産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、筑波大学と共同でギ酸を水素に連続的に高効率で変換するフロー式プロセスを開発し、得られた水素による安定した発電を実証した。
水素社会の実現に向け、効率的な水素の
2023年11月1日
2023年4月11日
東レと筑波大学はこのほど、心房細動の再発を検出するための診断ツールとして、繊維技術を使用したドライ電極を備えた医療用スマートウェア(着衣型心電計)による2週間の心電図測定の有用性を検証した。
心房細動は全死亡や心血管死、 “東レ スマートウェア心電図測定、心房細動検出率を向上” の続きを読む
2023年3月20日
2022年10月5日
2021年7月28日
産業技術総合研究所(産総研)、筑波大学、高エネルギー加速器研究機構、九州大学の研究チームはこのほど、次世代有機LED材料の電子の動きを直接観察することに成功し、発光効率低下の原因を解明した。
有機LED(OLED)は、外部からの電気刺激により励起状態となった分子中の電子が元の状態(基底状態)に戻る際に発する光を利用したデバイスだ。しかし、最も多く生成する励起三重項状態は発光しにくい性質があり、この状態をどのように発光させるかが大きな課題である。
OLED用発光材料の1つである熱活性型遅延蛍光(TADF)材料は、巧みな分子設計によりレアメタルを使用することなく、励起三重項状態を熱エネルギーによって励起一重項状態に遷移させることが可能で、内部量子効率(励起電子数に対する生成光子数)は理論限界である100%に達する。薄膜構造の制御により外部量子効率(材料内生成光子数に対する外部放出光子数)の向上が見込まれることから、単一膜デバイスが注目されているが、単一膜の励起三重項状態が発光しにくい理由は解明されていない。TADF材料の発光は、励起状態の電子の動きに支配される。
今回、改良した時間分解光電子顕微鏡を使い、TADF薄膜のTADF発光過程の電子の動きを直接観察することが可能になり、励起電子の生成・発光による失活・無輻射失活過程までの電子の動きを捉えることに成功。その結果、励起電子により生成した励起子が自発的に解離して長寿命の電子を生成し、TADFの発光効率を低下させていることを突き止めた。この励起子解離の過程と量を捉えられる観察手法は、TADF薄膜の光物性の系統的な解明に資するものだ。これにより、まだ十分な理解が得られていないTADF発光過程の詳細が明らかになり、TADF薄膜材料を利用した超高効率OLEDの開発推進が期待される。
2021年6月10日
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はこのほど、航空機エンジン用国産材料の競争力強化に向け、革新的な合金開発と材料データベースの構築を行う2件の研究開発事業に着手した。
CO2排出量削減に向け、低燃費・高性能の航空機が求められている。その中で、航空機エンジンには高い安全性や品質保証体系、航空当局の認証管理などが要求されることから、欧米企業を中心とした寡占状態にある。日本の航空機エンジン産業は国際共同開発への参画を通じて事業規模を拡大してきたが、さらなる拡大には技術革新による優位性を維持し、設計段階から開発に携わる戦略的パートナーとなることが不可欠だ。
今回、航空機エンジン用材料開発のための「革新的合金探索手法の開発」と、国産材料の競争力強化のための「航空機エンジン用評価システム基盤整備」事業に着手。高温・高圧環境に耐え、軽量で耐熱性、耐摩耗性、熱伝導性、導電性などに優れる合金の開発には、金属元素の組み合わせとプロセス条件決定のための膨大な実験が必要で、天文学的な時間がかかる。そこで合金探索に必要な良質のデータを大量かつ高速に収集し、マテリアルズ・インフォマティクスによるデータ駆動型合金探索手法を開発し、航空機エンジンへの適用可能性を模索する。
一方、航空機エンジンには材料段階から厳しい認証基準などがある。国産材料の競争力を高め、材料データを効率的に得るために、関連企業や研究機関などと連携してデータベースを整備し、それに基づいて実際に部材を製造し性能評価試験などを行う。
