NEDOと産総研 誘電体基板の温度特性が計測可能に

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2021年9月16日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はこのほど、産業技術総合研究所(産総研)と共同で、高周波回路などに使われる金属張りの誘電体基板の誘電率と導電率の温度特性を、10G㎐~100G㎐超の超広帯域で計測する技術を確立した。幅広い温度域での低損失化が要求されるミリ波対応材料の開発を後押しするとともに、ミリ波を使う次世代高速無線通信のポスト5G.6G実現に向けた材料やデバイスの開発期間の大幅な短縮が期待される。

 今回の技術の確立に際し、両者は新たに温度制御可能な超広帯域動作の共振器を開発。この装置は、ミリ波帯での超広帯域の材料計測が可能な平衡型円板共振器を、銅板に埋め込んだヒーターと熱電対で局所加熱して温度制御するもので、恒温チャンバーや耐熱性ミリ波ケーブルなど大掛かりで高コストな装置や部材を使わずに、100G㎐超までの超広帯域特性を、室温から100℃の温度域で計測できる。誘電体基板材料の誘電率と導電率の温度特性を計測することで、材料設計・開発へのフィードバックだけでなく、計測した材料を使った回路やデバイス性能の温度依存性の推定が可能になる。

 今回、シクロオレフィンポリマーと合成石英の誘電率と、シクロオレフィンポリマー基板上に形成した金属層の導電率の温度依存性を計測しシミュレーションしたところ、シクロオレフィンポリマー基板回路の125G㎐での伝送損失(㏈/㎝)は、温度が25℃から100℃に上昇すると約18%増大することがわかった。

 今後、産総研は今回開発した材料計測技術と計算科学やプロセス技術を融合し、より良い物性値のミリ波対応材料を得るための分子構造や配合比、プロセスなどの最適化条件を予測できるように、データプラットフォームの拡充に取り組む。

NEDOなど 固体表面の高速・高分解能測定技術を開発

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2021年9月14日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はこのほど、人工知能(AI)を使った材料開発プロジェクト「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」で産業技術総合研究所(産総研)と先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)が金属酸化物の固体表面解析に必須の動的核偏極核磁気共鳴法(DNP-NMR)で高速・高分解能なスペクトルを得ることができる測定技術を開発したと発表した。固体材料表面の高速・高精度解析が可能になり、触媒の合成や表面処理などが革新的材料の開発時間を大幅に短縮できる。

 固体触媒の開発では、触媒表面の化学構造を知るために酸素をはじめとする各種原子核のNMR測定が重要だが、四極子核に対する測定感度とスペクトル分解能が低く、適用範囲はH、C、N、Siなどに限られていた。

 今回、マイクロ波照射で感度を上げるDNP-NMRに、四極子核測定を可能にする新設計の照射プログラムと高分解能化のための新型パルスプログラムを組み込むことで、固体表面の四極子核の高速・高分解能の観測が可能となり、O、Zn、Mo、TiなどのNMRスペクトル観測に成功した。

 触媒担体として汎用されるγ-アルミナ(Al2O3)は、従来のNMRではAl-O結合に由来する構造が示唆されるだけであるのに対し、今回Al-Oの各ピークが分離され、3配位、4配位、6配位構造と、表面上にのみ存在する5配位構造が実測できた。

 引き続き、同事業で様々な金属酸化物の表面構造を詳細に解析し、高度な計算科学や高速試作・革新プロセス技術、先端計測評価技術を融合し、材料開発の加速と製品性能や製品寿命に優れた超先端材料の開発に貢献する考えだ。

 

産総研 透過光量を抑制する液晶材料の熱安定性を向上

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2021年9月10日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、神戸市立工業高等専門学校(神戸高専)、大阪有機化学工業と共同で、透明と白濁の切り換え繰り返しで高い耐久性をもつ液晶と高分子の複合材料を開発したと発表した。液晶と異方構造を有する高分子(異方性高分子)の複合材料は、生活温度付近で、低温で透明、高温で白濁に切り換わる機能をもち、調光ガラスなどへの応用が期待されている。

