JSR 東大理物と包括連携、新技術・新材料の創出を図る

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2020年5月22日

 JSRは21日、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻(東大理物)と包括的連携に合意し、4月1日より、共同研究を開始したと発表した。東大理物は包括連携を通して、社会に深く浸透した様々な材料の機能の理解を深め、その探究を通して普遍的真理と新たな学問領域を見出だしていく。

 JSRはその成果として、アカデミアと産業界の融合による、新たな高機能材料を社会に導出する。また、包括連携にはフェローシップも含まれており、このような取り組みは東大理物130年以上、JSR60年以上の歴史の中で、互いに初の試みとなる。

 具体的な取り組みとして、①東京大学本郷キャンパス理学部1号館に協創オフィス「JSR・東京大学協創拠点CURIE」を設置。名称のCURIE(キュリー)は、物理学賞と化学賞、2度のノーベル賞を受賞したマリ・キュリー氏の名にちなみ、物理と化学の融合による大きな研究開発成果の創出を願い命名した。加えて、研究開発で重要な「好奇心(キュリオシティ)」、「知性(インテリジェンス)」および「感性(エモーション)」の意味も包含している。

 ②世界に羽ばたく人材育成のため、物理学専攻の博士課程学生を対象とした給付型フェローシップである、「JSRフェローシップ」を創設。今後ますます重要になる、理論、実験に限らず幅広い物理学を通して、学術界、産業界を発展させうる人材を支援することを目的としている。

 ③サイエンスと産業技術の融合による新技術・新材料の創出。JSRは製品の機能発現原理を深く理解し、サイエンスに基づく、物理と化学の融合により、非常に高い差別化性能を持つ製品開発を推進していく。さらに、東大理物は、この連携の中で多様な現象の探究と物理的視点に立った学理追求を行うことで、次世代の科学と応用の基盤となる成果を世界に発信していく。

 JSRの川橋信夫社長兼COO兼CTOは「当社製品のさらなる性能向上には、自然科学に基づいた原理原則を理解することの必要性を認識していた。東大理物は、素粒子から光、物性、宇宙、さらには、生物まで、あらゆる分野を網羅する、日本最大かつ世界でも最大規模の物理学研究の拠点であり、JSR製品の機能を飛躍的に向上させるサイエンスを共に構築できる最適なパートナーと考えている」とコメント。

 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻長の常行真司教授は「包括連携を通じて、材料分野だけでなく、幅広い科学分野で成果を創出し、さらには、基礎研究だけでなく社会の課題解決にも意欲的な人材の育成と輩出を目指す」と述べている。

住友化学、クラレ、旭化成建材の3社 日化協技術賞を受賞

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2020年5月21日

 日本化学工業協会はこのほど、優れた化学技術の開発や工業化によって化学産業ならびに経済社会の発展に寄与した事業者を表彰する「日化協技術賞」を発表。

 総合賞に住友化学の「低環境負荷・併産品フリーのクメン法プロピレンオキサイド(PO)製造プロセスの開発と工業化」、技術特別賞にクラレの「プラスチックシンチレーションファイバ(PSF)の開発と工業化」、環境技術賞に旭化成建材の「高性能発泡プラスチック断熱材「ネオマフォーム」「ネオマゼウス」の開発」を選定した。

 住友化学のPO製造技術は、クメンを循環利用し、副生物が実質的に水のみでPOだけを生産する世界で初めて工業化されたクメン法PO単産プロセス。独自開発のエポキシ化触媒と組み合わせることで、非常に高いPO収率と分離精製の省エネ化を達成し、優れた運転安定性を実現できるという特長が評価され、受賞に至った。

 クラレのPSFは、独自製法で開発したプラスチック製光ファイバー。コア(内側)は蛍光剤入りのポリスチレン樹脂、クラッド(外側)はメタクリル系樹脂の多重構造で、放射線が当たると発光する性質を持つ。高い発光量、透明性、優れた線径精度は世界中の研究者に認められ、放射線検出用素材のデファクトスタンダードとなっている。今回、PSFの技術開発と製品性能、世界的な研究機関への安定供給実績、民生用途への拡大などが評価された。

