東京大学と産業技術総合研究所(産総研)、物質・材料研究機構の共同研究グループはこのほど、有機半導体単結晶の薄膜上で、チャネル長1㎛スケールの微細加工手法を新たに開発した。
高移動度と短チャネル化を同時に達成したことで、同研究グループが持つこれまでの世界記録を2倍程度更新し、世界最速となる38M㎐の遮断周波数を達成した。また、この有機トランジスタには交流信号を直流信号に変換する整流性があり、100M㎐でもその整流性が失われないことを実証した。
世界中で有機トランジスタの高速化が進められている中、同研究グループは超短波帯で動作する有機トランジスタの開発に世界で初めて成功した。
有機半導体は有機溶媒に溶かしたインクから、印刷プロセスにより柔軟性のあるデバイスを作製できることから、次世代半導体材料として期待されている。同研究グループではこれまでに、厚さわずか数分子層(10㎚程度)からなる有機半導体単結晶超薄膜を、大面積で塗布可能な印刷手法を開発している。このような高品質の有機単結晶薄膜では、高い移動度が実現されており、有機トランジスタの高速化に極めて有望だ。
半導体集積デバイスの応答周波数は、論理演算を担うトランジスタの移動度と、そのチャネル長に依存する。微細加工手法として、フォトレジストを用いたリソグラフィが広く使われているが、多くのフォトレジストは有機半導体薄膜にダメージを与えることが知られており、有機トランジスタでは、リソグラフィによる高移動度と短チャネル化を両立することは困難だった。
今回、同研究グループは有機半導体単結晶の薄膜上に、フッ素系高分子膜を薄くコーティングすることで、有機半導体でのダメージフリーリソグラフィ手法を新たに開発し、1㎛スケールの微細加工を達成。超短波帯で動作する有機トランジスタの開発に世界で初めて成功した。
物流管理などに広く用いられている、RFIDタグの通信周波数である13.56M㎐より十分に大きな値であることから、今回作製したデバイスは、無線タグの給電に十分応用可能なレベルに達していると言える。
さらに、超短波帯はFMラジオ放送やアマチュア無線などの電波として利用されているが、将来、応答周波数がさらに増加することで、超短波帯を利用した長距離無線通信が可能な有機集積回路の実現が期待される。
また、簡便な印刷プロセスで量産できることから、今後のIoT社会を担う物流管理に用いられる低コストの無線タグや、電磁波から電力を供給する無線給電システムへの幅広い展開が考えられる。