 近年、建物や移動体の省エネ化とユーザーの快適性の両立が着目され、有用な部材の開発が進んでいる。窓は太陽光を取り込むために必須である反面、太陽熱は冷暖房負荷や快適性に大きく影響する。調光ガラスは、太陽光の入射量を制御する部材で、様々な方式が提案されてきた。例えば、電気や雰囲気ガスで動作させるタイプは、ユーザーが切り換えたり自動化したりできる点で利便性が高く、特に電気方式はすでに上市されている。しかし、施工時の配線など設置条件や導入・運用費用にまだ課題が残る。それに対し、熱応答型は電源を必要とせず、施工後の後張りや必要に応じて剥がすといった取り扱いの容易さなどで有利な面がある。

 産総研は、多様なニーズに応えるため、電気、ガス、温度に応じて光の反射、吸収、透過が変わる様々な調光ガラスの開発を進め、それぞれの特徴を生かした提案を行ってきた。こうした中、3者は共同で、可視光の直進透過率を80%以上かつ太陽光の透過率を20以上制御する熱応答型の調光材料を2019年に開発。透明/白濁の繰り返し耐久性に課題があったが、今回、異方性高分子を架橋剤で網目構造化したことで、材料の熱安定性が高まり、繰り返し耐久性が大幅に向上。窓ガラスのメンテナンス保証期間(10年程度)に相当する回数で温度変化を繰り返しても持ちこたえる耐久性向上を達成し、実用化のめどがついた。次の段階では、耐久性と並ぶ実用化の課題であるコスト削減に着手する。

 一方、ガラス基板を用いた調光ガラスは、新築建物などの窓ガラス施工時の導入が想定される。国内にはすでに窓が設置された既築物件が多くあり、同技術を普及させるため、今後、後張りできる柔軟性のある透明基材による調光フィルムの開発に取り組む考えだ。

 

浜松ホトニクスなど 指先サイズの波長掃引レーザー開発

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2021年9月8日

 浜松ホトニクスはこのほど、独自の微小電気機械システム(MEMS)技術と光学実装技術を活用し、従来製品の約150分の1の世界最小サイズの波長掃引量子カスケードレーザー(QCL)を開発した。これにより、全光学式の分析装置を小型化できる。 

従来比約150分の1となる世界最小サイズの波長掃引QCL
従来比約150分の1となる世界最小サイズの波長掃引QCL

 火山の噴火予知のために火口付近の火山ガス中の二酸化硫黄や硫化水素などをモニタリングする際、電極でガスを検知する電気化学式センサーによる分析装置が多く使われるが、電極は火山ガスと接し性能劣化し短寿命であるため、長期間の安定的モニタリングにはメンテナンスが欠かせない。また全光学式の分析装置は、省メンテナンスで高感度、長期間安定して使用できるものの、光源が大きく装置が大型であるため、火口付近への設置は難しい。

 そこで、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が進める「IoT社会実現のための革新的センシング技術開発」で、同社と産業技術総合研究所(産総研)は昨年から小型・高感度・高メンテナンス性の全光学式次世代火山ガスモニタリングシステムの研究開発に取り組んでいる。

 光源のQCLは、中~遠赤外波長領域の高出力半導体レーザー。波長掃引QCLは、その光を高速で角度が変化するMEMS回折格子で分光し、波長を高速で周期的に変化させて出力する。MEMS回折格子を従来比で約10分の1に小型化し、小型磁石の採用と独自の光学実装技術により、従来の約150分の1にまで小型化(約5㎤)した。仕様は波長分解能約15㎚、掃引波長範囲7~8㎛、掃引時間20ミリ秒以下、最大ピーク出力約150㎽だ。これを産総研開発の駆動システムと組み合わせることで、高速動作と周辺回路の簡略化を実現し、光源として搭載することで分析装置を持ち運び可能なサイズまで小型化できる。

 今後、小型・高感度・高メンテナンス性の次世代火山ガスモニタリングシステムを構築し、多点観測などの実証実験を進める。また、浜松ホトニクスは同開発品と駆動回路や同社の光検出器を組み合わせたモジュール製品を2022年度内に発売し、化学プラントや下水道での有毒ガスの漏えい検出や大気計測など、応用拡大を図っていく考えだ。

NEDOなど バイオマス由来のBRでタイヤ試作に成功

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2021年9月2日

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、産業技術総合研究所(産総研)、先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)、横浜ゴムと共同で、バイオエタノールからのブタジエンの大量合成、ブタジエンゴム(BR)の合成、自動車用タイヤの試作という一連のプロセスの実証に成功した。 