 旭化成建材の高性能発泡プラスチック断熱材は、フロン系ガス不使用や断熱性を長時間維持するといった課題を克服した製品。旭化成建材は、フェノール樹脂組成の抜本見直しを行い、フェノール樹脂発泡体の脆さ改善と強度の大幅向上を達成。さらに独自の発泡ガス組成や添加剤などの最適化により、革新的なフェノールフォーム発泡成形技術の開発に成功した。断熱材の開発が、環境負荷低減に顕著な効果を持ち、わが国の化学技術の進歩と産業の発展に大きく寄与するものとして評価された。

 

東レ RO膜の高性能化に寄与する重要知見を獲得

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2020年5月19日

 東レはこのほど、理化学研究所の開拓研究本部前田バイオ工学研究室・杉田理論分子科学研究室との共同研究を通し、逆浸透膜(RO膜)の透水・物質除去機能の向上に寄与する重要知見を獲得した。

 透水・物質除去機能を担うポリアミド(PA)分子同士が形成する相互作用のネットワークの強さと、水分子の拡散挙動の関係を明らかにしている。東レは、解析結果を活用し、かん水淡水化、廃水再利用および廃水をゼロ化するZLD(Zero Liquid Discharge)向けの革新省エネルギーRO膜を始めとした、先端分離材料の開発を加速していく方針だ。

 世界では、地球規模の水不足・水質汚濁などの問題が深刻化しつつあり、安全な水の確保はSDGsの重要なテーマ。RO膜を用いた浄水技術は、持続可能な水資源を確保するための技術として、世界各地での採用が進んでいる。しかし、従来のRO膜では、造水量を高めると水質が低下してしまうトレードオフの関係があるため、高品質の水を得るための除去性能と省エネルギーを実現する透水性能の向上には、RO膜中での水分子の拡散挙動の詳細解明が望まれていた。

 研究グループは、RO膜のPA分子構造でのPA分子同士および水分子との相互作用を解析し、PA分子集合体中の水分子の集合状態と運動性に及ぼす影響の解明に成功。その結果、PA分子同士が形成する相互作用のネットワークが疎なほど、水分子同士の相互作用が促され、運動性の高い水分子の集合体が形成されることを確認した。

 東レはすでに東京大学との共同研究によりPA分子集合体中のPA分子と相互作用して動きにくい「束縛水」と、運動性の高い「自由水」の関係性を解明しており、自由水は束縛水と比べて10倍以上速く拡散することを見出だしている。これらの研究成果を応用し、微細な細孔の構造とその中での水の動きを精密に制御できれば、透水・除去性能に優れた高性能RO膜が得られる。

 なお、今回の研究成果は、科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」の支援を受け、「世界の豊かな生活環境と地球規模の持続可能性に貢献するアクア・イノベーション拠点」の事業・研究プロジェクトによって得られた。

 東レは今後も、地球上の誰もが十分にきれいな水を手に入れられる社会の実現に寄与するため、産学官の連携により、世界各地への社会実装を目指して研究・技術開発を推進していく。

 

日化協 淡輪会長「化学がグローバルな社会課題を解決」

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2020年5月18日

 日本化学工業協会は15日、定例となる淡輪敏会長(三井化学会長)のオンラインによる会見を開催した。淡輪会長は今月で2年の任期を満了するため今回が最後の会見となる。

 淡輪会長は、「新型コロナウイルスの感染拡大は、生活や企業活動に大きな影響を及ぼしている。化学産業にとって最も重要な課題は工場の安全操業を維持することであり、従業員の感染防止に最大限努めている。

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産総研 血管をもつ生きた3次元組織の作製技術を開発

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2020年5月13日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、細胞分子工学研究部門ステムセルバイオテクノロジー研究グループが、実際の臓器と似た構造の血管をもつ組織を人工的に作る技術を開発したと発表した。

今回用いた組織培養デバイスと作製した血管を持つ人工組織
今回用いた組織培養デバイスと作製した血管を持つ人工組織

 細胞と組織ゲルを組み合わせてヒトの臓器や腫瘍を模倣した人工組織「3次元組織」は、医薬品開発や再生医療、がん研究といった分野で、医薬品の検査、失った臓器・組織の置き換え、抗がん剤の試験などへの応用が期待されている。

 しかし、3次元組織に動脈のように送液できる主血管や、そこから分岐する毛細血管を作ることは困難であり、失った臓器・組織の治療のために効率よく酸素と栄養を供給したり、医薬品の試験のために組織内部に薬剤を流し込んだりすることは難しかった。

