荷が上下面に偏在するエレクトレット(半永久的帯電材料)である。これを簡略モデル化し他要素を考慮して数理モデルを構築。測定データの解析から、同ファイバー膜の優れた圧電特性は、優れた帯電性と柔軟性によることを示した。

 今後は、電界紡糸PSマイクロファイバー膜の特異な圧電的特性の詳細なメカニズム解明を進めるとともに、着用型の生体動作センサーやアクチュエーターとしての応用展開を目指す考えだ。

 

産総研 抗体の高次構造の完全・非破壊的解析技術を開発

, , ,

2020年7月1日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、東京大学、中外製薬と、抗体の高次構造(HOS)情報を、製剤条件・低温保存温度で非破壊的に取得できる独自のNMR測定技術を開発したと発表した。

 バイオ医薬の躍進に伴い、その薬効や安全性をHOSに基づいて評価することが求められ、溶液中の抗体タンパク質のHOSの適切性や、熱劣化していないことの確認が必要となる。しかし、抗体などの高分子量バイオ医薬のHOS情報を、溶液組成や測定温度に制約されずに、非破壊的に取得する技術はなかった。産総研が昨年開発した「FC‐TROSY法」により、分子量15万超の抗体の非破壊観測は可能となったが、芳香族アミノ酸の観察に限られる上、フッ素核導入によるタンパク質のHOS変化もゼロではない。

 今回開発した「窒素核観測CRINEPT法(N‐CRINEPT法、窒素15直接観測と交差緩和による低感度核の感度増強法)」は、安定同位体「窒素15」標識をアミド部分に施す必要があるが、フッ素導入は不要でありフッ素によるHOS変化の恐れはない。そしてプロリンを除くすべてのアミノ酸残基由来の信号を取得できる。

 また、分子量15万超のタンパク質のNMR解析に必要であった重水素化が不要となり、重水素化が困難な新型コロナウイルス(SARS‐CoV‐2)の表面タンパク質などの大きな膜タンパク質の解析も可能となった。これにより、HOS情報の網羅性改善と完全非破壊性を実現し、製剤保存条件でのありのままの抗体分子のHOS情報を取得できるようになった。またNMR法で解析可能なタンパク質の数が飛躍的に増えたことにより、抗体医薬の研究開発への貢献が期待される。

 今後は、「N‐CRINEPT法」を研究・開発段階の抗体医薬に適用するなど、社会実装を進める。また、NMR法を用いた創薬支援基盤技術をさらに発展させ、バイオ医薬に限らず低分子、中分子など多様な医薬に対応できる創薬基盤技術プラットホームを構築していく考えだ。

 

産総研と日立 新たな移動体データ記述形式、国際標準仕様に

, , ,

2020年6月30日

 産業技術総合研究所(産総研)と日立製作所はこのほど、人や自動車などの移動体の位置・時間情報を表す新たな移動体データ形式「MF‐JSON形式」を地理空間情報の国際標準化団体(OGC)に共同で提案し、国際標準仕様として採択されたと発表した。

 人や自動車など様々な移動体の動的な空間情報を一体的に記録することで、移動データの流通・利用の促進に貢献する。通信技術やGPSなどのセンサ技術の発展で、人やモノなどの移動体の時間によって変化する位置情報(移動データ)の収集は容易になった。

 移動データを流通し共有することは、自動運転や防災、公衆衛生対策などに重要であるが、移動データの標準的な交換形式が無くシステムごとにデータ形式が異なるため、システム間の円滑なデータ連携に問題があった。

 今回採択された「MF‐JSON形式」は、既存のOGCデータ交換形式の問題点を改善したもので、6月に公開された。XML形式よりデータ記述量が少なく、CSV形式より多様な移動体を記述可能。3次元形状の物体移動データを簡潔に記述でき、ウェブ環境で利用しやすくなった。

 GPSからの人流データ(点形状)、道路交通渋滞情報(線形式)、洪水浸水区域の拡大(面形状)、自動車の走行(立体形状)などの動的な地理空間情報に加えて、気温、カメラ画像、速度センサなどから得られる時系列データを、移動体の動的な属性情報として一体的に記述できる。

 このように多様な移動体情報をより高精度に共有・利用できるため、人々の移動状況や密接度などの時間的・空間的な分析に即したマイクロマーケティングやロボットを利用した災害時の効率的な避難誘導、細街路を活用する超小型車両交通システムなど、新たなサービスへの応用が期待される。

 今後は、自動運転や移動ロボット、ドローンなどの安全・安心な移動の支援に加え、工場・倉庫の作業員の作業改善、公共施設・駅構内の混雑緩和などの移動データの時空間パターン分析のサービスインターフェースに関して、国際標準化を図る考えだ。