バイオマス由来のブタジエンゴムで試作したタイヤ
バイオマス由来のブタジエンゴムで試作したタイヤ

 ブタジエンは現在、合成ゴムなどの重要な化学原料として石油から生産されているが、バイオマス(生物資源)からタイヤを生産する技術を確立することで、石油依存を低減しCO2削減と持続可能な原料の調達を促進する。

 NEDOは「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト(超超PJ)」で計算・プロセス・計測の三位一体による有機・高分子系機能性材料の高速開発に取り組み、バイオエタノールからブタジエンの高速・高効率合成技術を開発した。

 2019年には触媒の配合状態や反応条件に関する大量のデータを取得・解析するハイスループットシステムとデータ駆動型学習、触媒インフォマティクスにより、世界最高のブタジエン収率をもつ触媒システムを開発し、BRの合成にも成功。さらに2020年にはブタジエン収率を1.5倍に高めた。

 今回、産総研が、バイオエタノール処理量が従来比約500倍(1L/時)の大型触媒反応装置を設計・製作し、反応温度やエタノール流量などの反応条件の最適化と生成ブタジエンの捕集方法の改良により、連続反応で約20kgのブタジエンを製造。ADMATが生成ブタジエンを蒸留して高純度化し、横浜ゴムが高純度ブタジエンを重合してゴム化した。これと天然ゴムのみで試作したタイヤは、従来の石油由来ゴムを使用したタイヤと同等の性能を示した。

 今後、超超PJでは成果を実用化するための材料設計プラットフォーム構想を進め、その中のハイスループット触媒開発装置群の構築とデータ蓄積をさらに進める。生産性の向上や他の材料開発への適用などを加速させ、サステイナブル資源の社会実装に挑戦し、カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現に貢献する。

 

日本ゼオン AIを活用し物性を予測、機能性材料の開発加速

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2021年9月1日

 日本ゼオンはこのほど、2017年から参画している新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」を通じて、AIにより材料の構造画像を生成し、高速・高精度で物性の予測を可能とする技術を共同開発したと発表した。なお、同プロジェクトには同社のほか、先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)、産業技術総合研究所(産総研)が参画している。

 昨今、材料開発のさらなる高度化・高速化の要求が高まり、ディープラーニング(深層学習)などの情報処理技術を利活用する動きが活発化している。これは、様々な材料データをコンピュータに学習させることで、高性能な新しい材料の提案を可能とするAI技術で、人の勘や経験に頼る従来の材料開発を高度化することができる。しかし、コンピュータ上で扱える材料は構造が定義できる低分子化合物や周期構造をもつ金属、無機化合物に限定されることが大きな課題だった。

 こうした背景の下、同プロジェクトではカーボンナノチューブ(CNT)をはじめとする機能性材料開発の高速化を目指し、データ駆動を活用した研究を推進。3者は共同で、より汎用性の高い材料へディープラーニングを適用する手法を開発した。

 今回の技術では、まず複雑な構造をもつCNT膜の構造画像と物性をAIに学習させる。その上で、種類の異なるCNTを任意の配合で混合した様々なCNT膜の構造画像をコンピュータ上で生成することで、その物性の高精度な予測を可能にした。この技術は、従来のAIでは適応できなかった複雑な構造をもつ材料の組成選定・加工・評価といった一連の実験作業をコンピュータ上で高速・高精度に再現(仮想実験)することを可能にするもので、材料開発のさらなる加速化が期待できる。

 日本ゼオンは、今後も同プロジェクトを通じ、CNTをはじめとするナノ材料と高分子材料との複合材料を対象としたAI開発技術に取り組むとともに、幅広い材料へ適用可能な技術開発につなげ、新技術と新材料開発の可能性拡大に貢献していく。

産総研など 緊急事態宣言下の住宅街のCO2排出量変化

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2021年8月31日

 産業技術総合研究所(産総研)と国立環境研究所、明星大学はこのほど、東海大学代々木キャンパス(東京都渋谷区)内の観測タワー上での大気組成の高精度観測に基づき、新型コロナウイルス感染拡大に伴う2020年4~5月の緊急事態宣言期間の代々木街区のCO2排出を排出源別に評価した。CO2排出総量は例年比で約20%低下。自動車などの石油消費が約40%減少した一方、外出自粛の影響で都市ガス消費は約20%増加していた。