参加企業・機関はJX金属、IHI、川崎重工業、三菱重工航空エンジン、本田技術研究所、三菱パワー、産業技術総合研究所、金属系材料研究開発センター、物質・材料研究機構、筑波大学で、プロジェックトリーダーは東京大学大学院工学系研究科の榎学教授が務める。新合金を開発し、認証取得に必要なデータベースを構築し、航空機エンジンへの適用と日本の航空機エンジン産業の国際競争力強化を目指す。新合金による軽量化とエンジン高効率化による燃費改善で、2040年に約93万tのCO2排出量削減が期待される。
2020年11月26日
東京大学、筑波大学、北里大学と産業技術総合研究所はこのほど、真空蒸着法と印刷法で良質な薄膜を再現性よく成膜でき、優れた大気安定性と電子移動度をもつn型有機半導体材料を開発したと発表した。また固いフェニル部位と柔らかいアルキル部位からなるフェニルアルキル側鎖が、分子集合体構造形成に重要であることを明らかにした。
パイ電子系分子の有機半導体は一般に正孔が伝導しやすく、その多くが正孔輸送性(p型)で正孔移動度がアモルファスシリコンより一桁以上高い十㎠/V・s級のものもある。それに匹敵する電子移動度とプロセス適合性、大気安定性をもつ電子輸送性(n型)有機半導体の開発が求められている。
同グループはBQQDI(ベンゾイソキノリノキノリンジイミド)骨格を開発し、フェニルエチル側鎖をもつPhC2-BQQDIが、高電子移動度・大気安定な単結晶薄膜を印刷法で成膜できることを見出だした。
今回、側鎖アルキル部位の柔軟性に注目し、アルキル基の異なるPhCn-BQQDI(n=1~3)の集合構造と半導体特性を調べた。アルキル部位を選択することで印刷法でも真空蒸着法でも優れたデバイス性能と高い大気安定性が得られた。印刷法ではPhC2-BQQDIが最高の半導体性能を示し、電子移動度の計算予測と一致した。
一方、真空蒸着法ではPhC3-BQQDIがより優れた電子移動度とn型有機半導体として世界最小クラスの有機半導体/金属電極の接触抵抗を示した。X線回折から集合構造はn数に依存し、良質で純粋な構造(単結晶)ほど接触抵抗が低いことが分かった。
分子動力学計算による分子の揺らぎは、バルク単結晶中ではnが大きいほど大きく、薄膜中ではnが小さいと極端に大きい。印刷法(バルク状態)では揺らぎが小さいほど単結晶化、真空蒸着法(薄膜)では基板との相互作用を受けるため揺らぎが大きいものほど多形化すると考えられる。
パイ電子共役骨格とフェニルアルキル側鎖との協同的挙動が、基板上での集合構造形成に重要で、今後の有機半導体材料開発の重要な分子設計指針となることが期待される。なおPhC2‐BQQDI試薬は富士フイルム和光純薬から販売中で、PhC3‐BQQDI試薬も今年度内に販売予定だ。
2020年9月11日
東京大学、富山高等専門学校、筑波大学、北里大学と産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、特異な構造相転移挙動により高溶解性・高移動度・環境ストレス耐性をもち、高製造プロセス適性かつ高性能な有機半導体を開発したと発表した。その成果は、アメリカ化学会(ACS)学会誌のオンライン速報版で公開された。
有機半導体は低分子間力の固体であり軽量・柔軟で、印刷で製造できるため低生産コスト・低環境負荷である。性能も市販アモルファスシリコンより1桁以上高い10㎠/Vs級の移動度をもち、次世代のプリンテッド・フレキシブルエレクトロニクス材料として期待される。しかし、高性能有機半導体分子の多くは有機溶媒への溶解性が乏しく、製造プロセスが限られることが課題であった。
同研究グループが開発したデシル置換セレン架橋V字型分子C10-DNS-VWは、製造プロセス適性と高性能を両立している。SPring-8による構造解析で、高溶解性だが低電荷輸送性の1次元集合体構造と、高電荷輸送性だが低溶解性の2次元集合体構造の2種類の集合体構造を形成し、加熱処理により1次元から2次元に、良溶媒存在下では2次元から1次元へ相転移することが分かった。
また分子動力学計算では基板表面では2次元集合体構造は1次元構造よりも安定であり、蒸着法や塗布結晶化法などの製造プロセスによらず、薄膜作製時に2次元構造が再現性よく得られた。一般的な芳香族溶媒に対して1重量%以上溶解するため、様々な印刷プロセスに適用できる。塗布プロセスで得られた単結晶薄膜を用いたトランジスタは、世界最高レベルの11㎠/Vsの移動度、良好な電荷注入特性、高環境ストレス耐性を示した。
