三井化学 高屈折レンズ材を能増、米・中市場拡大に対応

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2021年5月28日

 三井化学は27日、世界トップシェアを誇る高屈折メガネレンズモノマー「MR」の生産能力増強を決定したと発表した。

『MR』を生産する大牟田工場の全景
「MR」を生産する大牟田工場の全景

 既存プラントのある大牟田工場(福岡県大牟田市)で設備新設とデボトル増強を行い、中国を中心としたアジアでの高機能品ユーザー層の拡大や、北米でのポリカーボネート(PC)素材からの置き換え需要などに対応していく考えだ。2023年10月の商業運転開始を予定。生産量については、既存、能増分ともに非公開としている。

 「MR」は独自の重合技術により、高屈折率・高アッベ数・軽量かつ高耐衝撃性を実現したチオウレタン系樹脂(硫黄を含むウレタン)のメガネレンズ材料。粘りのあるチオウレタン系樹脂により、薄くても割れにくく、アッベ数が高いことからレンズ度数を上げても色にじみが少なくクリアな視界が得られる特長をもつ。

伸長する高屈折メガネレンズ需要に向け『MR』を拡販
伸長する高屈折メガネレンズ需要に向け「MR」を拡販

 同社は、グローバルで拡大する高屈折メガネレンズ需要の確実な獲得を目指している。米国市場では、会員制大手量販店の米コストコが「MR」を使用したメガネレンズを標準採用するなど、PC素材からウレタン素材への切り替えが進んでおり、今後も長期的な成長が見込まれている。

 三井化学は、引き続きビジョンケア材料事業を通じ、QOV(視界品質)をコンセプトに、視力矯正から、目の健康と快適さまで、より良い視界を追求する製品開発に取り組んでいく。

DIC 軟包装フィルムのリサイクル、製パン会社と協業

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2021年5月27日

 DICは25日、大手製パンメーカーと共同でパン包装に使用するプラスチック由来の廃棄軟包装フィルムの再生資源化に向けて、マテリアルリサイクル(MR)の実際のプラントへの実装による再利用の検証を今夏より開始すると発表した。

パンの軟包装フィルム 再利用の工程
パンの軟包装フィルム 再利用の工程

 プラスチックは高い利便性から多くの用途で利用される一方、廃プラによる環境負荷が問題視され、その有効活用が国際的な課題になっている。MRは世界的に推進されているものの、日本では廃プラ総排出量891万t(2018年度)に対して、23%の208万tに留まる。

 軟包装フィルムは、包装材としての機能を満たすため印刷インキや接着剤など複層構造で成形。従来のMRの手法では、印刷インキなどが着色されたペレット(プラスチック樹脂)に再生加工されるため、再利用可能な用途が限定されていた。

 DICは、軟包装フィルムの加工および印刷工程で発生する廃棄軟包装フィルムを対象に、新たに導入する印刷インキ除去技術を用いて、着色されていないリサイクルペレットに戻し、新たな用途へ再生させる資源化検証を大手製パンメーカーと共同で開始する。プラント検証は、プラリサイクルを手掛ける外部の協業パートナーと共に実際のプラントへの再生工程に実装。脱インキ・原料化(造粒)・成形加工・再利用の各工程での最適化に取り組む。これにより高度なMRを実現し廃棄フィルムの再生用途を拡大する。

 同社グループは、世界的な社会課題である廃プラや海洋プラ問題に対し、サステナビリティ戦略として対応すべき領域を定め、取り組みを強化。食品包装などのパッケージ素材については、ポリスチレン、フィルム、インキ、接着剤などの素材がプラスチックのMR特性に及ぼす影響について基礎的な研究を行い、地球環境のサステナビリティに貢献するパッケージソリューションの提供を目指している。再資源化の取り組みでは、エフピコとのケミカルリサイクルの協業検討を開始するなど、関連する他業界との連携も強化している。

 DICは、今回の協業により軟包装フィルムの高度な再資源化を図り、プラごみ問題の解決やプラ資源の循環社会の実現を目指す。

 

JSRトレーディング PVC・ニトリルの使い捨て手袋を輸入販売

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2021年5月27日

 JSRトレーディングは26日、ディスポ(使い捨て)タイプのPVC(塩化ビニル樹脂)手袋とニトリル手袋の輸入販売を開始したと発表した。コロナ禍により世界的に公衆衛生の意識が高まる中、同社は、各種衛生用品のニーズが増加していることに対応した。