 産総研と防衛大学校は2012年から同観測タワーで大気中のCO2とO2の高精度濃度観測行っており、CO2排出とO2消費の交換比(OR)を利用したCO2排出量の排出源別評価手法を開発してきた。ORは排出源ごとに異なり、石油消費は1.44、天然ガス(都市ガス)消費1.95、石炭消費1.17、陸上植物活動1.1、人間呼吸は約1.2と推定される。

 渦相関法(濃度と風速から解析)によるCO2排出総量と、傾度法(濃度の高度勾配と乱流拡散係数から算出)によるO2消費総量/CO2排出総量比(OR)、排出源ごとのORから、排出源の分離を行った。人間呼吸と植生の寄与は、人口統計や植生面積を考慮して別途評価し、石炭消費は考慮していない。

 緊急事態宣言期間のCO2排出量は、例年に比べ日中に顕著な減少傾向を示し、夜間は同等であった。これは、代々木街区近郊の自動車交通量の統計データ、外出自粛による居住人口の変化を考慮した都市気候モデルによる都市ガス消費量の推定結果、とおおむね整合した。また、国立環境研究所が同時に観測しているCOとCO2の関係も、自動車由来のCO2排出量の減少を支持する結果であった。

 今回の手法は、ゼロエミッションに向けたエネルギー消費構造の変化を評価する有効なツールになり得る一方、複数の高度な観測技術を組み合わせた解析であるため、他地域での評価には制約がある。今後は、観測手法の簡易化を目指し、局所大気輸送モデルを組み合わせた解析により他地点の限定的な観測データも活用し、より広域のCO2排出源評価への応用を進めていく考えだ。

 

産総研 固体酸化物形燃料電池で最高レベルの発電性能

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2021年8月23日

 産業技術総合研究所(産総研)のゼロエミッション国際共同研究センターはこのほど、ナノ構造制御した高性能空気極を開発し、固体酸化物形燃料電池(SOFC)単セルで世界最高レベルの出力密度を達成した。「固体酸化物エネルギー変換先端技術コンソーシアム(ASEC)」でプライマリ会員の大阪ガス、京セラ、デンソー、森村SOFCテクノロジー、三浦工業と産総研による「革新セルスタックプロジェクト」の取り組み。

 SOFCは他の燃料電池より発電効率が高くすでに市販化されているが、システムの大きさや製造コストが普及への課題だ。セルの出力密度向上を目的に、電極反応抵抗の小さな空気極の開発に取り組み、今回パルスレーザー堆積(PLD)法で自己組織化ナノ複合空気極と、その性能を十分に発揮するためのナノ柱状多孔質集電層、ナノ複合化燃料極機能層を開発・搭載した。

 従来の空気極材料には単一または複数の金属酸化物との混合物である多孔質焼成体が使われ、その粒子径は数百㎚から1㎛程度である。今回PLD法により、二種類の材料が太さ数10㎚程度の柱状構造の中に各々幅数㎚の縞状で存在する交互配置構造の作製に成功した。燃料極機能層は、水素の酸化反応を促進するために燃料極支持体と電解質の間にあり、サブミクロン程度のセラミック混合物が使われる。

 今回、噴霧熱分解法により、10㎚程度の一次粒子を凝集、二次粒子化した粉末を作製。セル全体の抵抗低減と緻密な薄膜電解質の形成を向上させる。空気極集電層は電極反応のための電子を供給する層で、通常1㎛程度の粒子からなる。今回PLD法で作ったナノ柱状多孔質集電層は、数十㎚程度の領域ごとに電気的接続をし、電極全体の効率を上げた。これらの新規材料を搭載した単セルは、電極反応抵抗率0.01Ω/㎠、700℃での出力密度4.5W/?以上、SOFCセルの一般的な作動電圧0・8Ⅴでの電流密度三A/㎠で、従来の一般的なセルの6~10倍の電流値を実現。これによりセル枚数は10分の1程度にでき、コストの大幅削減とシステムの小型化が見込まれる。