 今回開発した技術は、組織培養デバイスの中で、組織や血管の元になる細胞(臓器の機能を担う実質細胞、血管の元になる血管内皮細胞、血管の形成を助ける間葉系幹細胞)とコラーゲン(組織ゲル)を混ぜ合わせて培養することにより、主血管と毛細血管をもつ3次元組織を作製する。この組織は、培養デバイスで培養液を流すことで、1週間程度維持することができた。

 血管に培養液を流すことで、酸素や栄養、薬剤の供給が可能となり、材料とする細胞やデバイスの形・大きさを変えることで、様々な組織(臓器や腫瘍)へ応用することができ、創薬や再生医療といった幅広い分野への貢献が期待される。

 今後は、より大きな組織(臓器)の作製や、がんモデルでの抗がん剤の評価、iPs細胞由来の細胞を用いた組織の大量生産・高機能化、他の細胞を用いての脳や膵臓、小腸の作製を行う。また、培養デバイスにも改良を加え、安定的な長期間の組織培養や、様々な形の三次元組織の構築を目指す考えだ。

 なお、今回の開発は、日本学術振興会の助成金と、日本医療研究開発機構の委託事業「防御シールドを形成し、免疫監視を回避するがん微小環境の理解と医療シーズへの展開(2018~20年度)」による支援を受けて行った。

ダイセル 新たな植物由来プラスチックをベンチャーと共同開発へ

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2020年5月13日

 ダイセルはこのほど、事業革新パートナーズ(BIPC:神奈川県川崎市)と、新たな植物由来プラスチックの共同開発を開始したと発表した。

 ダイセルは、植物由来セルロースを原料とする「酢酸セルロース」などのセルロース由来バイオプラスチックを長きにわたり製造。酢酸セルロースはグローバルに展開しており、繊維や液晶保護用などのフィルム、化粧品などの原料として利用されている。

 一方、BIPCは、膨大な資源量がありながら活用例の非常に少ない「ヘミセルロース」を原料とするバイオプラの開発に、世界で初めて成功したベンチャー企業。同社はこのバイオプラを「HEMIX」として2019年から販売しており、優れた海洋生分解性や流動性を持つ素材として、独自の化学合成技術と様々なプラスチック材料との混合技術を組み合わせ、新たな材料開発を積極的に進めている。

 セルロース由来バイオプラとヘミセルロース由来バイオプラは、いずれも植物由来で、海洋を含めた生分解性を持つなど環境に負荷を与えない自然回帰型のプラスチック。

 ダイセルとBIPCは、両社の様々な知見や技術、ネットワークを活用して互いの植物由来プラを組み合わせ、植物本来の多様な機能や特徴を引き出した新たなプラスチックの開発を目指している。

 現在は、樹木の特徴である強靭性を最大限に発揮しながらも、成形性や光学特性を兼ね備えた海洋生分解性プラスチックの開発を推進中だ。今後は、「100%植物由来」の新素材開発に挑戦し、ひいては地球環境問題の解決への貢献を目指していく考えだ。

 

北海道大学 AIプラットフォームの開発を成功、触媒設計を加速

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2020年5月8日

 北海道大学はこのほど、触媒データをオープンに共有でき、プログラミングを必要としない機械学習・データ可視化を可能とした触媒インフォマティクス・プラットフォーム「Catalyst Aquisition by Data Science(CADS)」の開発に成功し、ウェブ上で公開を開始した。近年、AIを適用した触媒開発が活発化しており、触媒インフォマティクスと呼ばれる新規分野として、学術界・産業界から注目されている。

 触媒インフォマティクスは多くの技術の融合分野で専門性が高い上、高度なプログラミング技術を必要とすること、各々の触媒研究者の所有するデータを統合的に蓄積・共有するデータセンターが存在しないことが、触媒インフォマティクスを推進する上で大きな障害であった。

 今回開発されたプラットフォームによって、研究者が持つデータの可視化や機械学習による触媒設計が可能となった。プログラミングやデータ科学の事前知識がなくても、ウェブブラウザ上での簡単なマウス操作で、触媒インフォマティクスを用いた触媒設計ができる。