東大と産総研 電子励起状態のAI予測で解析時間を短縮

, ,

2020年6月26日

 東京大学生産技術研究所と産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、励起状態にある電子構造を人工知能(AI)で高速かつ高精度に予測する新手法を開発した。この手法を電子励起分光スペクトルに適用することで、物質の構造解析や環境物質調査、医療診断に要する時間の大幅短縮が可能となる。

 半導体設計、電池開発、触媒解析の現場で、物質構造を調べる方法の1つに電子励起分光スペクトル測定がある。X線・電子線を照射して物質中の電子を励起し、その励起状態に応じて得られるスペクトルを解析することで物質の原子配列と電子構造を調べる方法だ。それにはコンピュータで電子の励起状態を再現し、スペクトルを理論計算する必要があり、膨大な時間を要する。また励起状態は複雑なため、物質間の励起状態の違いなど、基礎的な知見がなかった。

 研究グループは、酸化シリコン(SiO2)の「結晶」と「アモルファス(非晶質)」の励起状態と基底状態について、1200個近いスペクトルをデータ化。それを使って基底状態と励起状態の関係性をニューラルネットワークに学習させ、基底状態の情報をもとに励起状態の電子構造を高速・高精度に予測できるAIを構築した。

 その結果、スペクトルの理論計算を数百倍に高速化できた。さらに、SiO2で作成した予測モデルを酸化マグネシウムや酸化アルミニウム、酸化リチウムなどに適用した結果、結晶構造や構成元素が異なるにもかかわらず、それらのスペクトルを高精度に予測できた。このことは、SiO2とこれら酸化物の励起状態が類似していることを示唆している。

 一方、結晶SiO2で作成した予測モデルをアモルファスSiO2に適用すると予測精度が著しく低く、同じ組成物であっても原子配列によって励起状態が異なることが明らかになった。

 今回は内殻電子励起スペクトルに適用したが、赤外分光やラマン分光などの励起状態が関わるスペクトルにも展開することで、物質の構造解析や環境物質調査の時間を大幅に短縮でき、物質科学や環境問題の解決、医療技術の発展などへの貢献が期待される。

産総研など コロナ対策関連のAI情報をウェブで公開

, , ,

2020年6月25日

 産業技術総合研究所(産総研)、理化学研究所(理研)、情報通信研究機構(NICT)はこのほど、昨年12月に設立した「人工知能研究開発ネットワーク(AI Japan)」の会員数が100を超えたこともあり、ウェブサイトを開設・公開した。

 同ネットワークは、人工知能(AI)の研究開発に関する統合的・統一的な情報発信やAI研究者間の意見交換の推進などを目的とし、AIに係る研究開発などに積極的に取り組む大学・公的研究機関を対象に会員募集を進めていた。同ウェブサイトでは、日本のAI研究開発に関する情報の集約化を図り、各会員のAI研究開発に係るプレスリリースやイベントなどの最新トピック紹介など、一元的な情報発信を行う。

 第1弾として、会員大学・公的研究機関およびその研究者による「新型コロナウイルス感染症対策関連に係るAIを活用した取り組み」を公開した。AIは治療薬開発、感染シミュレーション、遠隔環境整備など、新型コロナ感染症対策に広範に貢献できる技術。会員に対してAIを活用した取り組みを調査し、登録された23大学・公的研究機関から69件の活動が登録された。

 今後も、ウェブサイトを通してAIの研究開発に係る統合的・統一的な情報発信に取り組んでいく。詳細はウェブサイト(https://www.ai-japan.go.jp/)に掲載。

 

産総研 GHG排出削減を目指しゼロエミベイを始動

, , ,

2020年6月22日

94者参画、東京湾岸をイノベーション拠点に

 産業技術総合研究所(産総研)が主導する、温室効果ガス(GHG)排出削減に向けた新たな取り組み「東京湾岸ゼロエミッションイノベーション協議会」(ゼロエミベイ)が発足し、本格的な活動が始まった。

ゼロエミベイの柏木孝夫会長
ゼロエミベイの柏木孝夫会長

 今月16日に第1回総会を都内で開催。同協議会を率いる柏木孝夫会長(東京工業大学特命教授・名誉教授)は「世界には様々なイノベーション拠点があるが、ゼロエミッションのように、扱う分野が広範囲にわたるものを組み合わせて実証していく例は見当たらない。

コンテンツの残りを閲覧するにはログインが必要です。 お願い . あなたは会員ですか ? 会員について