今回開発のC10-DNS-VWからなる有機半導体は、蒸着法や印刷法などの各種製造プロセスへの適合性が高い。電子タグやマルチセンサーなど各種ハイエンドデバイス開発を加速し、次世代プリンテッド・フレキシブルエレクトロニクス分野の起爆材料となることが期待される。
2020年5月25日
産業技術総合研究所(産総研)は、東京大学、筑波大学、北里大学と産総研・東大先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリが、高信頼性かつ高電荷移動度、大気、熱、バイアス(動作電圧)ストレス耐性を併せ持ち実用に耐えうる塗布型n型半導体材料の開発に世界で初めて成功した。
この材料は、新しい分子設計指針に基づく電子輸送性BQQDI(ベンゾイソキノリノキノリンジイミド)骨格を持つ塗布型n型有機半導体材料で、IoT社会のキーデバイスである電子タグやマルチセンサーの実用化を加速させることが期待される。
現在汎用される主としてシリコン系の無機半導体は、電荷移動速度は高いが、重く、硬く、製造にも300~1000℃の高温が必要となる。一方、軽量かつ柔軟で、印刷による低温作製によりコストと環境負荷を大幅に軽減した有機系半導体が注目され、すでに無機半導体のアモルファスシリコンより1桁高い10㎠/V・s級の正孔移動度を持ち、実用に耐える環境ストレス耐性を示す印刷可能なp型半導体が報告されている。多種多様なハイエンドデバイス開発のためには、p型と同程度の安定性、プロセス性およびデバイス性能を併せ持つn型有機半導体が求められていた。
こうした中、今回、ペリレンジイミド骨格に窒素を導入したBQQDI骨格を持つ有機分子が、大気下で安定なn型有機半導体の母骨格となることを発見。特に、フェネチル基を導入したPhC2‐BQQDIの単結晶が三㎠/V・sの電子移動度および高い信頼性因子を示すことを見出だした。大気下で6カ月以上安定にデバイスを駆動することが明らかとなり、熱ストレスやバイアスストレスに対しても極めて高いデバイス安定性が実証された。
さらに、この優れた半導体特性が、無機半導体同様のバンド伝導機構に基づくことも実験的に証明された。分子力学計算と伝導計算からも、窒素を介した多点水素結合が分子間振動を抑制し電子移動度を向上させていることが明らかとなった。また、CMOS論理回路に応用することにも成功。
BQQDI骨格は性能・耐性ともに前例のないn型有機半導体で、次世代エレクトロニクスの研究と産業の戦略材料になるだけにとどまらず、曲がるディスプレー、電子タグ、マルチセンサー、熱電変換素子、薄膜太陽電池などの開発への貢献が期待できる。
なお、PhC2‐BQQDIは、来月上旬から富士フイルム和光純薬から試薬として販売される予定。
2019年12月3日
東京工業大学と筑波大学、高知工科大学、東京大学物性研究所の共同研究グループは、ホウ素と水素の組成比が1対1のホウ化水素シートが、室温・大気圧という非常に穏やかな条件下で光照射のみで水素を放出することを見出だしたと英科学誌に発表した。
これを応用することで爆発性のある水素の運搬を、高温や高圧を要する従来の水素キャリア(担体)よりもはるかに安全に達成することが期待される。今回はさらに、計算科学による電子構造の観点から、光照射による水素放出のメカニズムを解明することにも成功した。
同研究では、第一原理計算に基づく仮設通り、ホウ化水素シートへの紫外線の照射で水素が生成されることを確認。ホウ化水素シートの質量の8%にあたる水素を放出した。従来の水素吸蔵合金の質量水素密度は、高いものでも2%程度。また、シクロメチルヘキサンのような有機ハイドライドも有望な水素キャリアとして知られているが、その質量水素密度は6.2%で、水素放出には300℃以上の加熱が必要だった。
ホウ化水素シートはもともと「ボロフェン」という通称名で理論的に存在が予測されていた、原子一層~数層分の厚さからなる二次元物質で、2017年9月に同研究グループが初めて室温・大気圧下での合成に成功。
今回、同研究グループらが報告したホウ化水素シートは、軽元素のホウ素と水素からなり、その質量水素密度は8.5%と極めて高い。既往の水素キャリアと比べて極めて大量の水素を、光照射という極めて簡便な操作で放出できることから、現行の燃料電池車に搭載される高圧水素タンクに代わる、安全・軽量・簡便なポータブル水素キャリアとしての応用が期待されている。
なお同研究成果は、10月25日付の『Nature Communications』に掲載された。