PVC手袋
PVC手袋

 PVC手袋は、極薄仕上げで手にピッタリフィットする特長をもち、介護など衛生が求められる作業や清掃作業などに使用される。

 ニトリル手袋は、耐油・突き刺し強度・耐久性に優れ、機械作業、食品加工、調理、水産加工、給油などに使用される。

ニトリル手袋
ニトリル手袋

三菱ケミカルなど 「IBM Q」で有機EL励起計算に成功

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2021年5月27日

 三菱ケミカル、JSR、日本IBM、慶應義塾大学は26日、「IBM Qネットワークハブ」(慶應大量子コンピューティングセンター内)で以前から取り組んでいた「量子コンピューターを用いた有機EL発光材料の性能予測」の研究プロジェクトで得られた成果に関する論文が、世界的に権威のあるNature Research出版社の専門誌「npj Computational Materials」に掲載されたと発表した。

IBM 量子コンピューター
IBM 量子コンピューター

同研究プロジェクトは、有機EL発光材料の1つであるTADF材料の励起状態エネルギーの計算を実施するため、三菱ケミカルとIBMが主導し、JSRや慶應大と共に取り組んできた。従来から量子コンピューターによる計算は実機特有のエラーの発生が課題となっていたが、今回、同プロジェクトではエラーを低減させる新たな測定手法を考案し、計算精度を大幅に向上させることに成功した。量子コンピューター実機を用いて実用材料の励起状態計算に成功したのは、世界初の成果となる。

 今後、実機の計算能力の進化と共に従来以上に精密な計算を行えるようになり、より発光効率の高い材料設計に寄与することが期待される。同研究チームは今後も、量子コンピューターを幅広い材料開発に用いるための研究を進めていく。

三井化学 EUVペリクルの商業生産開始、微細化に対応

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2021年5月27日

 三井化学26日は、EUV(極端紫外線)に対応した次世代の半導体フォトマスク防塵カバー「EUVペリクル」について、世界に先駆け商業生産を開始したと発表した。半導体のさらなる微細化や顧客の技術革新要請に対応することで、世界市場に向け生産を行っていく考えだ。生産量は公開していない。

「EUVペリクル」。岩国大竹工場で商業生産を開始した
「EUVペリクル」。岩国大竹工場で商業生産を開始した

 同社は2019年、半導体リソグラフィー分野で世界ナンバーワンのオランダASML社から、EUVペリクル事業のライセンス契約を受け、その設計と技術に基づき同製品の生産設備を岩国大竹工場(山口県和木町)に新設した。

 データ通信を超高速化する第5世代移動通信システム(5G)の導入により、スマートフォンの一層の高機能化と半導体の高性能化が求められる中、先端デバイスに使われる半導体では、回路線幅7㎚以下の超微細化が必要なことから、それに伴い超短波長であるEUV露光技術の採用が本格的に拡大している。

EUV露光機のイメージ図
EUV露光機のイメージ図

 三井化学は、ICT分野を成長市場としてフォーカスし強化策に注力、モビリティ、ヘルスケア、フード&パッケージングに続く第4の成長領域の柱を目指し取り組みを加速させている。今後もICT分野関連製品群への積極投資を展開していくと見られる。

 三井化学は、露光工程の防塵カバー「ペリクル」を1984年に発売して以来、半導体の微細化に合わせたペリクルの改良と製品品質の向上に努めてきた。ペリクルで培った異物管理などの生産ノウハウがEUVペリクルの生産にも生かされており、引き続きEUV露光機の進化に合わせ、同製品の技術改良・革新をASML社と共に取り組んでいく。

BASF 気候中立目標を設定し技術開発と投資を推進

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2021年5月26日

 BASFはこのほど、2050年までにCO2排出量実質ゼロ(ネット・ゼロ)、2030年までにCO2排出量の2018年比25%削減、とする気候目標を設定した。今後の成長と中国に建設中の統合生産拠点も含まれており、既存事業に限ると10年で半減させることになる。なお、2018年のグループ総排出量(CO2換算)は2190万t、1990年はその約2倍で、2030年排出目標は1990年比約60%の削減で、EUの「55%削減」目標を上回っている。

 目標達成に向け2025年までに最大10億ユーロ、2030年までにさらに20~30億ユーロを投資する計画だ。最初の一歩は、再生可能エネルギーの利用に注力する。化石燃料は電力で代替するが、技術の大半はパートナーと協力して開拓中で、大規模スケールアップの実現は2030年以降になる。

 一方、電力需要は急増し2035年にはグループ全体で現在の3倍以上になる見込みだ。それまで体系的なプロセス改善、自然エネルギー源への移行を進め、風力発電への投資も計画している。同時に、CO2フリーの化学品製造プロセスの開発・展開を加速する。