 また、各自の触媒データをアップロードすることにより、世界の触媒研究者と情報共有でき、触媒データセンターとしての役割も果たせる。実際にOCM(メタン酸化カップリング)触媒データをCADSで分析し、インタラクティブ可視化などによって、OCMの反応収率に影響する要因の切り口を見いだした。今後CADSの普及により、データ駆動型の効率的かつ直接的な触媒設計が加速すると期待される。

 なお、同研究は、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業CREST研究領域「多様な天然炭素資源の活用に資する革新的触媒と創出技術」研究課題「実験・計算・データ科学の統合によるメタン変換触媒の探索・発見と反応機構の解明・制御」の支援を受けて実施された。また、研究成果は4月に「Reaction Chemistry & Engineering」誌にオンライン公開された。

DIC 産官学連携の接着技術開発プロジェクトに参画

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2020年5月7日

 DICはこのほど、科学技術振興機構(JST)が推進する未来社会創造事業の研究プロジェクト「Society5.0の実現をもたらす革新的接着技術の開発」(CREAプロジェクト)に今年度より参画したと発表した。

 同プロジェクトは、電気自動車(EV)や自動走行車など次世代モビリティの軽量化や部材リサイクルに貢献する、「革新的な接着技術」の研究開発を目的としている。九州大学の田中敬二教授らの研究グループが提案し、2018年度に文部科学省から示された大規模プロジェクト型の技術テーマの1つ。高分子科学、先端計測および数理科学を専門とする研究者と連携企業の連合体が、接着現象に関連する界面の学理からものづくりまで一貫して研究開発を行うもので、2022年には実証実験フェーズへの移行を目指す。

 Society5.0は、仮想と現実の空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会のことで、第5期科学技術基本計画により、日本のあるべき未来社会の姿として提唱されたもの。その中に自動車産業の変革(CASE:つながる、自動運転、共有、電動)があり、「革新的な接着技術」は、それを実現するための重要な基盤技術の1つである。

 人命に関わるモビリティの接着技術には、強度や耐久性の保証と、それらに基づいた健全性や信頼性が求められる。共同研究では、モビリティの構造接着で重要な異種材料接合の高耐熱・高耐久機能と、廃棄の際に従来以上に容易に解体できる資源リサイクルに適した易解体性を兼備したエポキシ系接着樹脂の開発を目指す。

 DICグループは、新たなモビリティ社会に貢献するリサイクル性を兼備した複合材料の開発を進めることで、循環型社会の実現とSociety5.0の実現に貢献していく。

住友化学と東北大学 アルミ負極の劣化回避、新しい機構を解明

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2020年5月7日

 住友化学はこのほど、東北大学金属材料研究所の李弘毅特任助教、市坪哲教授をはじめとする研究グループと共同で、リチウムイオン二次電池(LIB)の負極の材料を高純度アルミニウム箔のみで、充放電時に起こる巨大体積ひずみを回避するという新しい機構を解明したと発表した。両者は2019年4月より連携して、LIB高容量化のための新しい負極の研究開発を行っている。

 LIBは、リチウムイオンが正極と負極間を移動することで充放電が行われ、負極は、充電時に正極から移動してきたリチウムイオンを取り込む役割を果たしている。現在の負極は炭素系材料が主流だが、電池のさらなる高容量化のために、炭素系材料に比べて3~10倍のエネルギーを蓄えられるシリコンのほか、スズやアルミニウムなどの金属系材料の使用が期待されている。しかし、それらの材料は、大きなエネルギーを蓄えられる反面、充放電時に2~4倍も膨縮するため内部の電極構造が崩れやすい点が、実用化の課題となっていた。

 今回、両者の研究グループは、高純度アルミニウム箔の硬さを最適化することにより、課題であった充放電時の体積膨縮の制御が可能なことを見出だした。今回の解明は、東北大学金属材料研究所の物質・材料に関する科学の力と、住友化学が長年にわたり高純度アルミニウム事業で培ってきた技術の融合による成果と言える。一体型アルミニウム負極の実現により、従来のLIBに比べて、電池製造のプロセスを大幅に簡素化できることから、製造工程の環境負荷低減とともに、高容量化や軽量化、低価格化なども期待できる。また、次世代電池として注目される全固体電池にも、研究成果を適用できる可能性がある。

 両者は引き続き、一体型アルミニウム負極の実現に向けて研究開発に励み、持続可能な社会の構築に取り組んでいく考えだ。

住友化学と東北大学アルミ負荷の劣化回避