 6月から開始したASEC第2期では、構造安定化による電極の長寿命・高信頼性化や、量産化への適応性検討などを進めるとともに、これら部材を搭載する技術の早期実用化を図る。

産総研 透明電極の結晶化抑え透明有機デバイス高性能化

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2021年8月5日

 産業技術総合研究所(産総研)はこのほど、透明酸化物電極(透明電極)を使った透明有機デバイスの性能が透明電極の結晶化を阻害することで大幅に向上することを見出だした。窓のように透明性が要求される場所へも透明有機デバイス搭載が可能となり、用途が大きく広がる。

 有機デバイスは形状がフレキシブルであるため、皮膚などの複雑な形状の表面へも設置できる電子デバイスとして注目される一方、非透明であるため透明性やデザイン性が求められる用途には適さない。透明電極と組み合わせることで透明化できるが、透明電極を形成する過程でデバイスの電気特性が大幅に低下してしまうという問題があった。透明電極形成時に生じるプラズマや高エネルギー粒子によるデバイスへのダメージ低減に着目し、スパッタリング製膜法も開発されたが、本来のデバイス性能には届いていない。

 一方、透明電極の結晶化度が高いほど電気伝導性が高く性能向上に有利と予測し、透明電極/電荷注入層/有機薄膜/下部電極からなる透明有機デバイスの透明電極の結晶化を試みたが、逆にデバイス性能は低下。解析の結果、結晶化した透明電極の場合、電荷注入層/有機薄膜界面にギャップが形成され、デバイス内の電気伝導を阻害することが判明した。

 結晶化した透明電極では、透明電極内の応力が緩和する際に膜が変形し、膜面方向に微小な変位(位置のずれ)が生じ、電荷注入層下面と有機薄膜の上面が形状的に合致しなくなるので、電荷注入層/有機薄膜の界面に微細なギャップが形成されることが明らかとなった。

 一般に、酸化物薄膜の膜内応力は膜の結晶性を下げると低減することから、透明電極製膜中に結晶化を阻害する微量のガスを導入したところ、膜内応力は約4分の1に低減。これで有機電界発光デバイスを作製したところギャップは無くなり、電流/電圧特性と発光特性は大幅に改善した。

 今後、透明電極内の応力のさらなる低減と透明有機デバイスの高性能化に取り組むとともに、長期間使用時の耐久性など実用面の検討を行い、実用化に向けた研究を引き続き行っていく。

 

産総研など 次世代有機LEDの発光効率低下の原因解明

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2021年7月28日

 産業技術総合研究所(産総研)、筑波大学、高エネルギー加速器研究機構、九州大学の研究チームはこのほど、次世代有機LED材料の電子の動きを直接観察することに成功し、発光効率低下の原因を解明した。

 有機LED(OLED)は、外部からの電気刺激により励起状態となった分子中の電子が元の状態(基底状態)に戻る際に発する光を利用したデバイスだ。しかし、最も多く生成する励起三重項状態は発光しにくい性質があり、この状態をどのように発光させるかが大きな課題である。

 OLED用発光材料の1つである熱活性型遅延蛍光(TADF)材料は、巧みな分子設計によりレアメタルを使用することなく、励起三重項状態を熱エネルギーによって励起一重項状態に遷移させることが可能で、内部量子効率(励起電子数に対する生成光子数)は理論限界である100%に達する。薄膜構造の制御により外部量子効率(材料内生成光子数に対する外部放出光子数)の向上が見込まれることから、単一膜デバイスが注目されているが、単一膜の励起三重項状態が発光しにくい理由は解明されていない。TADF材料の発光は、励起状態の電子の動きに支配される。

 今回、改良した時間分解光電子顕微鏡を使い、TADF薄膜のTADF発光過程の電子の動きを直接観察することが可能になり、励起電子の生成・発光による失活・無輻射失活過程までの電子の動きを捉えることに成功。その結果、励起電子により生成した励起子が自発的に解離して長寿命の電子を生成し、TADFの発光効率を低下させていることを突き止めた。この励起子解離の過程と量を捉えられる観察手法は、TADF薄膜の光物性の系統的な解明に資するものだ。これにより、まだ十分な理解が得られていないTADF発光過程の詳細が明らかになり、TADF薄膜材料を利用した超高効率OLEDの開発推進が期待される。