 最重要技術の1つがオレフィンなどの基礎化学品製造用の電気加熱式スチームクラッカーで、パイロットプラントの運転開始予定は2023年としている。同じく重要原料の水素の製造は、シーメンス・エナジーと共同で出力50㎿のプロトン交換膜水電解システムを検討するほか、消費電力が約5分の1で済む天然ガス由来のメタン熱分解法を開発中だ。

 エネルギー効率の向上では、廃熱で蒸気を作る電気ヒートポンプによる工場全体の廃熱回収を、シーメンス・エナジーと協力して進めている。また、北海での最大規模の炭素回収・貯蔵プロジェクトへの投資も計画しており、基礎化学品製造に伴う年間100万t超のCO2排出量削減が見込まれる。

 しかし、これら新技術のほとんどは、現在のフレームワーク条件では競争力がなく、経済的成功のためにはバリューチェーン全体で価格上昇を受容することが必要。そのために、産業界と政策立案者が協力して成果を重視した前向きな規制を導入し、国際競争力を維持する必要がある、としている。

三菱ケミカルとJSW 世界最大級のGaN基盤製造設備竣工

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2021年5月26日

 三菱ケミカルと日本製鋼所(JSW)はこのほど、窒化ガリウム(GaN)単結晶基板の量産に向けた実証設備をJSW M&E室蘭製作所構内に共同で竣工したと発表した。今年度にかけて4インチのGaN単結晶基板の量産に向けた実証実験を行い、2022年度初頭からの市場供給開始を目指していく。

パイロット設備で育成した各種 GaN 結晶
パイロット設備で育成した各種 GaN 結晶

 GaNは、高効率・高耐久性により超高効率デバイスの実現を可能にする素材。大幅な消費電力の削減によりCO2排出量も削減できることから、環境負荷の低減が期待されている。GaNは青色LED用途のみならず、①高出力・高輝度光源、②情報通信、③パワー半導体、といった用途での応用が期待されている。

 JSWは、人工水晶製造用のオートクレーブ(圧力容器)を製造し、日本国内のシェアは100%で累計415基、海外も24基の実績がある。またグループ会社で30年間にわたり人工水晶を製造し、主に国内のカメラメーカーに多くの光学部品を納入している。

 一方、三菱ケミカルは、気相成長法(HVPE)と化合物半導体の加工技術を用いた高品質なGaN基板の製造技術を保有。より高い生産性を目指し独自の液相成長法(SCAAT)によるGaN基板の開発を進めている。

 両社は、東北大学と共同で大口径・高品質・低コストGaN基板の製造技術の開発を進めてきた。さらに名古屋大学・天野研究室とも結晶成長や特性評価等の共同研究体制を構築している。2017年には、室蘭製作所内に建設したパイロット設備において、透明で結晶欠陥が極めて少ないGaN基板の低コスト製造技術の開発に成功し、4インチサイズの均一な結晶成長も確認した。

 新たに開発した製造プロセス「SCAAT-LP」は、従来の約半分の圧力条件となる低圧酸性アモノサーマル技術を利用した、将来の量産に向けた製造技術となる。今回、導入する大型設備では、「SCAAT-LP」を用いて4インチのGaN基板の量産に向けた実証実験を行う。この結果を踏まえ、GaN基板の安定供給体制を構築するとともに、近年需要が増加するパワーデバイス用途に適用可能な6インチ基板の開発にも取り組んでいく。GaN基板は、パワーデバイスをはじめ、光エネルギー、電波エネルギーに関する様々な用途への応用が期待される。

 両社は、未来の社会を支える材料として重要な位置づけをもつ高品質なGaN基板の供給を通じ、燃費・発電効率向上といったエネルギーミニマム社会への貢献を目指していく。

 

日鉄ケミカル&マテリアルなど 海藻を製鉄で多角的利用、技術開発に着手

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2021年5月26日

 日鉄ケミカル&マテリアル、日本製鉄、金属系材料研究開発センターは25日、共同で、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ブルーカーボン(海洋生態系における炭素貯留)追及を目指したサプライチェーン構築に係る技術開発」に採択されたと発表した。マリンバイオマス(海藻)の多角的製鉄利用に資する技術開発に着手する。

 昨今、気候変動対策としてCO2削減の重要度が増しており、カーボンニュートラル(CN)社会の実現は世界的な潮流となっている。日本でも昨年12月に「2050年CN、脱炭素社会の実現を目指す」ことが閣議決定され、革新的技術の実用化を見据えた研究開発を加速度的に促進する方針が示された。具体的な戦略として、経済産業省から「革新的環境イノベーション戦略」が提示され、その中に「ブルーカーボンの追及」が明記されている。こうした中、NEDOは、ブルーカーボン追及を目指したサプライチェーン構築に係る技術開発事業への取り組みを開始し、3者は技術開発事業の委託先として採択された。

 日本は古くから海藻養殖が盛んであり、世界トップレベルの技術・ノウハウを保有している。また、長い海岸線に恵まれていることからもブルーカーボンに関する技術開発は温暖化対策・産業育成の両面で有効と考えられている。こうした背景を受け、同事業では臨海製鉄所という地の利を生かして、CN材であるマリンバイオマス(海藻)を生産し、それを製鉄プロセスの中で利用する「バイオマスの地産地消」といった新たなサプライチェーンの構築を目指していく。

 マリンバイオマスの利用については、製鉄プロセスで利用される炭素源(炭材や炭素材料)としての活用を検討。生産については、製鉄プロセスで発生する鉄鋼スラグを利用した藻場造成で培った技術を活かして、海藻の積極的な育種に取り組む。マリンバイオマスのCN材としての検討は、世界に例がない研究となる。

 同事業では、こうした要素技術の開発とともに、全体の経済性やCO2削減効果を含めた事業性検討を行い、実証段階への道筋を作ることを目指す。

三井化学 高ガス透過素材にシール性付与し市場開発へ

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2021年5月26日

 三井化学は25日、新素材フィルム「ヒートシーラブル高ガス透過フィルム」(開発品)の市場開発を開始したと発表した。同フィルムは、特定のガスを選択的に高く透過する性能に加え、他の樹脂製フィルムと比較して低温でヒートシール性を発現する特長も併せもつ。

開発品と各フィルムとのガス透過係数比較
開発品と各フィルムとのガス透過係数比較

 同社のデータによれば、ポリエチレン製のフィルムと比較して、ガス透過係数は二酸化炭素で約4倍、酸素で約5倍、ヒートシール性能は120℃で約2倍の強度を示している。これまでにも選択的に特定のガスを高く透過するフィルムはあったものの、ヒートシールが困難なことから用途が限られるという課題があった。「ヒートシーラブル高ガス透過フィルム」は、それらの課題を解決し、パッケージ加工が容易になったことで、用途拡大が期待されている。

ヒートシール性能の温度依存性比較

 三井化学では、液体や菌などは通さずに気体のみを透過する特性から、細胞培養キットの保護用途、医療用器具のパッケージ、特定ガスの分離膜といった産業分野などの用途を想定している。

NIMSなど 低価格、高性能の熱電変換材料を開発

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2021年5月25日

 物質・材料研究機構(NIMS)と産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、希少元素を含まず低熱伝導率と高電荷移動度を両立した高効率の熱電材料の開発に成功した。低価格の熱電モジュールの実用化と普及に道を拓き、省エネ効果に加え、Society5.0の実現に必要な無数のセンサーの自立電源やモバイル発電機など幅広い分野での応用が期待される。

 一次エネルギーの多くは熱として排出され、その約90%は320℃以下の低温域だ。廃熱を電気に変換する熱電変換材料の効率には、熱伝導率を低く、電気伝導率を高くする必要があるが、電気伝導率が高いと熱伝導率も高くなる。Bi2Te3系が低温域で最高の熱電変換効率を示すが、主成分のTeが希少元素であることが普及を妨げている。

 今回、n型Mg3Sb2系材料に微量の銅原子を添加することで、熱伝導率低減と電気伝導率向上を両立できた。原子間隙に入った銅原子が熱伝導を司るフォノンの速度を低減し、熱伝導率を低減。また、粒界に入った銅原子が電子の散乱を抑え、高電荷移動度を向上。これにより、ジュール発熱によるエネルギー損失を抑え利用熱の散逸を抑止し、熱伝導率の低い多結晶体でありながら単結晶材料並みの電気伝導率、すなわち高熱伝導率を実現した。

 同様に高性能化したp型材料と組み合わせて熱電モジュールを作製。室温と320℃の温度差での熱電変換効率は、最高性能のBi2Te3系材料に匹敵する7.3%を示した。この材料の理論効率は約11%であり、さらなる高効率化も見込まれる。また、今回発見したフォノン散乱効果や粒界制御効果は、他の熱電材料の高性能化へ活用することも期待される。

 なお本研究は、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業大規模プロジェクト型技術テーマ「センサ用独立電源として活用可能な革新的熱電変換技術」の支援を受けて実施された。今後、低価格で広範囲に適用可能な熱電モジュールの実用化を進めるとともに、他の温度域にも活用できる高性能熱電材料の研究開発も引き続き推進していく。